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音芸神話 - yukito's side story -  作者: 七海 雪兎
第五章 -ignorance-
34/69

Knell / Project B-


人形に感情などない。

だからワタシは何も思わない。

通り往く人々はワタシが人形だと気付かない。

ワタシには、それは関係のないこと。


右、左。

足を踏み出す。

こうして自分の意志で歩く。

ように見える。

あくまでワタシは操り人形。

誰かの意志によって歩む。

右、左。

いち、に、いち、に。

どう?みんな。

ワタシはちゃんと歩けていますか?

みんなは何も言わない。

ワタシのことすら見ていない。

じゃあワタシは大丈夫なんだね。

何も変なところがないから。

だから誰も反応しない。

ワタシは人形。


そこ行く猫さん。

ワタシは人間に見えますか?

それともちゃんと人形やれてますか?

ワタシの口がパクパク動く。

音は出ない。

だってワタシは人形。

声なんて出たらおかしいものね。

ワタシをちらりとだけ見て、猫さんは再び歩き出す。

尻尾をふりふり。

ワタシも手をふりふり。


空が少しずつ茜色に染まる。

ワタシは変わらずここにいて。

道行く人々に声をかける。

ワタシ、ちゃんと人形やれていますよね。

パクパク動く口を見つめる人並み。

やっぱりそこからは音は出ない。

おかしそうに笑う学生。

嘲るようにほくそ笑むサラリーマン。

あぁ、良かった。

ワタシは人形。

笑われても問題ない。

嬉しいという感情はよくわからない。

だけどきっとこんな感じ。

眉ひとつ動かさすに。

くるくるとその場で踊る。

想像の感情を表現する。

手を何度も叩く人々。

どうでしょう。

人間みたいに踊れていますか?


ワタシは考える。

勿論人形は考えないけど。

それでも多分。

「考える」ってこういうこと。

腕組み頭を傾けへの字に口を曲げる。

お空はもう真っ暗で。

それでもワタシはここにいて。

人形に家なんてない。

ワタシは人形。

もう何日もここにいる。

食事はいらない。

人形は何も食べない。


やがて世界は寝静まる。

ワタシは人形。

だから眠らない。

それでも一応目を閉じる。

寝てるフリだって出来ちゃう。

ワタシは高性能なの。

この時間は誰も通らない。

だからワタシは意識を遮断する。

人形に意識なんてないのかもしれない。

だけれど多分こういうこと。

ワタシの首がかくんと折れる。


朝日と共に目を開ける。

そろそろ人が通る頃。

ワタシは立ち上がり、伸びをする。

まるで寝起きのように。

人間みたいなこと。

私は模倣する。

人形でも学習くらいはする。

そしてまた、ワタシは人間を観察する。


今日はなんだか騒がしい。

青い服来た人がちらほら。

あ、ワタシを見た。

何か黒い箱を口元に寄せて。

そしてワタシに向かってくる。

なんだろう。

胸騒ぎ。

人形に胸騒ぎなんてわからない。

だけど多分きっと、こういうこと。


ワタシは駆け出す。

なんだか青い人に捕まってはいけない気がして。

駆け出そうとして転ぶ。

走るだなんて機能はどうやらないみたい。

ワタシは人形。

歩いてパクパクするだけ。

あとは踊ることぐらい。

青い人が駆け寄ってくる。

ワタシはなんとか立ち上がる。

膝から赤い滴がポタリ。

これはなんだろう?

地面に何か落ちていたのかな?

青い服の人がワタシの腕を掴む。

そして何かをワタシに告げる。


あぁ、ごめんなさい。

ワタシ、電池切れみたい。

視界が揺れる。

自分の足から目を離せない。

頭が下がる。

何も聞こえない。

ワタシが、電池式なのかは、知らない、けども。

けど、多分、きっと、そう、いう、こ、と……。






ワタシ、は…………人形。











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