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アルストロメリア -Tears with pleasure- / TAG

リメイク元:音芸神話 ~The music myth Creation~

作者:DIT


http://estar.jp/.pc/_novel_view?w=7680838


桜舞い散る今日この頃。

私はついに学生という身分を失う。

あんなに楽しかった学校生活ももうこれで終わり。

嬉しくもあり、寂しくもある。

そんな複雑な、けれど温かな気持ちで私は玄関の扉に手をかける。


もう時間だ、行かなきゃ。




桜色の空の下、季節はもうすぐ春。

柔らかな日差しに目を細め、爽やかな風に髪を流す。


卒業。


私は卒業するのだ。

この日の為に用意した、空と同じ桜色の袴。

そしてアクセントの効いた花飾り。

普段は見ない自分の姿が、停車している車の窓に写る。

なんだか恥ずかしい。


髪型は変じゃないだろうか。

ちゃんと着付け出来ているだろうか。

何度も確認しながら学校へと向かう。

こうしてこの道を通るのも、これが最後だ。

そう考えるとこの一歩一歩をしっかりと踏み締めて行きたくなる。

もっと早く家を出ればよかったと、少し後悔。




惜しむ間もなく学校へと着いてしまった。

校門には「卒業式」と書かれた看板。

その前を談笑しながら歩く生徒。

その姿は着物だったりスーツだったりと、いつもと違うんだということを嫌でも教えられる。


慣れた道どりで教室へと向かう。

すれ違う友達や、私を追い抜いて行くクラスメイト。

みんな笑ってる。

私もあんな風に今笑っているのだろうか。

笑えてるといいな。


「おはよー、ちせ」


教室に入ると、もう随分と人が集まっていた。

どうやら私はかなり遅い方だったらしい。

これでも少し早く家を出たつもりだったのだけれど、ゆっくり歩き過ぎたのかもしれない。


改めて教室を見渡す。

窓の向こうにはグラウンドや別の棟も見える。

ここで色んなことがあった。


沢山話した。


沢山笑った。


沢山悩んだ。


沢山書いた。


沢山読んだ。


沢山叱られた。


沢山泣いた。


沢山……沢山……。


見慣れたクラスメイトも、今日は一段と輝いて見える。

私もその一人なんだと実感する。


クラスメイトと談笑するのもつかの間。

卒業式が始まることを、スピーカーは否応にもなく伝えてきた。


いかなきゃ、ね。




ホールに集められた卒業生。

そこには見知った顔も見知らぬ顔もひしめいていて、ここにはこんなにいっぱい人がいたんだと気が付いた。

そして、ここにいる全ての人がこの日常から飛び立つのだ。

ふと後ろを振り返ると、そこには先生や保護者が嬉しそうに、寂しそうに、私たちを見つめていた。


ねぇ、お父さん、お母さん。

私、今日、卒業するんだよ。




全員が椅子に座った。

緊張のような、それでいて穏やかな空気がホールを満たす。

心地よい温かさを胸に今、卒業式が始まった。


偉いさんのエライ話も今日で最後。

なんとなく集中して聞こうと試みる。

けれど結局欠伸が出てしまい、隣の子に膝を叩かれてしまった。

仕様がないことだと思いながら隣の子を見ると、彼女は目に涙を溜めながらじっとステージだけを見ていた。


……そうだよね、私も前を向かなきゃ。





「ご卒業おめでとうございます」


幾度となく私たちはそう言われた。

先生にも、保護者にも、在学生にも。


その言葉がお別れの合図なんだなと思うと、今まで溜めこんだ寂しさが溢れ出すように私の目頭から熱を帯びて広がっていった。





「ちせ、あんた何泣いてるのよ」




え……?




そうか、私、泣いているのか。


自分の頬に手を当てると、一筋の流れを私の指が遮った。

今まで別れの際に泣くなんてことはなかったのに。

他人事だと思っていた涙が自分から流れ出していた。

どうしてだろう、なんでだろう。


でも、不思議と心地いい。


楽しかった。

嬉しかった。

こうしてみんなと共に卒業式を迎えられたのが。






ねぇ、みんな。




ありがとう……ばいばい。


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