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サイズと言う物を考えろよ

 腹ペコ青虫を退け、オレはさらに2階に進んだ。


 それにしても、何故あいつらが現実であるこの世界にいるんだ?まるでわけがわからん。


 夢か?いや、でもはっきりとかぶをこの手で握った感覚はある。これはいったい?


 まぁいい。夢だろうが現実だろうが、そんなことは後回しだ。


 そう、俺には今日中に漫画を返さないといけない使命がある。なんとしてでも漫画・ライトノベルコーナーがある三階に行かなくては!


 ああ、そうだ。もう、ここは2階だったな。っ言っても、2階は実用書と小説があるだけだ。何も法律の本から弁護士とか、鞄持ったビジネスマンが出てきても何も怖くねぇな。あれに比べれば。

 

 小説もあれだろ。夏目漱石とか森鴎外とか、ガチの純文学ばっかだろ?何も、そこまで・・・、


「貴様!何奴だ!我輩は花和尚呼ばれるおとこ魯智深ろちしんであるぞ!」


 えっ!?


 ふっと、声のした方向を見ると、そこには恰幅が大変良かったが、ぶよぶよした脂肪まみれの太った和尚が現れた。こいつはお坊さんらしく頭は丸めており、修行僧っぽい格好をしているが、ひげはたっぷりと蓄えているし、顔立ちもおせじにもいいとはいえない。しかも、なんか酒臭いぞ?その手には大きな錫杖しゃくじょうが持っており、あのしみはなんだろうか?まさか血か?


 何だあいつ?やべぇよ・・・。つーか、こいつ本当に和尚か?一体何の作品のキャラクターだ?


「おい、小僧!聞いてるのか!?今日我輩は上人に『破門』を言われるわ!酒は切れるわ、肉は食えないは!最悪な日で気分が悪いんだ!その分我輩はいつもより気が短いんだ!早くしないとその胴と首が離れるぞ!」


 思い出したぞ!こいつは破戒僧、魯智深ろちしんだ!


 確か、水滸伝の主人公格の一人だ。原作のこいつの活躍は悪い肉屋を殴り殺して、それで国から身を隠すために出家した奴だ!


 その割には酒は好きだし、暴れん坊者って厄介な奴だった記憶がある。しかも、こいつ強かったぞ!


 くそっ!誰だよ!ここに水滸伝を置いたやつは!出てこいよ!


「待て、そなたは中々の武人と見た。そなたに私は決闘を申し込みたい!」


 今度は誰だよ!?


「わが名は誇り高きアーサー王の騎士であり、誇り高きランスロットの息子、円卓の騎士ガラハッドである!」


 その声の主はヨーロッパ系の顔をしていた。ただ、これだけいうと普通だ。


 だが、こいつは銀色の甲冑を身にまとい、腰元には直型の剣が携わっていた。


 明らかに魯智深ろちしん同様にこの時代に似合わない人物だ。


 しかし、その顔立ちはあのハゲとは違って、西欧系らしくブロンドの長い髪に鋭い切れ目がちの美男子であった。背もオレよりは小さかったが、それでも歴戦の騎士らしい貫禄がこいつにはあった。


 ガラハッド・・・。っていうことは「アーサー王物語」の円卓騎士の一人か。確か聖杯を見つけて、それで突然何か天に召されって聞いたな。


 オレ、アーサー王物語はよく読んでないからわからないが、たしかこいつもめっちゃ強かった気がするぞ。


「誰だてめぇは!変な格好しやがって!この魯智深ろちしんさまに一騎打ちを申し込もうとは随分といい度胸じゃねぇか!」


「ふっ、随分自信があるようだが、そなたに私の剣さばきがかわせるかな?」


「ほざけ!小童が!」

 

 何か、勝手に争い始めたよ。何?戦闘民族なのか?こいつらは?


 そんな所で夢の戦いしなくていいから。


 そう思うオレを尻目に魯智深ろちしんとガラハッドは一騎打ちを始めた。馬に乗って戦えよ。


 それにしても、なんだよこの微妙なチョイスは。せめて、林沖とランスロットだろ。何だよ、魯智深ろちしんとガラハッドって。


 オレはやれやれと思いながら、すぐ近くにあった階段を上ろうとした。

 

 そのとき、


「いあ!いあ!くとぅるふふんだぐえ!いあ!いあ!くとぅるふふんだぐえ!」


 めっちゃ不吉な声を聞いた。


 振り返るとなんかものすごい非科学的な建造物があるじゃないですか。


 そこからにちゃという生理的にマジ勘弁な音を立てながら、気持ち悪いたこみたいな頭をした怪物が現れたぞ!


 きめぇ!何か失った気がするぞ・・・。


「なんじゃ?あの変な化物は?でかいたこか?」


「何だ?巨大な・・・悪魔・・・?何故ここに・・・?」


 魯智深ろちしんとガラハッドは巨大なモンスター、クトゥルフを見て二人同時にそう言った。

 

 へぇー。たこと悪魔ね。東洋と西洋でこんなにも反応違うとはねぇ。


 って、そんなこと考えている場合じゃねぇよ!


 なんだよ!この状況は!ああ、もう何もめちゃくちゃだよ。


 こんな所構っていないで、さっさと3階に行って漫画を置いていかないと・・・。


「おい!一時休戦だ、変な外見の奴!!あの蛸野郎をぶっ潰すぞ!」


「はい!円卓の騎士として、この悪魔の存在はすぐにでも倒しましょう!」


 はっ?こいつらマジでクトゥルフ倒す気なのか?


