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~プロローグ~

 恐れを知らないことと、勇気があるということは、全くの別物である――


 それが加賀見(かがみ)日向(ひゅうが)の昔からの持論だ。


 勇気とは、恐怖に抗う力である。怯える心に屈すまいとする心である。それは、どれだけ恐ろしいと感じるものが多くても関係ない。どれだけ何かを恐いと感じる気持ちが強かろうと問題ではない。肝心なことは、その恐怖に立ち向かおうとすること。その恐怖に打ち克とうとすること。その気持ちがあることこそが、勇気があるということであり、それを果たせることこそが勇敢であるということなのだ。


 しかし、恐れを知らないことは違う。恐れるものがないということは、それに抗う気持ちがないということ。恐いと感じるものがないということは、勇気を振るう機会がないということ。何故なら、恐れるべきものに心が動いていないから。怯えるべきものを平然と受け入れてしまうから。心に負担がないのなら、それに対するべき勇気が表れるはずもない。


 何事にも臆すことなく、怯むことがない心。勇気を振るうまでもなく、行動できる心。それはそれで、強みと呼べるのかもしれない。

 しかし、日向にはそれを強さと思うことができなかった。恐怖という感情に立ち向かうこともなく、ただその不在を理由に安穏としている。それは、ただの無知に過ぎないのではないだろうか。

 恐怖という辛苦を前に、逃げ出さず、目を背けず、真っ向から抗おうとすること。その勇気という感情の方が、余程強いと思う。知らないからこそ歩みを止めない者よりも、知っていて尚歩み続ける者の方が、ずっと強い。


 日向は、そう信じていた。日向自身が、“恐れを知らない”者だから。




 本物の勇気なんて、何処にあるのだろうか――


 それが、キャローラ・カワードのしばしば感じる疑問だ。


 人は、誰しも恐ろしいことと向き合うことはしない。目を背けるだけで、真正面から受け入れることなんてできない。

 恐怖とは、拒絶の表れなのだから。心が、それを受け入れることを拒んでいるのだから。

 それでも人が恐怖すべき何かに向かっていく理由は、ただそれ以上の恐怖があるからだ。ある時は、臆病者と(そし)られることが。ある時は、義務を果たせぬことで受ける罰が。ある時は、失敗することで何かを得られぬことが。その時々で恐怖に屈したがために支払う代償、それへの恐怖が向かっていくことへの恐怖を凌駕した時、人は初めて恐怖に立ち向かえる。


 結局は、恐怖から逃げているだけのこと。代償を恐れて、自分をごまかしているだけのこと。そんなものを、勇気と呼べるのだろうか。そんなものを、恐怖に打ち克つといえるのだろうか。

 もし、本当にそれが勇気だというのなら、そんなものになんの価値があるというのだろう。そんなものが、どんな強さだというのだろう。


 キャローラには、答えを出すことができなかった。キャローラ自身が、余りに抗いがたい“恐怖を知る”者だから。

 タイトルの「Fearless of Courageless」、意訳すると「勇気のない恐れ知らず」。矛盾しているようですが、読んでいただければ納得していただける作品になるように頑張ります。ちなみに、「Fearless」は正式な英単語ですが、「Courageless」は造語です。

 ※タイトルですが、「of」ではなく「with」を使うのが正しいと判り、「Fearless with Courageless」に変更いたしました。無学で誠にお恥ずかしい限りです。


2013/07/22 メインタイトル修正、加筆修正

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