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timeⅩⅠ


やっとこさ!


久しぶり過ぎてユラのテンションがおかしいです。


 最初に目が覚めてから、二週間が経った。



 その間、ヴァルドは仕事もなく暇なのか毎日来てくれて、何かと世話を焼いてくれている。ケイは四日目辺りから、狙ったようにヴァルドがちょうどいないお昼時とか夜を狙って来ていて、なんだか色々とくだらない話をしては帰って行っている。……正直、助かった。自分がやったこと、今の状況、思い出したとはいえ、すぐに心の整理がつけられた訳じゃない。気持ちをそらして貰えるのは、すごく有り難たかった。………まぁ、なかなか真剣にお礼なんて言えなかったけれど。


 そんな彼が、昨日話していたことを―――ぼんやりと頭の中で反芻する。


“…あぁそうだ。明日、シザーズとそれからもう一人連れて来る。ま、楽しみにしてろ”



「どういうつもり、かしらね…」


 目を瞑って腐れ白髪の思惑を考えても、考えを読みとらせないにやけ面からは何も分からない。そのときはそのときと唇を噛む。


「………どっちにしろ、それなら言わなくちゃ、ね」



 少しだけ回復した体を捻って呟くと、ドアに誰かか近づいてくる気配がした。1、2…3人、か。


「どうぞ?鍵は開いてるわ。お出迎え出来ず申し訳ないけれど…」

「―――誰も病人にんなこと期待しちゃいねぇよ。邪魔するぜ?」


 呆れたように言いながら最初に入ってきたのはこの数日ですっかり見慣れた白い髪。まぁ、予想できたことだ。そして次に入ってきたのが、


「そりゃ、そうよね…」

「おや、どうされました?ユラ様」

「大体、王様と宰相が二人そろって見舞いって…。大丈夫なの?」

「うちの部下は優秀ですから。もうほとんど事後処理は済んでいますしね」

「………そう」


 半分諦めの境地で脱力して言うと、楽しげに目を細めたケイがドアの方を振り仰いだ。


「俺らのことはどうだっていい。メインはこっちだ。―――…おら、入れ」

「っえっとっ…、はい!」



「え…」



カツン、と軍人特有の革靴が床を鳴らす音。暖かい、気配。間違えるはずもない。


「お久しぶりです!ユラ様!」


 にっこり笑う軍服と不釣り合いに幼い顔に――――あたしの涙腺は崩壊した。





 多分生きているだろうとは、思っていた。あたしがあの村を訪れた時点では、間違いなく生きていたのだ。


 だけど、その後きっと何時間もあの吹雪の中放置されていたこと。傷を抉るような攻撃を、忌々しい――あの帝国兵から受けていたこと。そして誰からもレノの状態を聞かされなかったことから、もしかしたら死んでしまったのではと……恐れていたのも事実だ。


 怖くて自分から誰かに尋ねることなど出来なくて―――だから、だから。


 思わず立ち上がってレノを抱き締めてしまうのも、仕方のないことなのだ。




「う、ひくっ…良かったっ…!良かった本当に!!」

「ユ、ラ様……」

「生きてて、ホントに、っああもうっ!…えぐっ」

「あ、う…ぼ、僕もユラ様と再会できて…本当に…」

「レノッ…レノ!」

「あ、あううぅ…」



「―――おい、ユラ」



「…無粋ね。レノとの感動の再会を邪魔しないでくれる?」


 きりりと90°、きっちり頭を回してケイの方を向くと、うわぁ…と言いたげに野性的に整った顔がひきつっていた。


 ……何か文句でも?そんな意を込めてくい、と片眉を上げると、ケイが同情するようにレノの方を見ながら言う。


「そいつ…グリフォードも病み上がりなんだ、あんま締め上げんな」


会って早々死ぬぞ、と言われてレノを見ると、確かに顔色が青くなるを通り越して白くなっていた。


 慌てて腕を放し、すーはーと呼吸を繰り返すレノの背中を擦りながら話しかける。


「も、もう…辛いなら言ってちょうだい」

「いや、それはムリだろ」

「そんな、レノを殺しそうになるくらいの腕力、あたしにあったかしら…」

「無視か。……じゃなくて、あぁそうだ、そのことも今の話に関係してる。―――だから、ユラ、気持ちは分かるが一旦座れ」


 ほら、とベッドを示されしぶしぶ座る。ちらりと横目に見たレノがまだ具合が悪そうで心配になるが、死にそうな程ではない。 その話も気になるしと、無理やりケイとシザーズに目を戻した。



