マッチ売りの少女(もうひとつの昔話6)
雪の舞い散る夜。
少女は暗い路地で売り物のマッチをすりました。
マッチの先に小さな炎がともります。
そのほのかな灯りに、天国にいるおばあさんの顔が浮かび、少女に語りかけました。
「どんなにつらくても、おまえは強く強く生きていくんだよ」
炎が消え、おばあさんが消えます。
おばあさんは神様のもとへと帰られたのでした。
――あたし、がんばるからね。
少女は大きくうなずきました。
翌日。
少女はマッチの仕入れ先の親方のもとへと向かいました。
この日、心に強く決めていました。
マッチ売りはたいしたかせぎにならない。もうかる商品を売らせてもらうのだと……。
「親方さん、マッチはもうけがちょっぴりです。わたし、もっとかせげるものを売りたいんです」
少女はお願いをしました。
「そうだなあ。オマエもこの商売になれてきたことだし……」
親方がポンと両手を打ち合わせます。
「そうだ、ちょうどいいのがある。あれを売れば、きっとマッチよりもうかるぞ」
少女は倉庫に連れていかれました。
倉庫にあった商品は、いくつもの木箱にぎっしり詰められており、黄色い三日月が束になったようなものでした。
少女は商品を前に首をかしげました。
「これって、なんですか?」
「今朝、港に着いたばかりでな。ワシも、よくは知らないんだよ。遠い異国の果実と聞いたが、日持ちがよくないらしい。だから早いとこ、売りさばいてしまいたいんだ」
「はい、がんばって売ります」
「ところでな。これを売るとき、異国には特別な方法があるそうだ」
親方が一枚の紙を少女に渡します。
それには商品の並べ方、客を集める声のかけ方などが記されてありました。
「むずかしそうですね」
「だが、売れればマッチの何倍もかせげることになるぞ。今夜のうちに、そいつを覚えてしまうんだ」
「はい」
少女はしっかりうなずきました。
翌朝。
少女は荷車を引き、人通りの多い街中へと向かいました。
荷車には異国の商品が積まれています。
路上に商品を並べ終えた少女は、手にした棒で力強く地面をたたき始めました。
バチッ、バチッ。
この大きな音に、通りを歩く者がおどろいて振り返ります。
棒で地面をたたきながら、少女は集まった客に向かって声をはりあげました。
「バナちゃんの生い立ち、聞かせよう。生まれは、はるか南の島。親子そろってもぎとられ、カゴに詰められ船に乗り、金波銀波の波を越え……」
延々と、少女の口上は続きます。