凶行再び
しかし、魯の君主に呉起を讒言する者があった。
「いいですか、呉起は確かに才人かもしれませんが、出世欲が強く、好色な男です。故郷では、自分を謗った者三十人を殺しました。何とも極端で危険です。用いるべきではありません」
「それは本当か?」
魯君主が聞いた。
「本当です。それに、呉起の妻は斉の女です。妻の故郷である国と、本気で戦などしますでしょうか。反対に我が国の情報を流して寝返るかもしれませんぞ」
この讒言は非常に効果があった。魯君主は呉起の起用を中止にした。
呉起がいつ頃妻帯したかは分からないが、この時にはいたらしい。妨害を知った呉起は、妻を呼んで言った。
「俺は疑われている。お前が斉の出身だからだそうだ」
妻は、泣きそうな顔になった。
「あなたが立身のために努力なさっている事は知っています。でも、だからといって私を離縁なさったりはしないですよね?」
「離縁はしない。だが手段はある。すまん、許せ」
「なぜ謝りなさるの? 離縁以外なら、何でもお手伝い致しますわ」
「そうか」
なんと呉起は、その場で剣を抜いて妻を斬り殺してしまった。
この事が魯君主に伝わり、呉起は誠意を認められて将軍の位を与えられた。そして大国・斉を攻めて勝ち、大きな戦果を上げた。
だが、呉起の活躍はここでストップした。魯君主は、出世の為なら妻でも斬るような彼を不気味に感じたのだろう。やがて呉起の実権を取り上げて、起用しなくなった。