ALBIDA / DJ YOSHITAKA
時は海賊時代。
あらゆる国の人間が、我が領土を広げようと躍起になっている時代。
アフリカのとある港町で女の子が産まれた。
太陽に照らされ妙に白い肌をしたその子は「アルビダ」と名付けられた。
彼女は滅多に泣かなかった。
赤ん坊であった時も、少女だった時も、女性だった時も。
彼女が泣く時は、決まってその機嫌を損ねるときだ。
彼女は決して怒らない。
ただひたすら、静かに涙を流すだけだ。
彼女の背が妙に高い故に、彼女に強くものを言う者が少なかったことが原因なのかもしれない。
「アルビダは異端だ」
そう影で囁く者がいてもおかしくはないほど、彼女の容姿はそこらの人とは異なっていた。
いや実際に噂された訳ではない。
逆に物珍しがって、高身長を頼りにすることの方が多かったぐらいだ。
これは後の世になってわかったことだが、当時のアフリカの平均身長と比較すると、ほとんど差異がなかったそうだ。
ただし、男女合わせての平均、ではあるが。
その港町の平均身長が全土を見渡しても低い部類であったという資料が残っていることから、彼女の身長は特異なものであったに違いない。
そんな彼女らは、裕福とは言えずともそれなりに幸せな生活を送っていた。
だが、ある日を境にそれは崩れ去ってしまった。
領土争いだ。
海と共に暮らしてきた彼女らは、命からがら逃げることとなったのだ。
燃え盛る炎、血、鳴り響く轟音、血、興奮した声、血、押し寄せる船、血、誰のものかわからない服の切れ端、血、破られた扉、血、つんざくような悲鳴、血、血、血・・・・・・。
この地はおしまいなのだと皆が悟った。
こんな境地に陥っても彼女の瞳はたった一滴の雫さえ零さなかった。
ひたすらに走った、生きるために。
・・・それからどれほどの時を経ただろう。
彼女は再び人の集まりにいた。
集落とも呼べないような人数で、必死に生き繋いで。
ここがどこかはわからない。
とても乾燥していて、海からは随分と遠くに来たらしい。
近くに泉があるらしく、彼女らはしばらくはそこを拠点にして生きることにした。
とはいえ辺りにはろくなものはなく、何か見つけても取り合いになってばかり。
死者が出るほどに争いは大きくなり、またそれすらも取り合いになるほど飢えと闘う生活だった。
そんな中、彼女は新たな問題に頭を抱えていた。
水が足りない。
泉があるとは言え無限ではない。
いつからか雨を拝んだ覚えもない。
このままでは誰も生き延びることは出来ない。
彼女はひたすらに祈り続けた。
神でも何でもいい。
全員とは言わない。
たとえ一人になったとしても、生き延びて欲しい。
それが無駄な足掻きであったとしても、ここで哀しみとともに朽ちることだけは避けたい。
そう必死に祈り続けた。
彼女は泣かなかった。
否、泣けなかったのかもしれない。
それほどまでに心身を消耗していた。
虚ろのような目をした彼女の耳に、ふとどこからか赤ん坊の泣き声が聞こえた。
ハッと彼女が辺りを見渡すと、泉の向こうで誰かが倒れているのがかろうじて見えた。
彼女が急いで駆け寄ると、その亡骸の下敷きになっている赤ん坊がいるではないか。
いつからそこにいたのだろう。
亡骸はまだ新しいように見えるが、見覚えのない顔だった。
しかし赤ん坊の方は、どこか見覚えのあるように彼女は感じた。
この子を助けたい。
彼女は強くそう思った。
その頬に涙を浮かべながら。
これは悲しみではない、怒りだ。
そう思った。
自分に対する怒りかはたまた神に対する怒りか。
もうわからなかった。
ひたすら涙した。
そして彼女は泉に身を投げた。
決して深い泉ではなかったのだが、彼女が浮かんでくることはなかった。
私は溜息とともに分厚い本を閉じた。
なんでもとある冒険家の手記が最近見つかったらしく、その時代に何があったのか教えてくれと知人に頼まれたのだ。
私はその手記とやらをもう一度眺めた。
あまり綺麗な字ではないなと、自分のことを棚に上げつつゆったりと腰掛けて。
[@@@@@、@@@月@@@@@]
アフリ@@@@@@@で@@ん坊を見付けた。
近くに@@@ず、死体だらけ@@@@@@。
どうやって生きてきたの@@@@@@が、衰弱して@@@@@。
@@@近@@雨が降った跡@@@@@、しか@@は枯れて@@@@@@。
不思議@@@@@@木が一本@@@@@@@@生き@@@。
ふむ、ほとんどが古くなって読めなくなっている。
これでも頑張ったんだと胸を張っていた知人には申し訳ないが、これはちょっと努力が足りないんではなかろうか。
しかしまあ、自分の専門分野ではないので知ったことではないか。
もう一枚この続きらしき手記があるようだが、そちらは解析が済んでおり私の手元にはない。
この赤ん坊がどうなったのかは知らないが、元気に生き長らえたのであればめでたしめでたしではなかろうか。
その一本の木陰に赤ん坊はいた。
この辺りにはないやけに白っぽい木だった。
乾燥した地域だというのにやけに瑞々しく、実を付けていた。
私はその力強い木から、この子に名を授けようと決めた。




