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音芸神話 - yukito's side story -  作者: 七海 雪兎
第三章 -expander-
23/69

龍と少女とデコヒーレンス / 黒猫ダンジョン


「会いに、来たのよね?」


彼女が確信を持って確認する。

対する私は肯定の沈黙。

この対話も何度目だろうか。

今度こそ私はやり遂げなければならない。

もうそろそろ身体も持たないだろう。

私が電子の塵へと還る前に、世界を取り戻さなければ。


それ以上彼女は口を開くことはなく、ただ物悲しそうに傍らに携える龍を撫でた。

龍が吠える。

撫でられた心地よさと、主人を害するモノに対しての敵意を込めて。

出来れば戦闘を避けたいというのが私の本音だが、あいにく龍の言葉はわからない。

だから彼女に目線を送る。

敵意はないのだと。

ただ、話し合いがしたいのだと。


首を傾げる。

表情を一切変えることなく。

そしてゆったりと口を開いた。




「どうして、どうして私たちはいちゃいけないのかな」




かつて彼女たちは、世界から「許されざる存在」として追放された。

彼女たちは散り散りに消滅し、平和な世界は続いていく。

その平和が破られたのが数年前。

龍や魔法のような『お伽話』ではなく、科学が支配する世界。

全てが闇に隠されて、誰もが過去を忘れた頃。

世界は崩壊した。

粉々に。

完膚なきまでに。

一人の少女と、龍によって。

彼女たちは世界から追放されてなお、生き続けていた。

世界の闇の中で。

世界の裏側で。

離れ離れになってしまっても尚。

そして彼女たちはついにお互いを見つけたのだ。

存在していない世界の中で、お互いの存在を確かめ合った。

今度こそ離れ離れにならないようにと、鎖でお互いを繋いで。

長い時が過ぎた。

それでも彼女たちの関係は変わりはしなかった。

彼女は龍を愛し、龍もまた彼女を愛す。

ただそれだけのこと。

ただお互いを愛しているだけなのに、どうして存在してはいけないのか。

そこにいるだけなのに、それが許されない。

彼女は認めて欲しかった。

世界に存在してもいいのだと、主張したかった。


しかし世界は、またも彼女たちを拒絶した。

既に科学にとって龍などお伽話にしか過ぎない。

だから想像もしていなかったのだ。

龍という存在が、科学を得るなんてことは。


そうして世界は崩壊する。

少女に悲しい顔をさせないように。

少女の望みを叶えるために。

世界は崩壊する。


礫のように。

塵のように。

粒のように。


世界は世界の形を失う。

少女のための世界を構築する。

裏側が表になってしまえば、少女たちは許される。

そう信じて。











崩壊していく世界。

形を失っていく視界の中で、私は自分を保っていた。

既にクラスメイトはどこへ消えたかわからない。

しかし自分の手がここにあるのは見える。

体も、足も、髪の毛も。

全部見える。

もしかしたら他人から見れば見えないのかもしれない。

けれども私には私は無事なように思えた。

根拠はない。

けれどそう頭が認識している。

段々何もわからなくなる。

ここはどこ?

私は、私だ。

……と思う。

というのも、世界が崩壊し始めてからずっと、私の脳内に私のものではない記憶が浮かんでは消えていくのだ。

これは誰の記憶?

私の記憶?

だとしたら私は誰?

ぐるぐると悩みながらも、自分の記憶が残っていることに気が付く。

やっぱり私は私なんだ。

とするとこの記憶はなんなのだろう。

妄想にしてはやけにはっきりしている。

今私は夢でも見ているのだろうか。

頬をつねる。

痛い。

こんな世界になっても痛いと感じるということは、これは夢でもないし私は無事だということだ。

それでもやはりもやもやする。

何かが喉の奥につっかえているような、そんな感じ。




そうやってあれこれ考えている内に私は出会ってしまった。

龍と。

そして私は全てを思い出す。


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