Daily Lunch Special / Lucky Vacum
学生にとって、昼食とはとても……とっても大切なものである。
味の質や量はもちろんのこと、価格までもが精査される昼食。
コスパ第一主義である。
最強は当然弁当。
しかし毎日毎日当たり前のように弁当が用意されている訳ではあるまい。
たまには弁当がない日だってあるだろう。
そういう時にもまた、コスパ主義な昼食が顔を見せるのだ。
そんな中、味も量もわからない。
唯一分かるのは価格だけ。
そんな昼食があったら、あなたはそれを選ぶだろうか。
俺は選ぶ。
何故なら、昼食には味や質や価格だけではない重要な要素があると信じているからだ。
一体それはなんだろう?
答えは簡単だ。
楽しさ。
短い時間で一気に頬張って食べてないか?
みんなが机を囲む側で、一人寂しく食べていないか?
もしかするとトイレで弁当を抱えてはいないか?
いつも同じおかずの入った弁当にうんざりしてないか?
それではいけない。
昼食はなにより楽しく食うべきだ。
それが俺の主張である。
という訳で、今日も今日とて昼食は学食。
食券を購入する列が、いつものように蛇みたいにうねっている。
その列に俺も混じる。
今日は友人が風邪で休みだから、昼食はおひとり様だ。
でも問題ない。
俺の楽しみは友人だけではない。
鼻歌交じりに食堂の込み具合を確認する。
先に列に混じったのは失敗だったかと思ったが、案外まだ大丈夫そうだ。
この調子なら学食内で食べられるだろう。
今日は天気がいいので、外のテラスで食べるのも悪くない。
が、それはみんな同じようで、すでにテラスは埋まりつつあった。
少し残念。
友人がいればどちらかが席を確保しておくことも出来たのだが、今回はその友人がいないので仕方ない。
仕方ないことを考えても無意味なので、俺は再度学食内を見渡した。
……大丈夫そうだな、やっぱり。
外に出た人がいる分、中は空き気味のようだ。
これはこれでラッキーである。
少しずつ列がうごめく。
遅々として進んでいないように感じられるけども、それでもちゃんと進んでる。
時には焦ることもあるけれど、こうしてゆったり進むのもまあ悪くない。
腹の虫は文句を言うだろうが、気にしてはいけない。
ようやく順番が回ってきた。
俺はあらかじめ用意しておいたお金を入れると、迷うことなくボタンを押した。
出てきた食券を今度はカウンターにいるおばちゃんに渡す。
おばちゃんはにこやかに食券を受け取ると、厨房に向けて
「日替わり定食ひとつ!」
と叫んだ。
さて、今日は一体どんな料理が出てくるだろう。
俺は非常にわくわくしている。
退屈な授業も、このわくわくでチャラになるというものだ。
……午後の分は流石にチャラにならないけども。
ここの食堂では、必ずメニューにないものが出てくる。
だから出てくるまで全く何が来るか予想出来ない。
メニューにないということは、食堂を見渡せば誰かが頼んでいればわかるのではないか。
俺も最初はそう思った。
だがなんとも不思議なことに、この食堂、日替わり定食を頼んだ人それぞれに別のものを出すのだ。
もやは日替わりどころではない。
人替わりだ。
まあそういうわけで何が出てくるのかわからない。
だからこそ楽しみなのだ。
昔カードゲームにはまっていた頃。
パックを開封する時の高揚。
あれと同じものを俺は今感じている。
先ほどとは別のおばちゃんが、日替わり定食の乗ったトレーをこちらに運んでくるのが見える。
さあ、ウルトラレアか、コモンか、何が来る?