 話を促すように目を合わせると、ケイはこくりと頷いた。


「まず、お前が神からの“祝福”を受けたんだってのは、分かってるな?」

「…ええ」


 小さく頷く。

 自ら神だと名乗ったあの声に、力を与えられたこと。それが、“祝福”なのだろうとは、自分でも予想が付いていた。


「んで、その“祝福”によって、お前の体に何が起きてるのか。まずは、それを話さなくちゃならねぇ。――リィ坊」

「………ふぁいはい、いるよぉん」



 不意に。

 眠たげなだらけた声がして、ドアの辺りに新たな気配が現れた。思わずびくりと肩が跳ねて、振り返るとあの――金髪の女がいた。



 彼女は緩やかに頭をかいて大きな欠伸をしながら、音もなく近付いてくる。


「はあぁ、ったく…。再会の挨拶が長すぎて、眠っちゃうかと思ったよん。以後、気を付けなねぇ」

「っは、はいっ!」


 流し目を送られたレノがびくっと跳ねて、勢いよく敬礼をした。


 敬礼、ってことは…。軍人、しかもレノの上司、ってこと?その様子を見てくっくっと楽しげに笑いながら、女はシザーズの隣まで来て、止まった。そして、こちらを見て、まるで猫のように目を細める。


「おっひさー。いつかぶりだぁねぇ、ユラりん?うんうん、だぁいぶ回復したって感じぃ?良かった良かったぁ」


 にこにこ笑う彼女に、なぜか頭痛がしたように下を向いたままのシザーズが、唸るように言う。


「一度、会っていますよね?……彼女はリグレイ。リグレイ・グラシオ・アルティマーナ。王国軍総隊長で、現在魔族最強の戦士。それから、魔眼の持ち主でもあります」

「……へぇ」


 最強、という部分が興味を引いた。魔眼というのはよく分からないが、つまり、彼女はここにいる誰よりも強いということだろう。正直、厳つい訳でもなく、あまり戦っているのを想像できないような女性ではあるが、一度見てみたいとは思いつつ、よろしく、と笑みを浮かべる。


「こちらこそ、よろしくねん♪」


 ぱちん、とウィンクされた。

……随分、フランクね。


 挨拶が一段落した所で、こほん、とケイが仕切り直すように咳をした。


「あー、それでだな。まぁ今言った魔眼ってやつで、お前の魔力を見てもらった」

「魔眼、っていうのは…」


 何となく想像は付くがと思いつつ尋ねると、あぁ、とケイは頷いた。


「お前の想像してる通りだと思うぜ。おおざっぱに言うと、魔力を“読む”力だな。完全な先天性で、訓練で習得は出来ねぇが」

「なるほど」


 言いながら、ふとリグレイの方を見ると、


(…………?)


 何故か、彼女は少しだけ寂しそうな顔をしていた。どうしたのだろうとしばらく見つめていたが、それも、目が合うと華やかな笑みに変わる。


「にゃあにユラりん、どぉかした?」


「…いいえ。………それで?」


 気のせいだろうと一度瞬きをしてからケイの方に向き直ると、彼もまた妙な表情をしていた。瞳に微かな呆れと苛立ちみたいなものを浮かべて、シザーズを見ている。当の本人はレノでなんか遊んでいるが。


「?ケイ?」

「え?……あぁ、悪ぃな。で、そうだ、魔眼でお前のことを見てもらった訳なんだが…」


 先を促す視線を向けられ、リグレイが元気よく手を挙げた。

「はいはーい。まずは、基本的なことから話そっかぁ。さっきも話してたけど、以前より強化される体力、超感性、それから、さっきユラりんはドアを開ける前にみんなが来てたことに気付いてたよねん?」

