11 護衛と商人
ブクマ&お読みいただきありがとうございます。
あっちも困ってるらしく、お互い見詰め合ったまま首を傾げ合う。暫くそうしていたら痺れを切らしたのか馬車が近づいてきた。
「おいおい、何時までやってるんだ」
もう一人の護衛らしき男が、呆れた顔をして剣士さんに視線を向け、何事か合図を送る。それに剣士さんが小さく頷いて緊張を解いた。
後から来た方は……うーん、同年代かな? 無精髭でよく判らん。
防具自体は似たような感じだけど、この人は剣を持ってない。代わりに短剣を数本持っている事から、盗賊系職の人と推測。
そういえばゲーム時代も思ってた事だけど、犯罪を犯した訳でもないのになんで盗賊って言うんだろうね? いやスキル的にはそうなんだけど、イマイチ納得出来ないんだよ。他に良い呼び名は無かったのかと小一時間問い詰めたい。
ちなみに私も盗賊やったけど犯罪は犯してないよ! ひたすら友人宅にある鍵という鍵を開けまくったり、人に見せられなさそうなアレなモノを探し出して玄関に放置したりしてたけど。
友人たちは私が転職した時は泣いて喜んだらしい。なんでさ!
あ、暗殺者の時はちゃんと暗殺のお仕事してました。NPC犯罪者相手にだから合法なんで、勿論前科はつかなかったよ!
……話が逸れた。
さっきの合図からして盗賊さんは周囲の気配でも探っていたのかな? こういう時のパターンとしては、私を囮にして森の中から野盗が~って感じなんだろうけど、心配しなくても大丈夫ですよー。罠なんて無いから。
それにほら、私は(見た目だけなら)何処にでも居るか弱い只の子供ですから!
そんな事を考えながらボーッとしてたら、最後の一人、多分商人さんがやってきた。
いや、あれ絶対商人さんだ!
四十代くらいのその人は、某有名ゲームの商人さんを彷彿とさせる風格を漂わせていた。まんまるなお顔に大きなお腹、商人さんはこうあるべきと言いたげな体型は……デフォ? デフォなの!?
脳内でツッコミしつつ見上げていたら、商人さんは私の前に膝を突いて視線を合わせてくれた。お、この商人さんは良い人ですね!
「ビックリしたのかな? 大丈夫、怖くないよ。近くにお父さんかお母さんは居るかい?」
「居ません」
その言葉に首を横に振って答える。地球にもアルーセアにも親はいませんよー。可愛い息子と、何故か兄と姉はいるがな!
咄嗟に声を出しちゃったけど、まぁいいか。どうやらこの商人さんも『父親』属性持ちらしく、私を見る目がとっても優しいし。
優しい人は本能で判るのです! 多分! 居ないと言った所為か憐憫も混ざってるけどさ。
少しでも会話が成立しちゃえばもう知人。お母さんの言い付けは今回も守られませんでした。取り敢えずこのままじゃ埒が明かなそうなので、テンプレ設定を話してみる事にします。
「――で、おじいちゃんが死んじゃったから森から出てきたの。おじいちゃん以外の人に合うの久しぶりだったから、さっきはビックリしちゃった」
目覚めてからは初めてだしな。神様ズはノーカンですよ。人じゃないし! にしても子供らしくしようと思って口調を幼くしてみたけど、思った以上に恥ずかしいな、コレ……
「そうかい、そうかい。大変だったねぇ。これから行く所は決まっているのかい?」
「ううん。どこか人が居る所に行こうと思ってるけど、決まってないよ」
そう言うと、商人さんは少し考える素振りをしたあと、護衛の二人に顔を向けた。
「この子を一緒に連れていこうと思う。報酬も上乗せするが、どうかね」
「こっちは構いませんよ」
剣士さんが即座に了承する。周囲に危険がないからか、報酬が上がるからかは判らないけど、さっきより随分和やかな雰囲気ですね?
「お嬢ちゃんもいいかい?」
商人さんは私にも声を掛けてくれた。勝手に決められても嫌なのでちゃんと聞いてくれるのは嬉しいです。もし勝手に決められてたら寝静まった頃に逃げ出すつもりだったけど。
「はい! ありがとうございます」
きちんとお礼を言ったら、「偉いね」って笑って頭を撫でてくれました。てへ。
途中の採取が出来ないのがちょっと残念だけど、それはそれ。馬車でのんびり行けるなんてラッキーだね!
――なんて思ってた時期が私にもありました。
はい、ご多分に漏れず現在進行形でお尻が痛いです! よく小説で見てたので知ってると思ってたけど、どうやら『つもり』なだけだった模様。
商人さん改め、ラディムさんの隣――御者台にお邪魔してるんだけど、結構良い馬車なのかちゃんとクッションも付いてるだよ?
それなのに、移動を開始してから数時間、まだお昼にもなってないのにこの痛み! お尻割れちゃう!
ラディムさんも気付いているようで、隣で苦笑いしてます。
果たして私は残りの日数を耐え切る事が出来るのか!? 激しく心配です……。