カツカレーだった。
ウルトラレア級のが来た。
俺は心の中でガッツポーズ。
この間のサラダの盛り合わせと青汁500mlのことを考えると、涙が出そうである。
なんて感涙している場合じゃない。
スプーンと水を受け取ると、俺は席を探しに繰り出した。
当たり前だが、先ほどよりも混んでいる。
しかしまあ何も満席ってことはない。
俺は適当な席に腰かけると、トレーをそっと降ろし一息付いた。
水を一口。
ふぅ。
そういえば、初めてこれを頼んだ時もカツカレーだったな。
カツカレーはそれ以来、俺の前に姿を現すことはなかった。
あの時は初めて学食を訪れた時でもある。
当時俺は、毎日自分で弁当を作って持ってきていた。
毎回毎回自分の好きな具ばかり入れて、時には茶色い弁当だと揶揄されたりもした。
そうして何年も弁当を作っていれば、内容の偏り具合に不満を感じてくる。
俺の腕にバリエーションという文字があれば良かったんだが、そんなものはなく、飽きつつも飽きずに茶色い弁当を作り続けた。
そんなある日。
俺は寝坊した。
弁当を用意する暇もない。
財布だけはきちんと持って、慌てて学校へと走った。
学食があるのは知っていたから、なんとかなるだろうと思っていたんだ。
それでなんとなく、「あ、せっかくだし普段食べないものを食べたいな」と思った。
自分の好物だけど、弁当として持ってくるのは非常に難しい。
そんな料理。
カツカレーだ。
一度そう考えると、どうしても食べたくなる。
よし、昼食はカツカレーにしよう。
そうして意気揚々と学食に乗り込んだ。
学食デビューだ。
ところが、華々しいはずのデビューは完全に出鼻をくじかれることとなる。
なんとも言い難い人の多さ。
こんなに学校に人がいたのかというぐらいの熱気と密度。
一瞬今日は昼抜きでいこうかと考えたぐらい、とても驚かされた。
いやいやカツカレーを食べるんだと自分に言い聞かせて、食券を買いに行くことにした。
そこで俺は蛇に睨まれたように固まってしまった。
なんだこの列は。
長蛇の列。
ありえない。
バーゲンか何かかよ。
またしても帰りたくなる俺。
いやいやいやいや、頑張れ俺。
腹の虫だって泣いているんだから。
ヒィヒィ言いながら辿り着いた券売機。
そこで俺は崩れ落ちた。
カツカレーが、ない……。
なんということだろう。
なんてツイてないんだろう。
というかメニューあるんだから目を通せよ、俺。
愕然とする中、後ろに並んでいる人が咳払いをした。
あぁ、いかん、待たせちゃダメだよな。
仕方ない、何か別のものを食べよう。
お金を入れて、長方形のボタンを睨む。
…………うーん。
どれも今は別に欲しくない。
しかしここまで並んでおきながら何も選ばないというのはなんだか悔しい。
後ろの人の視線もすごく痛いし、もうこれでいいや。
俺が選んだのは、日替わり定食だった。
当時の俺は日替わり定食に関して何も知らなかった。
どうせここに書いてあるメニューのどれか、ないしはそれに近いものが出るんだろう。
そう高をくくっていた。
舐め腐っていた。
いやその表現はおかしいか。
とにかく俺は、大したものは出てこないだろうと、そう思っていた。
だから俺はその時本当に涙した。
おばちゃんが運んできたトレーに乗っているそれは、間違いなくカツカレーだったのだから。
にこにこと俺にトレーを差し出すおばちゃん。
この人は神か何かか?
なんにしても素晴らしい幸運である。
もう二度と食堂になんか来るもんかと、腹を立てていた自分をぶん殴ってやりたい。
そして俺はそのカツカレーを旨い旨いと言いながら、がつがつと一気食いしたのを今でも覚えている。
思い出に耽っている内に、カツカレーはただのカレーへと変わっていた。
そのカレーも残り僅かである。
うむ、今日もありがとう、おばちゃん。
俺は最後の一口を、名残惜しくもスプーンに乗せ、一気に口の中へと迎え入れた。
次また会える日まで、さらば、カツカレーよ。
俺は静かに合唱し、席を立った。




