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音芸神話 - yukito's side story -  作者: 七海 雪兎
第五章 -ignorance-
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Valkyrie dimension / Spriggan


「此度の戦争、長引いているわね」


神と人の狭間に存在する領域で、青い彼女は呟いた。

輪を作るように立つ彼女らが頷く。

そろそろ選定に入りたいところだが、今下界に向かうと戦火を浴びるかもしれない。

しかし終末の時は刻一刻と迫っており、あまり悠長には出来ない。


「主が口を出してきそうだね」


黄色い彼女が怠そうに愚痴ると、彼女らの半分がまたも頷き、もう半分は呆れたような表情を浮かべた。

主が介入してしまうと、下界がどうなるか分かったもんじゃない。

それを防ぐためには、やはりもう選定に入らなければならない。

下界程度の武具で自分たちが傷つくことはないだろうが、痛いものは痛い。

出来れば行きたくないというのが彼女らの総意だった。


「あんたのとこは割かし強いって聞いてるけど、どう?」


そう言って橙の彼女を指差したのは、紫の彼女だった。

怪訝な顔をしつつも、橙の彼女は鼻でその言葉を笑い飛ばす。


「あら、だったら弱そうなあなたのところが行けば、いいトレーニングになるんじゃない?」


ジロリと橙の彼女を紫の彼女が睨むのを見て、緑の彼女は思わずため息を漏らす。

彼女らが対立しても何も意味はない。

そこにいる全員がそんなことはわかりきっているというのに、どうしてこうも牙を見せ合うような真似をするのだろうか。

別に誰が下界に行っても構わないのだが、誰でもいいというその言葉が彼女らのやる気を削いでいく。

一番最初に順番を決めておくべきだったなと青い彼女は思ったが、今更なことである。


「しょうがない、あの子に行かせましょうよ」


苛立ちの籠る空気に耐えかねたのか、水色の彼女は提案を口にした。

彼女らが顔を見合わせる。

なるほど、あの子なら多少の武力はねじ伏せられるだろう。

しかし新入りである彼女は単身である。

作業にかかる負担を考えれば、行かせるべきではない。




――それに、あの子の力は未知数だ。




主ほどではないが、下手をしたら下界が大変なことになるかもしれない。

そう危惧したのはわずかに緑の彼女だけだった。

他の彼女らはもうそれでいいやと完全に他人事の状態になりつつある。

彼女が感じた危惧を伝えるのは今しかなかったのだが、結局その危惧は無視されてしまった。

緑の彼女もまた、それ以外の解決策が思い付かなかったのだ。


「それじゃあ決まりね、彼女を呼んで――「その必要はありません」


青い彼女の言葉を遮って、あの子、もとい黒い彼女は輪の中心に立った。

いつの間にいたのか誰もわからなかったが、早く話を終わらせたかったので特に言及する者はいなかった。

ぐるりと彼女らを見回す黒い彼女。

ゆくっりと目を伏せ一度だけ頷くと、彼女は瞼を上げた。


「我らに勝利が訪れんことを」


ただそれだけ呟き、黒い彼女は歩き出した。

それを無言で見送る彼女たち。

青い彼女は安堵し、黄色い彼女は嬉しそうににやつき、紫の彼女が背を向ければ、橙の彼女はその後を追い、緑の彼女は退屈そうにつま先を眺め、水色の彼女は黒い彼女の背を見つめた。

それぞれがそれぞれの思惑を持ちはすれど、みな目的はひとつ。

それを黒い彼女は代弁した。

自分もその輪に加わるのだという表明みたいなものだろうか。




そして黒い彼女は下界へと降り立つ。

彼女にとって下界の抗争などどうでもいい。

例え彼女の行く後が炎に包まれたとしても。

下界の者がどれほど彼女に怯えたとしても。

彼女には関係ない。

黒い彼女が降り立った足元から、何かの模様が描かれる。


――あぁ、どんどん力が湧いてくる。


さあ、仕事の時間だ。

力の躍動が彼女に溶け込んだ瞬間、彼女の姿はもうそこにはなかった。


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