CLAMARE -子の刻- / MAX MAXIMIZER
時計の音が聞こえる。
壁に掛けられた古い時計は、今でもまだ時を刻んでいるらしい。
外は暗く、月すら見えない。
この部屋には友人はいないようだ。
俺は時計が12を指し示したのを見ながら、部屋を後にした。
何故俺がこんな肝試しまがいのことしているのか。
一言で済ますならば「人探し」なのだが、それなら別に夜中に拘る必要はない。
なんのことはない、日中は警備が厳しくてこの屋敷に入れないのだ。
それが何故か夜になると警備が全くなくなる。
「立ち入り禁止」のテープだけが、怪しく発光しているかのようだ。
この屋敷は元々から立ち入り禁止だったのだが、こんなに警備は厳しくなかった。
こんな風になったのは、あの日からだ。
友人が消えた日。
友人はオカルト好きだった。
以前から「夜になるとあの屋敷から誰かの叫び声が聞こえる」とは言っていた。
そしてそれを確かめに行こうと俺を何度も誘っていたのだ。
俺は当然断る。
オカルトなんざ信じていないから。
加えて、よくあの辺りを通るが、そんな叫び声は聞いたことがないからだ。
そう返すと、友人はふて腐れたように「つまんないの」と口を尖らせるのだった。
あまりにしつこく誘ってくるものだから、友人は一人で行く気などないのだと俺はその時思っていた。
ところがあの日、友人は俺に電話で単身であの屋敷に行くと告げたのだ。
「俺の身に何かあったら、その時は頼む」
そう言い残して、友人は姿を消した。
廊下を歩く。
何故一人で行かせたのだろうと後悔するも、それは無駄だとすぐに思い直す。
一体友人は俺に何を頼んだのかはわからなかったが、それでもやはり友人のことが心配だった。
だからこうして俺も来たのだ。
この屋敷に。
今のところ叫び声など聞いていない。
友人の言うことを疑っていたわけではない。
むしろ一体何の叫び声なのだろうと疑問を感じていたぐらいだ。
俺は聞いたことのないその叫びは、もしかしたら友人に向けたものではないのか。
そう考えもした。
確証などない。
現実はまるでその考察通りに見えなくもないが。
空の花瓶が飾られているのを尻目に、角を曲がる。
先ほどからいくつかの部屋に入ったり、こうして廊下を練り歩いているが、この屋敷は思ったより広い。
いつまで経ってもマッピングが終わらないような気がする。
もしかすると異次元にでも繋がっていて、友人もそこで永遠の時を彷徨っているのではないだろうか。
……なんて馬鹿げている、有り得ない。
しかし姿を消したのは事実だ。
仮に友人が帰らぬ人となってしまっているにせよ、俺はこの屋敷で何があったのかぐらいは知りたい。
オカルトなんざ信じていないが、友人を消す何かがここにはあったはずなのだ。
それによって俺も消されるかもしれない。
そうなったらそうなったで、世間では騒ぎになるだろう。
この屋敷の調査か、取り壊しか。
どんな措置を取られるにせよ、解決には向かうだろう。
目についたドアに手をかける。
この部屋に入ってみるか。
そっと押し開けていく。
中は当然真っ暗。
懐中電灯を部屋の中に向ける。
誰もいない。
あるのはテーブルと椅子、あとはベッド。
寝室だろうか。
ア”ア”ア”ア”ア”ッア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ァ”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”……ッ!!!!
……っ!?
体がビクッと震える。
い、今のは、叫び声か?
誰の?
どこから?
頭が混乱に支配される。
落ちつけ、落ち着け。
きっと今のが友人が聞いた叫び声だ。
友人はこれの正体を確認しに来たはずだ。
だから?
それで?
ダメだ、訳がわからない。
一旦この屋敷から撤退しよう。
今のは間違いなく、ヤバい。
初めて聞いたが明らかに常軌を逸している。
今の頭の状態では、冷静に対処出来ないだろう。
そう考えて踵を返そうとした瞬間、俺の瞳に『それ』は映った。
今の今まで部屋の中には誰もいなかったのに。
いつの間に。
『それ』はまるで、頭を抱えるようにして蹲っている。
今の叫び声はこいつか?
俺は退却することを忘れて、『それ』と向き合った。
『それ』が俯いている以上、向き合うというのは変な感じだが、こいつは明らかに人間ではない。
こいつの意識は今間違いなく俺に向いている。
『それ』はゆっくりと顔を上げていく。
なんだこいつは……!?
まるで人間を溶かしている最中のような、そんなよくわからないモノ。
歯のようなものが見える。
あれは口か?
相変わらず頭を抱えており、見えるのは口らしきものと鼻のみ。
その口が、ゆっくりと、開かれていく。
ア”ア”ア”ア”ア”ッア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ァア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”……ッ!!!!!!!!
鼓膜が震える。
足が竦む。
汗が滲む。
何をじっくり観察しているんだ、俺は。
脳をつんざくようなその叫びに、俺は我に返った。
『それ』がよろよろと近寄ってくる。
逃げなくては……!
俺は勢いよくドアを開いて、元来た廊下を駆け戻った。
なんだあれは、なんだあれは。
そんな言葉にならない言葉が零れる。
理解が追い付かない。
オカルトなんて信じていないが、あれはもはやそんなレベルではない。
良くないものの一言で済ましてはいけない。
恐らくあれが友人をどうにかしたのだろう。
しかし俺には敵討ちなど無理そうだ。
友人には悪いが、俺は逃げさせてもらう。
花の活けられた花瓶を尻目に、角を曲が……、おい待てよ。
さっきは花なんて活けてなかっただろう?
なんでこんなに瑞々しい花が活けてあるんだ?
疑問が脳みそを駆け巡る。
しかし俺は立ち止まらない。
そんなことより逃げなくては。
角を曲がった俺が見たものは、割れたガラスと、明らかに先ほど歩いてきた場所とは異なる廊下だった。
......




