smooooch・∀・ / kors k
「おい、せっかくだからみんなで海行こうぜ、海!」
その一言が始まりだった。
彼は心底楽しそうに僕らをぐるりと見渡すと、へへっと笑った。
いや、実際楽しいのだろう。
この学校に入って最初の夏休み。
つるみ始めてからまだまだ日の浅い僕ら。
お互いを知るにもいい機会だ。
「だがよぉ、野郎だけで行ってもあれじゃね?」
そうだ、もっともだ。
なにが「あれ」なのかはわからんが間違いない。
華のない海など海ではない。
満場一致を確認したところで、女子にも声掛けが始まった。
程なくして、再び僕らは集まった。
男女合わせて十人ちょっとの集団を見て、より一層彼は嬉しそうだ。
どんな奴が集まったんだろうと、僕もぐるっと見渡してみる。
どいつもこいつもノリはよさそうだ。
これは楽しめそうだなと思って彼に再び注目しようとした時、彼女と目が合った。
それはほんの刹那のこと。
それだけで十分だった。
僕は、彼女を、知っている。
夏休みがやってきた。
打ち合わせの日までもう片手で数えられる。
僕はふと、彼女のことを思い出していた。
彼女は僕を覚えてないかもしれない。
そもそも知られてすらいないかもしれない。
でも僕にとっては大切な過去だ。
そう、あの日、僕と彼女は…………。
眩しい太陽、白い砂浜、そして青々とした海!
僕らは海にやってきた。
早速水着に着替える僕ら。
僕はこの日、ある決心と共にここへ来た。
でもとりあえずは楽しもう。
僕らの初めての夏が、始まる。
時間というものは楽しい時ほど早く感じるもので、辺りはすっかり黄昏色になっていた。
残すイベントは、ここに来る途中で買ってきた花火。
まずは線香花火からということで、僕は自分の花火に着火した。
淡く、そして儚く、花火は輝く。
あぁ、なんて綺麗なんだろう。
ぼんやりとそんなことを考えていた。
「ね、火もらってもいいかな?」
不意に声をかけられて少し驚いたものの、「どうぞ」と僕は花火の先を差し出した。
ほのかな灯りがふたつ揺れる。
僕はポツリ「綺麗だね」と呟いた。
彼女は何も言わず、コクリと頷き微笑んだ。
本当は僕から話しかけようと思っていた。
だから内心すごく驚いていた。
「今日は楽しかったね」だとか、そんな言葉も浮かばないぐらい。
ふと彼女が口を開く。
「あの時の約束、果たしに来たよ」
「えっ?」と僕は思わず彼女を見た。
彼女は相変わらず微笑んだままで、僕をじっと見つめている。
そんなまさかと僕は頭が真っ白になった。
「覚えてたんだ……」
勿論だと言わんばかりに頷くと、彼女はゆっくりと僕に口づけした。
打ち上げ花火の音が微かに聞こえる。
何度も、何度も……。