CaptivAte ~裁き~ / DJ YOSHITAKA -其の壱-
歌声に目を覚ます。
今宵も彼女が歌っているようだ。
「眠れないのか?」
この問いも何度目だろう。
そして彼女も何度目かの無言。
静かに首を振ると、彼女は空を見上げた。
一体何を思っているのだろう。
彼女をあそこから連れ出したのは紛れもなく私だ。
それが正しいと思っていたし、彼女も賛同していた。
なのにあの目だ。
哀しみを含んだ眼差し。
決して私に向けられることはない哀しみ。
まだあの世界に未練があるというのだろうか。
それとも今更後悔しているのだろうか。
彼女は眠らない。
否、彼女はあの日から眠らなくなった。
こうして歌う夜が幾度も続いた後に、死んだかのように気絶する。
そして彼女が倒れるたび、心のどこかで安堵している自分がいる。
そんな自分が怖い。
彼女を愛しているのに。
何故倒れて安堵など出来ようか。
私が愛した彼女の歌声が、今では私の胸を締め付ける。
どうしてだろう。
「そこは寒いだろう・・・?」
私はそっと彼女を抱き寄せた。
彼女は抵抗することなく目蓋を閉じる。
そこに僅かに雫が零れ落ちたのを、私は見逃さなかった。
私たちは旅に出ることにした。
いつまでもここにいては、きっと良くないことが起きる。
連中にいつ居場所がバレるとも限らない。
ここで過ごしたのは一年にも満たなかった。
せめてここでの四季を見ていきたかったが、これ以上彼女の哀しい顔は見たくない。
彼女の笑顔を探すために、私たちは行くのだ。
私は一度、彼女に問うたことがある。
「何故そんな哀しい顔をするのか」
答えてはくれないと思っていたのだが、彼女はすんなりと答えてくれた。
「この大地からは逃れられません。
私も、貴方も。
こうして貴方を巻き込んでしまったことが、
どうしようもなく私は悲しいのです」
それだけだった。
その言葉の意味することは私にはわからない。
しかし大地から逃れられないと言うのならば、逃れてみせようではないか。
彼女の言った大地がどこまでを指すのかは知らないが、大陸さえ出てしまえば大丈夫に違いない。
私はそう考えて、港へと向かった。
海を見つめる彼女。
心なしか怯えているように見える。
私が渡航の手続きをしている間も、彼女は私から一歩も離れなかった。
彼女を安心させようと微笑みかけても、彼女は海ばかり見つめている。
海に映る空を見ているのかもしれない。
いずれにせよ、海の向こうへ行ってしまえばきっと彼女も笑ってくれるだろう。
あちらには美しいものがたくさんある。
そして私たちは船へと乗り込み、出港の時を待った。
......




