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音芸神話 - yukito's side story -  作者: 七海 雪兎
第五章 -ignorance-
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Dream / Rabpit


信号が変わった。

わたしは踏み出す。

黒と白の縞模様を踏みしめて。

交差する交差点。

その中心で立ち止まる。


ここは、どこだろう。


空を見上げる。

突き抜けるような青さに後ろ髪を引かれながら、

わたしは再び前を向いて歩き出す。


わたしはここを、知っている?


歩道に踏み入り、そのままアーケードをくぐる。

瞬間包まれるざわめき。

人と人が、こんなにも重なり合って。

そしてまた立ち止まる。

わたしの前には扉。


わたしはここを、知っている。


ゆっくりと扉を開く。

薄暗い店内から漏れ出す喧騒。

わたしはいつもの席へと座る。

そこはカウンター。

そこは店主との繋がり。


わたしは、知っている。


いつものを頼む。

店主も分かりきっているかのように。

すぐに出てきたそれは。

見慣れた綺麗さで。

わたしは。

グラスを持ち上げた。


わたしはこの味を、知っている。


ゆったりとしたまどろみ。

少しずつ遠くなる声。

心地よい熱気。

重くなる瞼に身を任せ。

わたしは目を閉じる。

気持ちいい。


そして、懐かしい。


頬を何かが撫でる。

その冷たさに、わたしは目を覚ます。


ここは、どこだろう。


わたしは身を起こす。

座っていた椅子が軋む。

目の前にはピアノ。


わたしはここを、知っている?


そっとピアノに手を触れる。

途端に弾ける音たち。


わたしはここを、知っている。


楽譜などなくとも、覚えている。

手が。

体が。

頭が。


わたしは、知っている。


わたしは夢を見ていたのだろうか。

あの夢はわたしの記憶だったのだろうか。


わからない。


でも、わたしは確かに知っている。


音を紡ぐ手に、力がこもる。

奏でる音は、わたしに何を伝えようとしているのだろう。


もしかすると、わたしは夢を見ているのだろうか。


ここで一人、ピアノを弾く。

それが、為すべきことであるかのように。

そういう夢なのだろうか。


わからない。


だけど、これだけはわかる。




私は。


この音が。


好きだったんだ。




わたしは、それだけを知っている。


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