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だから道具屋だって言ったでしょ!  作者: 朱巴
ローサリエ王国
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09 わんことわたし

ブクマ&お読みいただきありがとうございます。


 閉じた瞼を白く染める光に顔を顰め、私は浅い眠りから浮上した。遠くから聞こえる小鳥の囀りが穏やかな一日の始まりを報せている。


「うー、まぶし……」


 腕で光を遮って薄く目を開けると、生い茂る木々の隙間から爽やかな朝の日差しが差し込んでいた。何故か、


 私 の 顔 面 だ け に !


 まぁ寝覚めは良い方ですし? ある意味スッキリ目は覚めましたとも。ええ。


 昨日眠る場所を探していた時、いくら二百メートルの壁があっても眠れば無防備になるからと、用心して木の上で眠った。だから森の中で地面よりは先に陽が当たるのは解る。

 でも、でもだよ? ピンポイントで顔だけってないわー。さっさと起きろってことですかね?


 私はフードを下ろして日差しを遮り、視線を左手に向けた。手首には幾つかの腕輪に混じって今まで無かった白金の輝き。それの繊細な蔦模様を指でなぞりながら大きく息を吐いた。

 どうやら夢ではなかったらしい。道理で疲れが取れた感じがしないけわけだ……


 神様ズとの会話を思い出しながら、『探索』のスキルを使う。

 前回の結果とは異なり、青や赤の光点が私の周囲を不規則に動き回っていて、壁が無くなっているのが解る。早速腕輪の効果を確認することができた。


 次にステータスを呼び出す。

 まず最初は名前の変更。面倒だからフルネームは止めて愛称の『サーヤ』で統一しよう。年齢は……千五百年分が加算されて凄い事になってたので、肉体年齢に合わせて十二歳にしておく。私ハ何モ見ナカッタ!

 レベルの累積部分も隠蔽。NPCには無いだろうし、こんなんバレたら化物扱いされそうだわ。


 数値は基準が判らないので後回しにするとして、問題はスキルかな?

 そう思いスキルの項目を見て、そこにズラリと並んだ数の多さに眉を顰めた。

 マース様はエニティア――プレイヤーは私一人だけだと言っていた。と言うことは今後NPCの中で生活していく事になる訳で。

 確かゲーム時代にプレイヤーが作った?NPCの所持スキル枠は最大で八つ、一般のNPCはやっぱり不明。取り敢えず無難に、今の私の見た目にそぐわないスキルは消して、残りから実用的なのを五つくらい残そう。


 あ、その前に私の背景決めないと! テンプレにちょっと色を着ければいいかな。山……は近くに無いから森の中で生活してた事にして、狩りも多少は出来ないとマズイよね。

 スキルレベルも下げて、と。うん、こんな感じでいいね。


 スキルに隠蔽を掛けつつ頭の中のリストをスクロールさせていくと、スキルの下に『祝福(ギフト)』の項目を発見。見ると『インベントリ』と『模造(コピー)』の名前があった。


 あー、インベントリさんはここにきてるのか。そして『模造』、これがルーナ様が言ってたスキルかな?

 ルーナ様の言葉と名前から考えても便利スキルっぽいけど、あんまり変なヤツじゃないといいな。

 そう思いながら、恐る恐る説明を見ると――


模造……自分が作った物に限り魔力を代償に模造する事ができる。作成物のランクに応じて魔力消費量が変わる。(材料は同量必須)


「…………うわぁ」


 これ、アカンやつだ!

 生産チートきちゃったよ!?


 レベル一だからか成功率と精度は低い――それでも八十%はある――けど、一つ作るのに三十分掛かる物が魔力でポコポコ作れるって事!?

 えげつなっ! えげつないよ、ルーナ様!!

 でも、在るスキルを使わない選択肢のない私は先に謝っておきます!


 一般生産職の皆さんゴメンナサイ!!


 『模造』も隠蔽して、心の中で涙を流しつつリストの確認を続けると、最後に『加護』の項目があった。そこが視界に入った瞬間、私は魂が抜けるかと思うくらい真っ白に燃え尽き……なかった!


