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音芸神話 - yukito's side story -  作者: 七海 雪兎
第 章 -leisure-
68/69

beginning:smooooch・∀・ / kors k


目を閉じると浮かんでくる。

薄暗い室内。

妙に高い室温。

わずかに香る煙草の残滓。

耳を殴りつけるような電子音。

目に映るは紫の光を帯びた機械。

その姿からは似つかわしくないキャッチ―な音楽。

人を寄せ付けたくないのか寄せ付けたいのか分からない。

そんな場所に私はいた。

どうしてそこにいたんだろう。

その問いには今でも答えられない。

導かれたのか、ただの偶然だったのか。

ともかく私は出会ってしまった。

そして引き込まれたのだ。






「ほらもっと指を動かして、立ち止まらないで」


彼女は言う。

そう言われてもまだまだ目すら追い付いていないので、指がついてくるはずもない。

あわあわとしている内に曲は終わりを迎え、下から数えた方が早いという判定をもらう。

幸いにもこのクレジットでは最後のプレーだったので、途中で終了という訳ではなかった。


「さあ顔を上げて」


しょぼくれる私に、彼女は元気を出せと励ます。

空を見上げるように天井を見つめると、なんだか少しやる気が湧いてきた。

天井そのものはただの照明ぐらいしかなかったけれど、それでもなんだか気持ちは落ち着いた。

よしと小さく零すと、周囲をきょろきょろと見回す。

順番待ちの人がいないか確認するフリをして、実はつい口にしてしまったから恥ずかしかっただけだ。

誰もいないことに胸を撫で下ろしながら、私は再びコインを取り出した。


今度こそクリアしてやるぞ。


意気込んでとりあえず今クリア出来るレベルから進めていく。

知っている曲、知らない曲。

沢山……とはいかなくてもそれなりの曲数があり、それは腕を上げるためには十分な数だと思った。


ところでこれは後から分かったことなのだが、このゲームに最初から入っている楽曲の中にはオリジナル曲はなかったらしい。

以前からこういうゲームは存在していたのだが、そちらをプレイしていた人たちはこのゲームのデフォルト楽曲を見てどう思ったのだろうか。

いつも通りだったのだろうか。

信じられなかっただろうか。

その感覚を味わえなかったことを少し勿体なく思いながら、新たな始まりを見つめることになるのはまだまだ先の話だ。


いくつかレベルも上がった頃、私はふと気が付いた。

あの時「顔を上げて」と彼女が言ったのは、ただ励ましたいだけじゃなかったのだと。

アドバイスでもあったのだ。

なるほど少し目線を上げると、確かにオブジェクトが視認しやすくなった……ような気がする。

ようやく彼女の言いたいことが理解出来た途端、気持ちが昂るのが分かった。




あ、楽しいな。




改めて思った。

リズム通りに音を叩く快感。

きっと別のゲームをしている人からすれば「ただリズムを刻むだけ」なんだろうけども、私はそれでも楽しいと感じた。

(メロディーやドラムを奏でるゲームがあるなんて知らなかった、敷居が高かったというのもあるが)


私はますますのめり込んでいく。

調子に乗って赤いのを選んで撃沈したり、クリアマークが並ぶのを見てにやにやしたり。

そうこうしている内に、私は再び彼女と相見えることとなる。

実は青と黄色の彼女は既にプレイしてクリアしていた。

残すは赤のみだ。

赤は今までの青や黄よりも、緑色のオブジェクトが嫌らしく絡んでくる。

私はいつもこれを取りこぼして、あわあわして普通のオブジェクトも零してしまっていた。

でも、今ならいける。

今の私には自信があった。

見える、拾える。

曲を決定する。

緊張してはいるものの、最初の頃と比べれば余裕がかなりあった。

対戦相手はいつものCPU。

判定ラインを指がなぞっていく。

いよいよだ。



-BATTLE START-



さあ、200余りのキスを、彼女に捧げよう。


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