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音芸神話 - yukito's side story -  作者: 七海 雪兎
第 章 -reconstruction-
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entrust:SEED / DJ YOSHITAKA

妙に薄暗い晴空が覗く窓。

所々曇っているかのように霞む部屋。

転がったまま放置された鉛筆。

動かない時計。


ここは、どこだろう。


いや、悩むことはない。

ここは私の知っている場所だ。

かつての友らと学んだ場。


均等に並んだ机。

空っぽの水槽。

錆びかけのロッカー。

消しかすの溜まった黒板。


遥か彼方、記憶の果て。

そこに彼はいた。


大事そうに抱えている植木鉢。

乾いた土。

何も芽吹くことはないと私は理解する。

しかし彼は、しきりに植木鉢を覗き込んでは今か今かと待ち構えている。


もうすぐ芽が出るに違いない。

そしたら大きな葉を広げるのだろう。

さらには綺麗な花とご対面。

最後はしょんぼりと俯いて、新たな旅をするのだ。


頑なに信じて。




時計が動き出す。

同時に教室が崩れ始めた。

落ちることもなく、ただ闇が私を包む。

時計は変わらず動き続け、彼はすっと目を閉じた。

残されたのは芽のない植木鉢と目まぐるしく動く時計のみ。




やがて時計は再び止まり、植木鉢は地へと落ちた。


割れる。


そう思ったが、植木鉢は誰かに受け止められた。

またもや彼だった。

少し背が大きくなり、先ほどまでのような無邪気な表情はない。

大人びた風貌で植木鉢を抱える彼は、なんだか泣いているように見えた。


視界が蘇る。

私の目に映ったのは相も変わらず教室だったが、先ほどよりは鮮明に感じられた。

どの机も先ほどよりも高い。

黒板は変わらず汚いどころか、今度は落書きまで残っている。


『卒業おめでとう』


そう書いてあるのだと分かった。

途端、彼は植木鉢をその場に置くと、踵を返した。

土は未だに乾いたままで、やはり何も芽吹く様子はない。


彼が名残惜しそうに振り返る。

そして何度も頭を振った後、駆け出した。

瞬く間にその背は見えなくなっていき、私は一人ぽつんと取り残される。


私はしゃがみこみ、植木鉢を覗いた。

何かが埋めてあるのはすぐに分かった。

でもやっぱり芽吹くようには思えない。


芽吹かないと分かっているから。

どれほどの雫を吸い込ませても、芽吹くことはなかったのだから。




私は立ち上がる。

目の前には見知らぬ人。

私の知らない誰か。


誰かは静かに微笑むと、彼の置いて行った植木鉢に手を伸ばした。

そいて大事に大事に抱えると、嬉しそうに去って行った。


瞬間私には分かってしまった。




あの植木鉢には、きっと満開の花が咲くことだろう。




時計が動く。

何度も何度も動く。

一度動くたびに、雫が零れ。

二度動くたびに、声が零れた。

とても悲しかった。

だけれど安心した。

あの花は、もう大丈夫なんだ。




そして私は抱き締める。

彼が置いて行ったものとはまた別の。

綺麗な花が咲き誇る植木鉢を。


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