fallen leaves / 猫叉Master
カタタンと列車の走る音が窓を叩く。
たくさんの煙を巻き上げて走るそれは、いつもなら彼女の来訪を知らせるものだった。
だけれど私は、彼女がもうここを訪れはしないのだと知っている。
私は彼女を語る、最後のモノ。
彼女の見た景色を、私はついぞ知ることはなかった。
しかし、それでも私は語ろう。
君が尋ねるならば。
「ありがとう」
奇しくも君は、全く同じだった。
その言葉も、その表情も。
彼女と、全く同じだった。
彼女は窓の向こうにいた。
純白の世界に包まれた彼女はとても美しく、そして儚かった。
「おはよう」
窓を開けて、彼女は私に微笑んだ。
あぁ、おはよう。
いい朝だね。
彼女は満足げに頷くと、青く澄んだ空を見上げる。
なんでもない日常。
それは本来ならば、私や彼女のシナリオにはなかったもの。
気付けばそこに書き足された、運命の楔。
その楔が果たしてどちらの役割だったのかは、きっと私にも彼女にも分かることはないだろう。
挨拶が済むと彼女は私に背を向け立ち去った。
彼女を見送り、私は再び目を閉じる。
列車の音が心地よく耳に響く。
少しだけ昼寝をしよう。
そしてそれから……。
眩しい日差しに目を覚ます。
遠くからは朝を告げる音。
新たな日常。
変わらぬ日常。
「おはよう」
あぁ、おはよう。
彼女は少し寂しそうに微笑む。
「ねぇ、向こうはどんな場所なのかな」
不意に投げかけられた言葉。
私は答えない。
きっと私には一生分からないから。
彼女がどこかへ行ってしまうということだけは、分かってしまうから。
彼女は目を伏せると、いつものように踵を返し立ち去った。
私は目を閉じ、考える。
彼女がここを離れるのと、私がここを離れるのはどちらが早いだろうか、と。
彼女の行く先に私は行けず、私の行く先に彼女は行けない。
それは最初から決まっていることだ。
今更寂しくも悲しくもない。
だけれど、私は思う。
残されたモノの感情を、彼女には味あわせたくない、と。
私は眠る。
全ての願いを、ひとつに託して。
そして彼女はいなくなった。
私に挨拶する者はもういない。
けれど私は誇らしげに天を仰いだ。
願いは叶った。
これで私は心置きなく行くことが出来る。
カタタンと列車の走る音が聞こえる。
揺れ動く視界の中、私はゆっくりと目を閉じた。
「おはよう」