 いやいや!サイズ差を考えろよ!


 あっちはこの2階に入る限界の大きさなのに、お前らは普通の人間だろ!あっ、普通じゃなかったな。


 じゃなくて!


 そうこうしている間にも、クトゥルフは魯智深ろちしんとガラハッドに気付いたらしい。


 オレは驚いた。まさか、クトゥルフが縮むとは思わなかったからな!


 クトゥルフは足元にいた突然現れた狂信者たちを踏み殺すと、魯智深ろちしんとガラハッドを襲おうとした。


 まずい!このままだと、あいつらが死ぬかもしれない!


 相手はあらゆる創作物の最強の存在、邪神クトゥルフだ!


 倒せるわけがない!


 どうなるんだ?こいつらはおそらく“小説”の世界の登場人物。


 もし、魯智深ろちしん死んだら、水滸伝の物語は進まない。ガラハッドが死んだら、聖杯を見つけることができない。


 死。オレはこいつらを見捨てるのか?オレはそんなことができるのか?


 でも、こいつらは小説の世界の人物。キャラクターだ。


 それにこれは夢だ。1階であった出来事もこれも。


 オレは・・・。オレは・・・。


 そうこうしている間にも、クトゥルフの鋭いカギ爪が二人をあっさりとなぎ払った。


 当然、二人は倒れた。


「ぐっ・・・。少し大きさというものを考えた方がいいですね・・・」


「ああ、まったくの同意だ・・・・」


 考えているはもうないな。


「!?お前はさっきの小僧!何故、いきなりこっちへ走り出すのだ!?」


 気がついたら、オレはクトゥルフの方へ走り出した。


 くそ、すぐにあの蛸野郎。こっちに気付きやがった!


 だが、お前を倒す方法は一つだけある。

 

 オレは一直線にある所に向かい、そして一冊の本を取った。


「本の世界のキャラクターたちが出てくるならよぉ・・・。物も出てこないほうがおかしいよな!」


 オレはその本の表紙を掴んで、パラパラと開いた。それもクトゥルフの方に向けて。


「さぁ、出てこい!世界の船たちよ」


 しかし、オレの考えと裏腹に船は本から出なかった。

 

 どういうことだ!


 じゃあ、何でこいつらは本の外にいるんだ?くそっ。


 ああ、そうこうしている間にクトゥルフがかぎ爪を振りかざしてきやがった。


 もう駄目だ。いっそ、本の世界に逃げれたら。


 オレがそう思った瞬間だった。


 突如、オレが手に取った「せかいのふね図鑑」が変な空間を生み出したのだ。


 な、なんだ?オレは呆気を取られているうちに、そのまま「せかいのふね図鑑」の空間の中へ入ってしまった。


◆◇


 うおおおおおおおおおお!


 はっ、ああびっくりした。夢か。


 それにしても変な夢見せやがって。


 オレが変に安心、心底ではびくびくしながら起き上がった。


 すると、辺り一面船だった。


 360度どこを見ても船だった。


「は?」


 何だこれ。異世界か?

 

 いやいや、異世界と言えば「剣と魔法のファンタジーの中世ヨーロッパ」でしょ。


 これが異世界のわけねぇよ。


 ・・・・。

 

 船しかねぇよ。どうすんだ、これ。


 とりあえず、適当に見てみるか。


 う~ん。オレはあまり船興味ないからわからないが、この豪華客船とかすごいな。


 中に入ってみたいが、とりあえず元の世界への戻り方を探そう。


 そう、思った瞬間だった。


 今度はオレの体が光に包まれた。


 な、なんだ?


 オレはとっさに近くにあった豪華客船に触れたまま、光にすっぽりと包まれた。


◇◆


「ぬがああああああああああああああああぁぁぁぁぁ」


 オレが光から解放されると目の前にクトゥルフがいた。


 しかも、当然の如くカギ爪を振りかざして、オレを仕留めようとしていた。


 戻ってきちゃったよ!戻るんじゃなかった!くそっ、オレの人生これで終わりかよ!


 せめて、せめて。彼女は欲しかった。


 その時、ドカッという鈍い音がクトゥルフから聞こえた。


 見ると、豪華客船がクトゥルフに突き刺さっているではないか。


 クトゥルフはうめき声をあげると、そのまま毒々しい霧状になり、地面に落ちていた本の中へと消えて行った。

 

 こうして小説の展開どおり、クトゥルフは撃沈した。


 さらに地面に倒れていた魯智深ろちしんとガラハッドも霧状になって、地面に落ちた本の中へと消えた。


 豪華客船も同じだった。


「・・・やったのか?」


 オレは何が起こったのか、わからなかった。


 ただ、変な汗が出ていて、マフラーが暑かったことはわかっている。


「やったー!変な奴らを元に戻したぞ!さぁーて、三階に・・・」


「行かせんぞ」


 オレが振り返ると、そこには三階の入り口を防ぐように二人の女性がいた。


 暗闇ではっきりと容姿はみえなかったが、二人ともかなりの美人だと言うことが分かった。


「よくぞ、私が与えた“能力”を見事に使い、この怪異を沈めたな。流石は選ばれし者と言った所かな」


 夜空の月の光が照らされ、その偉そうな口調の方の女性の容姿がオレにははっきりとわかった。


 なんとなくだが、この人が何者かオレは察した。


 この女性は女神なのだ。

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