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音芸神話 - yukito's side story -  作者: 七海 雪兎
第六章 -death added to death-
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In Heaven / Sota Fujimori


「……いい風だ」


思わず私はそう零した。

流れる雲と共に、私は今、飛んでいる。


空を。


世界を。


かつて人は空に憧れた。

かつて人は空へと手を伸ばした。

機械に身を包み、必死に。


そして届いた。


機械を通して、人々は空を体感したのだ。

画期的だった。

私がその場にいたら、飛んで喜んでいただろう。


かつて人は空に憧れた。

かつて人は空へと手を伸ばした。

ろうの翼をその背に携えて。


そして堕ちた。


それでも人は空を目指した。


あの高みへと。

あの澄みへと。

あの真空へと。

あの煌めきへと。


果たしてそれは叶ったのだろうか。

私は疑問を投げかける。

そして返そう。


「否」


終ぞ人は、空をその身で拝むことは出来なかった。

全てが終末を迎えたこの世界を、私は今飛んでいる。

眼下に広がるのは灰色の大地。

あそこから見上げる空は、さぞ暗いことだろう。

人々が求めた楽園は見る影もなく、正義だけが空を支配した。


私は静かに手を組み祈る。


願わくば、人々がまた夢を見れますようにと。

願わくば、人々がまた空を見上げる日が来ますようにと。


空は今日も快晴だ。






ふと空を見上げる。

そこに誰かいたような気がして。

勿論そんなことはなく、曇った星空が大地を照らすばかり。

わたしは思わず笑ってしまった。

思わず嘲ってしまった。

まだ神様がいるとでも思ったのだろうか、と。

空は既に何モノも飛ぶことは出来ない。

飛べばたちまち落とされることだろう。

落ちればそこに名が付くのだろうか。

馬鹿らしい。

海にでも落ちれば名が付くのだろうか。

くだらない。


宗教と言う名の正義は、わたしたち人類の存在を許さなかった。

その宗教の頂点がいたところで、わたしなぞ無に帰するだけ。

生まれた意味も、そこに在る理由も、彼らには必要のないもの。


「助けてよ…神様……」


それでも、だ。

それでもわたしの口からは助けを求める言葉が零れてしまう。

わたしだって信じていた。

自分たちを救う存在がいるんだと。

私は思わず涙を零した。

思わず泣いてしまった。

それで何かが変わる訳でもないのに。

まるで幼い頃に見たヒーロー番組のように。

いたぶられる一般市民のように。

わたしは泣いた。


「あぁ……疲れたなぁ……」













「また、会えたね」


彼女はそう言って微笑んだ。

私は驚くこともなく、彼女の向かいに腰を落とす。

テーブルに肘を乗せると、私は不躾に彼女に返した。


「あぁ、久しぶりだな」


そう言って私は微笑まなかった。

いつだったか導かれた夢の中で、私は彼女と話をした。

大した内容でもなく、雑談しただけの夢。

あれ以来一度も会うことはなかったのだけれど、彼女の容姿はあの時となんら変わっていなかった。

別段驚くことでもないが。


「どうかしら、貴方の願いは叶いましたか?」


全て分かっているくせに、にこやかに彼女は私に問うた。

何の感情もなく、まるで事務的に。


「……叶ったよ」


そう、叶った。

私は私の理想とする世界を作り上げることが出来た。

「大切な荷物」を、私は送り届けることが出来たのだ。

あらゆる人が私に賛辞を投げかけてくれた。

沢山の拍手に包まれた。


しかし、私は表情を和らげることはなかった。

「大切な荷物」の代わりに、「大切な自分」をどこかに落としたのだと気付いてしまったから。

理想と引き換えに、道を外れ迷い込んだのだ。


「……なぁ、私は死んだのか?」


命として?

人として?

分からない。

今の私には記憶が欠如している。

しかし最後に見た光景だけは脳裏に焼き付いている。


灰色の星空。

赤い大地。

黒い自然。

泣き叫ぶ子供たち。


人々を幸せに導くはずの理想は、全てを喰い散らかしてしまった。

神の名の元に。

それが救いなのだと信じて疑わずに。




「あなたは、何を願いますか?」


私の問いには答えず、彼女は私に問う。

ここは全てが叶う場所。

願えばそれは叶う。

そういう場所。

ならば望もう。


私は彼女の瞳をしっかりと捉え、願いを口にした。












流れ星が見える。

こんなにくすんでいても、あの星はしっかりとわたしの目に届いた。

なんの気休めにもならないけれど、わたしは「綺麗だ」とそう思った。


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