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音芸神話 - yukito's side story -  作者: 七海 雪兎
第三章 -expander-
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CLAMARE -丑の刻- / MAX MAXIMIZER


ここは、どこだ……?

さっきまでいた屋敷とは全く違う。

なんだこの禍々しい空気は。

懐中電灯を持つ手が震える。

明かりがユラユラと揺れる。

オカルトというレベルを、本当に超越している。

足が動かない。

でも逃げなくては。

……どこに?

俺がさっき通ってきた道のりは、明らかに消滅してしまった。

外は暗く、懐中電灯を向けても浮かぶのは木々ばかり。




ア”ア”ア”ア”ア”ッア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ァア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”……ッ!!!!




叫び声が聞こえる。

先ほどの部屋から、あれが出てくるのが見えた。

こうしてはいられない。

ここがもはやどこかわからないが、逃げなくては。

捕まることだけは、避けなくては。


俺は再び駆けだす。

足も手も震えているが、なんとかしっかり走ることは出来ている。

割れたガラスが少々怖いが、こけさえしなければどうということはないだろう。


真っ黒い絵が飾られたT字路。

直感で右に逃げる。

こんなところを通った覚えは、やはりない。

いくつもの扉が過ぎていくが、どれも入る気にはなれない。

行き止まりに逃げ込むのは得策ではないだろうという判断の下だ。


ふと気が付く。

窓がない。

ということは、俺は屋敷の内側に向かっているということだろうか。

入ってきた時はなるべく窓が見えるようにしていた。

そこでようやく、窓から逃げるという手段が絶たれたことに俺は気付いた。

たまたま偶然かもしれない。

しかし俺は偶然ではないような気がした。

あれがなんなのか未だにわからないが、この屋敷にとって重要な何かなのではないだろうか。

この屋敷で何があって、立ち入り禁止になったのか。

実のところ、俺はそれを知らないのだ。

もしかしたら友人は知っていたのだろうか。

今となってはもうわからない。

とにかく俺は、生きてここから脱出せねば。






あれはまだ追ってきているだろうか。

あれから随分と走り回ったが、結局出口は見付からなかった。

まるで迷宮にでも迷いこんだみたいだ。

この屋敷の外見からして、それは有り得ないはず。

もう何がどうなっているのやら。

走り疲れた俺は、適当な部屋で休むことにした。

ここで夜が明けるのを待とう。

部屋にはテーブルと椅子、そしてベッドしかない。

壁に掛けられた時計は随分古そうだが、未だに時を刻んでいる。

夜明けまでまだ数時間あることには絶望せざるを得ない。

あれを撒けたと信じて、なんとか我慢だ。




ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ァ”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”……ッ!!!!




……っ!!!

割と近い……!?

そんな馬鹿な。

あれの動く速度はかなり遅かったはず。

走り回りすぎて屋敷を一周でもしたのか?

ずるずると引き摺るような音がドアの向こうから聞こえる。

これでは部屋を迂闊に出ることが出来ない。

もしこの部屋に入ってこられたら……。

背筋が震える。

もしものことを考え、俺は慌ててベッドの下に隠れた。

ここなら見えないはずだ。

あれに目があるのか正直疑問ではあるが。

ずるずると音が聞こえる。

頼む、通り過ぎてくれ……っ。

そんな俺の願いを聞いたかのように、ドアの前で音は止んだ。

おいおい、嘘だろ。

入ってくるつもりか?


ドアがゆっくりと開けられる。

ギィっと軋みながらドアが完全に開いた。

そこにいた。

頭を抱えたまま。




ア”ア”ア”ア”ア”ッア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ァ”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”…ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ァ”ア”ア”ア”ア”ァ”ア”ア”……ッ!!!!!!




叫ぶ。

『それ』が叫ぶ。

まるで「そこにいるんだろう?」と言わんばかりに。

動悸がする。

息が荒くなる。

体中が震える。

『それ』がゆっくりと部屋に入ってきた。

俺には『それ』の足しか見えなくなる。

どうやら探しているらしい。

……見えないのか?

それとも気付いていないだけ?

なんにせよ見付かっていないのならまだチャンスはある。

……何のチャンスかわからないが。

俺は震えながら、音を立てないように縮こまる。

心臓の音がうるさい。

この音が外にまで聞こえそうなぐらいだ。

『それ』は部屋の中をずっとうろうろしている。

俺を、探している。

お願いだから、とっとと部屋から出て行ってくれ。

そして俺を解放してくれ!


ベッドの側で『それ』が立ち止まった。

全身の血の気が引いていくのがわかる。

それでも鼓動の音だけはうるさく響く。

『それ』は膝を曲げて、今にもベッドの下を覗き込もうとしていた。

もうダメだ。

俺はここで死ぬんだ。

俺はギュッと固く目を閉じた。











鳥のさえずる声が聞こえる。

微かに暖かい何かを感じる。

俺はゆっくりと目を開いた。


そこには何もいない。

あるのは、窓から差し込む日の光だけ。

朝だ、夜が明けたんだ。

俺は急いでベッドから這い出し、窓の外を見た。

なんて明るい。

心底ほっとした。

町の喧騒が微かに聞こえる。

ここに主がいた頃は、それはもう素晴らしい朝を迎えていたのだろう。

さあここから出よう。

窓は、開かないらしい。

そういう風に最初から出来ているようだ。

廊下に出る。

見覚えがある。

ここは最初に入った部屋だ。

玄関からそう遠くはない。

ここまで逃げてきていたのなら、そのまま玄関まで走れば良かった。

まああの時は無我夢中だったし、パニック状態だったんだ。

わからなくても仕方ない。


さほど時間もかからずに、俺は玄関へと辿り着く。

昨晩のあれは一体なんだったのだろう。

そして友人は一体どうなってしまったのだろう。

結局答えは出なかった。

このまま友人が見つからなければ、いずれ警察は捜索を止めるだろう。

行方不明者として扱われるに違いない。

しかし俺にはもう、友人が消えた理由を探す気にはなれなかった。

あんなものを見た後では。

あんなものに関わっていたかもしれないと考えれば。


とにかく、俺は無事生還出来た。

とっとと家に帰って寝てしまおう。

なにせ夜通し走り回ったのだ。

もうへとへとだ。

そして俺は玄関の戸を開く。


























外は真っ暗だった。

背後で叫び声が聞こえた気がしたが、それを確認することは叶わなかった。


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