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音芸神話 - yukito's side story -  作者: 七海 雪兎
第一章 -humanoid-
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smooooch・∀・ / kors k


「おい、せっかくだからみんなで海行こうぜ、海!」


その一言が始まりだった。

彼は心底楽しそうに僕らをぐるりと見渡すと、へへっと笑った。

いや、実際楽しいのだろう。

この学校に入って最初の夏休み。

つるみ始めてからまだまだ日の浅い僕ら。

お互いを知るにもいい機会だ。


「だがよぉ、野郎だけで行ってもあれじゃね?」


そうだ、もっともだ。

なにが「あれ」なのかはわからんが間違いない。

華のない海など海ではない。

満場一致を確認したところで、女子にも声掛けが始まった。


程なくして、再び僕らは集まった。

男女合わせて十人ちょっとの集団を見て、より一層彼は嬉しそうだ。

どんな奴が集まったんだろうと、僕もぐるっと見渡してみる。

どいつもこいつもノリはよさそうだ。

これは楽しめそうだなと思って彼に再び注目しようとした時、彼女と目が合った。

それはほんの刹那のこと。

それだけで十分だった。

僕は、彼女を、知っている。




夏休みがやってきた。

打ち合わせの日までもう片手で数えられる。

僕はふと、彼女のことを思い出していた。

彼女は僕を覚えてないかもしれない。

そもそも知られてすらいないかもしれない。

でも僕にとっては大切な過去だ。

そう、あの日、僕と彼女は…………。



眩しい太陽、白い砂浜、そして青々とした海!

僕らは海にやってきた。

早速水着に着替える僕ら。

僕はこの日、ある決心と共にここへ来た。

でもとりあえずは楽しもう。


僕らの初めての夏が、始まる。








時間というものは楽しい時ほど早く感じるもので、辺りはすっかり黄昏色になっていた。

残すイベントは、ここに来る途中で買ってきた花火。

まずは線香花火からということで、僕は自分の花火に着火した。

淡く、そして儚く、花火は輝く。

あぁ、なんて綺麗なんだろう。

ぼんやりとそんなことを考えていた。


「ね、火もらってもいいかな?」


不意に声をかけられて少し驚いたものの、「どうぞ」と僕は花火の先を差し出した。

ほのかな灯りがふたつ揺れる。

僕はポツリ「綺麗だね」と呟いた。

彼女は何も言わず、コクリと頷き微笑んだ。

本当は僕から話しかけようと思っていた。

だから内心すごく驚いていた。

「今日は楽しかったね」だとか、そんな言葉も浮かばないぐらい。

ふと彼女が口を開く。


「あの時の約束、果たしに来たよ」


「えっ?」と僕は思わず彼女を見た。

彼女は相変わらず微笑んだままで、僕をじっと見つめている。

そんなまさかと僕は頭が真っ白になった。


「覚えてたんだ……」


勿論だと言わんばかりに頷くと、彼女はゆっくりと僕に口づけした。


打ち上げ花火の音が微かに聞こえる。

何度も、何度も……。


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