person:Dream / Rabpit
コンサートが始まった。
緩やかな君の音色と、私の奏でるモノクロの旋律が交わる。
こうして二人で演奏できるのも、もうこれで最後。
だから私は指先に魂を込める。
想いを込める。
今までありがとう、と。
視界が滲む。
感覚が震える。
でも大丈夫、まだ大丈夫だから。
音色も旋律を信じている。
だからブレない。
私も自分のこの指を信じている。
楽譜は私の頭の中にある。
モノクロは私の手の中にある。
リズムは私の心の中にある。
観客がざわつくのが聞こえてくる。
きっと私はふらついているのだろう。
意識も朦朧としている。
でもまだ。
まだ倒れちゃいけない。
こうして君と奏でるのを、ずっと夢見続けてきたんだ。
まだ夢見心地でいさせてくれ。
音色はブレない。
だから旋律もブレない。
次第に雑踏も彼方へと消え、聞こえるのは二つの音だけ。
音のひとつひとつが輝き、私たちを包んでいく。
これは祝福だろうか。
幸福だろうか。
どちらでも構わない。
音が虹のように輝き、泡のようにはじけ、霧のように消えていく。
まるで夢のように。
私は夢を叶えることが出来た。
すぐにでも割れてしまいそうな夢。
この一瞬のために生きてきた。
だから私は満足だ。
君は、どうだろう。
君も満足だろうか。
君の夢は、叶っただろうか。
白く濁った視界の先で、君は涙していた。
目を閉じ、音色に魂を込めるように抱き締めていた。
君の未来に、私は行くことが出来ない。
思えば過去にも行くことは叶わなかった。
もっと君と話したかったな。
もっと、君と奏でたかったな。
モノクロに青い波紋が広がっていく。
私は君のように視界を閉ざし、ひたすらに全てを注いだ。
もうすぐだ。
もうすぐで終わる。
このコンサートも。
私も。
幼い頃から親友だったこのモノクロも。
君との演奏も。
夢も。
なにもかも。
後悔はあるだろうか。
未練はあるだろうか。
たくさんあるだろう。
でも、いいんだ。
私は満足したのだから。
ありがとう、こんな私の夢のために。
私の指が、最後の白に触れる。
この指が離れるその時まで、しっかりと君は奏でてくれるのだろう。
私はそんな君に拍手を送りたい。
そして手を繋いで、一緒に観客にお礼がしたい。
でもまだ離したくない。
まだ覚めないで欲しい。
最後の最後に欲が出てしまった私を、君は笑ってくれるだろうか。
馬鹿だなと、そう言ってくれるだろうか。
後ろ髪を引かれながらようやく指を離した時、そこにはもう誰もいなかった。
静かに一人分の拍手だけが、私を抱き締めてくれていた。




