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音芸神話 - yukito's side story -  作者: 七海 雪兎
第一章 -humanoid-
8/69

I'm so Happy !! / Ryu☆


久しぶりにこんなご馳走を見た気がする。

金はいくらでも都合はつくのだが、私自身そこまで食にこだわりがない。

故にいつも適当に食べたいものを食べたいだけ。

そんな私の前に用意されたご馳走。

実は私が用意したのではない。

なんのことはない。

ここはパーティ会場なのだ。

みな煌びやかな衣装に身を包み、楽しんでいるようだ。

会場には軽やかな音楽が流れており、中央の開けた場所で踊る者もいる。

どう見てもこの空気から浮いている私は、こうして隅っこで料理に驚いているというわけだ。

たまたま来れなくなった友人に、パーティのチケットを売りつけられたものの正直私は後悔していた。


「あの、良かったら踊りませんか?」


だからだろうか、たまには踊るのもいいかと思えたのは。

「ええ構いませんよ。……えーっと、あなたは?」

思えばこの気まぐれが、私の人生を大きく変えてしまったのだろう。

私は彼女の手をとった。








はてさて楽しい時ほど時間が経つのは早いもので、ふと彼女は時計を見上げて「すみません」と申し訳なさそうに頭を下げた。

つられて時計を見たら、もう1時間近くこうして踊っていたようだ。

実は私はあまり踊るのが得意ではなかったのだが、なんというか、彼女と踊るのはとてもやりやすかった。

「実はわたし、この後ちょっとした催し物をやるんです。それでもう……」

あぁ、いいよ、気にせず行ってください。

ありがとう、楽しかったです。

私がそう返すと、彼女はニッコリと笑ってお辞儀をし、そして少し慌てたように去って行った。

そういえばこのパーティのタイムスケジュールを知らないことに、私はいまさらながら気が付いた。

とりあえず私は目の前に置いてあったグラスを手に取り、催し物とやらを待つことにした。



それからほどなくして放送が入った。

どうやらステージの方で演劇をやるらしく、パーティの参加者がわらわらと集まっていくのが見える。

私もそれに遅れまいとステージの方へと向かった。

ところで彼女は一体この演劇で何を担当しているんだろう。

そんなことを考えるていると、会場がほのかに暗くなりどこかで聞いたようなブザー音が私の思考を奪った。

幕が上がる。

そこにあったのは、紛れもなく彼女の姿だった。



どうやらこの演劇は、誰かの一生を描いた作品らしい。

初めはとても辛く悲しい物語で、だけれども彼女は「私は幸せなんだ」と信じて疑わない。

だってこの世に生を受けたのだから。

それだけで十分幸せなのだと。

痛々しくも、とても神々しい姿だった。

そんな彼女に転機が訪れる。

それはまるでおとぎ話の王子様。

彼と彼女は恋に落ちる。

しかし彼女は彼を突き放した。

「貴方に会えた、それだけで私は幸せ。」

そう言って聞く耳を持たない彼女。

彼は諦めなかった。

本当の幸せを教えてやると、そう言った。


本当の幸せとはなんだろう。

私は考えずにはいられなかった。

彼女もいた。

金もあった。

今でももちろん得ることは出来る。

しかし私はそれで幸せなのだろうか。

自問する。

自答は…ない。


彼女は怪訝な顔した。

ならば今までの自分は幸せではなかったのか、そう言いたげに。

そこで彼は言う。

生を受けた幸せ、誰かと出会えた幸せ、それは決して嘘ではない。

でも幸せはそれだけじゃない。

共に歩む幸せ。

君は今まで幸せだった。

だからここからは新しい幸せを謳歌しようじゃないか、と。

「ならば教えて、その幸せを」




ステージ上から出演者が降りてくる。

既に演劇は終わり、辺りは拍手の渦である。

もちろん私も拍手する。

このパーティに来て良かったと、今では思う。

みんなから声をかけられる出演者たち。

その内の彼女とふと目があった。

彼女は恥ずかしそうにはにかむと、軽く会釈をしてまた観客の中に紛れてしまった。

はたしていつぶりだろうか。

自分の鼓動の音が、こんなにも大きく聞こえたのは。












「おとーさーん」

息子が呼ぶ声でハッと我に返る。

あの時の会場の前で、私は息子を待っていたのだ。

今日はここではなにも行われていない。

静かなものだ。

あの時も、外はこんな風に静かだったのだろうか。

息子が駆け寄ってくる。

手を繋いでいた彼女もつられて駆け足になる。

さながらドラムロールのようなその歩みに、私は自分の足音を重ねた。



私は幸せなのだろうか。

自問する。






間違いなく、私たちは幸せだ。


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