『お兄ちゃんの愛』 『お姉ちゃんの愛』


 かみさまぁぁぁ! なに遊んでんですかぁぁぁ!


 もうツッコミ入れる事しか出来ないわ!!

 しかも地味に良効果だし!


 ちなみに、『お兄ちゃん』はスキル習得率アップ、『お姉ちゃん』は魔力回復量アップでした。明確な数値がないのに作為を感じるのは気のせいですかね……





 インベントリから食糧を出して軽い朝食を取ったら、なんとか気力が回復した。朝ご飯大事。


 何時までも木の上に居ても仕方がないので、十日遅れだけどそろそろ最初の予定通り東の道まで移動しようと思う。その後は気分って事で。


 用意も終わって――と言っても食べた残りを仕舞うだけだけど――さあ出発!と立ち上がろうとしたら、膝の上に何かが乗ってるような違和感。

 外套の上から触ってみると、丸くてちょっとフカフカしたような感触がある。そっと外套をめくり膝の上を見れば、そこには銀灰色の毛玉が鎮座していた。はて、これは一体?


 指先で表面を撫でると、毛玉の一部がゆっくりと動いた。そのままじっと見詰めていると、今後は小さな三角がピルピルと動く。


「……わんこ?」


 私の声が聞こえたのか、小さいわんこは頭を上げて「キュ~ン」と鳴いた。

 うっわ、何コレ超可愛いんですけど!?


 驚かさないように静かに持ち上げて視線を合わせる。半分眠っているようなわんこの瞳は、昔テレビで見たシベリアンハスキーと同じ、晴れた夏の空のような透明感のある綺麗な青。

 宝石のようなそれに魅入っていると、はっきり目が覚めたのかわんこが元気良く鳴き出した。

 と同時に頭の中に思念が流れ込む。


『ままっ、まま!』


「え、ママ? ……って私? ていうか、お前話せるの!?」


 驚いてわんこに話し掛けると「ヒャン!」と鳴いてフサフサの尻尾をブンブン振り回す。いや可愛いけど、会話出来るだけの知能があるのは幻獣種だけだよ!?


 何故にママ?と色々考えて思い出した。

 ゲーム時代に居た『従魔』は、調教して従わせるタイプと卵で手に入るタイプ――卵タイプはイベント産か課金産で、イベント産から産まれるのはランダムだった――があった。プレイヤーの魔力で温めて卵から孵った『従魔』は、魔力の元であるプレイヤーを『親』と認識して、信頼度が下がる事はない。確か私も温め中の卵を持っていたはず。


「でも、何で今? ……あれ、もしかしてお前はガルス様の所にいたの?」


 そう聞くとまた元気な返事が返ってきた。

 じゃあ、預けるって言ってたのは私の従魔かい。なんでガルス様が?とは思ったけど、あの時驚いてたのはこの仔が原因かな、くらいしか分からないので他はスルー。ただ、素材を複数頼んだのはちょっと悪かったかな、と思った。思っただけだけど。


『まま、なまえちょうだい!』


 その思念(こえ)に我に返る。そうそう、名前付けないと完全な従魔契約出来ないんだったね。


「じゃあ、綺麗な空色の瞳をしてるから、『ソラ』でいいかな」


『うん!』


 名前を告げると、契約が成されてソラの身体が淡く光り、前足に従魔の証であるリングが填まる。と同時に、私の腕輪の一つにソラの瞳と同じ色の石が現れた。


 従魔の腕輪かぁ、ゲーム時代は五個の石が付いてたんだけどな。そう思いつつ見ると、今増えた石の他にもう一つ、暗いアイスブルーの石が残っているのに気付いた。


「あ……」


 息のような声が零れて視界が滲んだ。

 嬉しくて、嬉しくて。涙が溢れて止まらない。


 今まで考えないようにしていたけれど、本当は世界に一人きりは寂しかったんだよ。

 でも、まだ待っててくれてる仔がいるんだね。


 そっと、暗いままの石を撫でながら、温かい気持ちで涙を流した。


 今はリンクが切れてて会えないけれど。


「いつか、会えるかな……」


 小さく呟いて、私は祈るように目を閉じた。






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