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音芸神話 - yukito's side story -  作者: 七海 雪兎
第六章 -death added to death-
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vow 2:Nine point eight / Mili


街の雑踏がここまで聞こえてくる。

ここは夜でも賑やかだ。

かつて君と過ごしたこの街は、僕らの有無と関係なしに動いている。

それが悲しいことだとは、僕は思わない。

むしろ僕らが街を止めるほどだったなら、きっと穏やかには暮らせなかっただろう。

だから、これでいい。

君がいないんだと、実感するのは僕だけでいい。


そんなことを考えながら、僕は手すりに寄り掛かった。

君にも見えるだろうか。

僕らが小指を絡めたあの場所。

最も君と近付き、そして最も君に近い場所。


この建物にはエレベーターが付いていない。

だから今日もこうして階段で上がってきた。

さっきまで呼吸は乱れていたけれど、今は落ち着いたよ。


……どうしてだろうね。

僕は君がここにいるんじゃないかと、そう感じる。

まるで君が僕を抱き締めてくれているような、妙な安心感。


火照った体を冷やすように、風が僕の肩を撫でる。

空は暗く、星は地に落ちそれでも輝く。

天地が逆転したような錯覚に包まれながら、僕は大地を見上げた。

少しだけ、目を閉じる。


深呼吸。


うん、大丈夫。

僕は大丈夫だ。


君との最後を思い出しながら、僕は頷いた。






君が僕を抱き締める。

その腕はなんだか頼りなく、すぐにでも折れてしまいそう。

僕は叫ぶ。

このまま君と離れたくなくて。


"見捨てないで"


君を、失いたくなくて。


"見捨てないで"


ギュッと君が僕を抱き締める。

そして優しく、優しく、僕に囁いた。


"君なら、大丈夫"


違う、僕はそんな言葉が聞きたかったんじゃない。

僕は、君がいなきゃダメなんだ。

けれど君はゆっくりと僕を引き離す。

寂しそうに微笑んで。


きっと君は分かっていたんだろう。

そして僕も分かっていた。

これはもう、どうにもならないのだと。

それでも諦めたくなかった。

どうにかしてやりたかった。


少しずつ君の温もりが消えていく。

僕は慌てて君にしがみつく。

絶対に離すもんかと。


僕の腕の中で、君はどんどん光に包まれていく。

そして光は次々に君から飛び立ち、高く高く空の彼方へと消えていく。

僕には光を見つめることしか出来ない。


君が僕の肩に触れる。

僕の腕はだらしなく宙を彷徨い、顔はぐしゃぐしゃに乱れていた。

ただ見送ることしか出来なくなった僕を見つめ、君は優しく微笑む。


"大丈夫"


もう一度、君は僕に言う。

僕は頷くことも、首を横に振ることも出来なかった。

でもきっと、君が言うんだ。


"……大丈夫"


僕が小さくそう零したのを聞き、君は満足そうに頷いた。


そして全てが光に包まれる。

そして全てが空へと飛び立つ。


そして僕は一人佇み、君を見上げた。






空はあの時と変わらず明るく、今でも君がそこにいるのだと僕は確信する。


ねぇ、今行くよ。


君を迎えに。


君に会いに。


空へ。


飛ぶ。






僕たちの再会を祝う様に、渦巻く風が歌う。


重力加速度を振り切って、僕は空へ空へと飛んでいく。


さあもう一度、始めよう。

君と二人で。

新たな時を。


大丈夫、恐れることなんてなにもない。

平和の幕開け。


雑踏の音はもう聞こえない。

ひたすら風の音色が僕の耳を打つ。




やがて僕の柔らかな肉体は数多もの欠片となり、君のいる空とひとつになる。




僕の頬を温かな雫が流































グシャッ。


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