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音芸神話 - yukito's side story -  作者: 七海 雪兎
第六章 -death added to death-
53/69

Line 4 Ruin / Ryu☆


「……もしもし」


そっと発言する。

この小さな機械の向こう側にあなたがいると思うと、少しドキドキする。

向こうではどのくらいの時間が経ったのだろう。

今の私には話題を絞り出すことが出来そうもない。

ついつい黙りがちになってしまわないか、不安も割とある。


でも、やっぱり嬉しい。


こうしてあなたともう一度話せるなんて、思ってもいなかった。

諦めていた訳ではない。

ただ単に、そういうものなのだと理解したつもりだった。

以前の私ならまず間違いなく信じられないだろう。

だから私は、これは奇跡なんだと、そう思った。


「なんだ、泣いてるのか」


……馬鹿。

泣いてるのはあなたの方。

顔が見えなくたって声で分かる。

お互い様。


この奇跡はいつまで続くか分からない。

今のうちに沢山話そう。

けれどなかなか言葉が紡げない。

もどかしくてもじもじしてしまう。

彼もそれは同じようで、なんだか歯切れが悪い。

なんだか可笑しくなって、思わず笑ってしまった。

そしたら彼もつられて笑っていた。

言葉なんかいらないなんて言わないけれど、たまにはこういうのもいい。


泣いたり笑ったり。

悲しい訳でものなく、虚しい訳でもなく。

嬉しさと懐かしさが私たちに覆いかぶさるよう。


私はゆっくりと立ち上がると、今まで腰かけていた木を見上げた。

相変わらず灰色に染まっているけれど、なんとなく色味を帯びているように見える。

きっと私の心がそうさせているのだろう。

木漏れ日が私を射抜く。

眩しさに目を細めてはっと気が付く。


「ここはいつも気持ちのいい風が吹いてたよな」


機械越しに彼が言った言葉に、私は言葉を失った。


木が、ざわついている。

風に揺られた枝葉が揺れ、木漏れ日がゆらゆらと形を変える。

今まで一度もこんなことはなかった。

風なんて吹くはずがなかった。

日射しが眩しいなんて感じるはずがなかった。




「なぁ、見えるか」




「今年も桜が満開だぞ」




「……お花見、出来たな」




今あなたがどこを向いて立っているのか、私には分かる。


私は彼の傍らに立ち、街を見下ろした。


「……うん、ありがとう」











悠然と立つ木。

その木が立つ丘には、ただ桜色の風が吹くばかり。

いつしかそれも白く染まり、全ての境界は失われていった。

二人分の足跡を残して。


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