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音芸神話 - yukito's side story -  作者: 七海 雪兎
第三章 -expander-
18/69

CaptivAte ~裁き~ / DJ YOSHITAKA -其の壱-

歌声に目を覚ます。

今宵も彼女が歌っているようだ。


「眠れないのか?」


この問いも何度目だろう。

そして彼女も何度目かの無言。

静かに首を振ると、彼女は空を見上げた。

一体何を思っているのだろう。

彼女をあそこから連れ出したのは紛れもなく私だ。

それが正しいと思っていたし、彼女も賛同していた。

なのにあの目だ。

哀しみを含んだ眼差し。

決して私に向けられることはない哀しみ。

まだあの世界に未練があるというのだろうか。

それとも今更後悔しているのだろうか。


彼女は眠らない。

否、彼女はあの日から眠らなくなった。

こうして歌う夜が幾度も続いた後に、死んだかのように気絶する。

そして彼女が倒れるたび、心のどこかで安堵している自分がいる。

そんな自分が怖い。

彼女を愛しているのに。

何故倒れて安堵など出来ようか。

私が愛した彼女の歌声が、今では私の胸を締め付ける。

どうしてだろう。


「そこは寒いだろう・・・?」


私はそっと彼女を抱き寄せた。

彼女は抵抗することなく目蓋を閉じる。

そこに僅かに雫が零れ落ちたのを、私は見逃さなかった。





私たちは旅に出ることにした。

いつまでもここにいては、きっと良くないことが起きる。

連中にいつ居場所がバレるとも限らない。

ここで過ごしたのは一年にも満たなかった。

せめてここでの四季を見ていきたかったが、これ以上彼女の哀しい顔は見たくない。

彼女の笑顔を探すために、私たちは行くのだ。


私は一度、彼女に問うたことがある。


「何故そんな哀しい顔をするのか」


答えてはくれないと思っていたのだが、彼女はすんなりと答えてくれた。


「この大地からは逃れられません。

私も、貴方も。

こうして貴方を巻き込んでしまったことが、

どうしようもなく私は悲しいのです」


それだけだった。

その言葉の意味することは私にはわからない。

しかし大地から逃れられないと言うのならば、逃れてみせようではないか。

彼女の言った大地がどこまでを指すのかは知らないが、大陸さえ出てしまえば大丈夫に違いない。

私はそう考えて、港へと向かった。






海を見つめる彼女。

心なしか怯えているように見える。

私が渡航の手続きをしている間も、彼女は私から一歩も離れなかった。

彼女を安心させようと微笑みかけても、彼女は海ばかり見つめている。

海に映る空を見ているのかもしれない。

いずれにせよ、海の向こうへ行ってしまえばきっと彼女も笑ってくれるだろう。

あちらには美しいものがたくさんある。


そして私たちは船へと乗り込み、出港の時を待った。



......


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