「えぇ」

「それって感覚的なもんだし、よくは分かってないと思うけど、要するに魔力を読んだってことなんだにゃあ。これまでにも…覚醒以前もたぶんそういったのはあったでしょお?」

「……あぁ」


 言われてみれば、と思い出す。

 短剣になったクロスが分かったこと、それから、レノと廊下で会った日に悪寒が走ったこと、あれもその一つなのだろう。

 頷くと、にこりと笑われる。


「本来は魔力を読むってのはリィたち魔眼保持者の専売特許なんだけどぉ…、たぶんユラりんの場合、魔力のタイプ的にそれが付加能力になってるんじゃないかにゃー?だからそこまで詳しいことは見れないと思うから、どっちかってと読むつーよりは感じる、かなぁん?」


 一人で納得したようにうんうん頷くと、じゃあ次ね、といつの間にか手に持った紙にリグレイは目を落とした。


「えっと、ユラりんの魔法のタイプ、ねぇ。ていうかこれは実際に見ての判断も混ざってるんだけどぉ…。魔法は、空間操作系。あ、魔法に特に分類とか無いけど、今は便宜的にねん。で、こっからかなーり離れたクレド村にユラりんが行けたのも、それを活用したんだと思われるにゃあ」

「なるほど…」

 それなら、とケイが呟く。あたしの感覚が鋭敏なのは、空間を把握するためらしい。


 更にリグレイが言うことには、攻撃もそれを使っただろうとのことだ。空間を自由自在に歪めて、“見えない(インビジブルナイフ)”を作り出す。物理法則を無視した不可能っぽい話だけど、物凄い集中力と膨大な魔力があれば、可能だろうという。戦況を観察してその答えを導き出したというリグレイに多少思うところはあるけれど、今は置いておくしかない。


「…それから、あともう一つ」


 少しだけ沈んだ声音に、どうしたのかと眉を寄せると、彼女はそれはそれは至極残念そうに吐息を零した。


「たぶんね、もうあの時ほどの力は…、ユラりんがどれだけ頑張っても、出せないと思うのん」

「…?どういう、」


「――不思議に思わなかったか?」


 それまで黙って話を聞いていたケイが、ヤケに真剣な口調で話に入ってくる。何が、と問い返せば、彼はシザーズと談笑しているレノの方へと顔を向けた。


「あいつは、あの日、身体的に死にそうな程の怪我を負って、だけど今は歩けるくらいに回復してる。一方お前は、二週間経った今でも立ち上がるのがやっと。さっきも、無理して立ち上がったみたいだがかなりキツかっただろ?」

「………」


 実際、その通りだった。大した外傷がないのに、体が驚くほど動かない。初日に動かせたのが頭だけなのにも内心かなり驚いたし、さっきも、ふらつきそうになるのを支えるので実は精一杯だった。

 まるで、体の中から体力を根こそぎ奪われたような…―。


「魔力の回復は、体の回復よりずっと遅いんだ。お前は、力を使いすぎた。……それだけ傍若無人にバラまいた魔力は、数十年単位でしか戻らねぇ」

「もうっ、ユラりんてばもっと加減してよねん!一回戦ってみたかったのにぃ!」

「お前な…」


 ケイの呆れた声を聞きながら、あたしはじっと考えていた。

 ケイがわざわざそのことを今話した理由はわかる。



 だけど、それを考えると尚更、苛立って、仕方がない。



「――――ふざけないでくれる?」



 びくり、とやや離れた場所で話をしていたレノが肩を震わせ、シザーズが振り返るのを視界の隅に捉えた。ケイとリグレイはさすがというか、顔をこちらに向けただけでぴくりともしない。どちらにもかまわず、ニヒルに笑んであたしは続けた。


「拒否権無く召還されて、勉強だとか言ってあちこち連れ回されて、調べてみたら戻る手段もない。――…魔王?これだけ巻き込んどいて、ふざけんじゃないわよ、」



 すう、と目を細める。

 言いたいことは、一つだけ。

 躊躇無く、あたしはその一言を口にした。







「…魔王なんかじゃ満足しないわ。あたしは、」



 この世界の支配者になる。






こんな世界は変えてしまおうと、笑う。


あたしの大切なものを傷付ける世界なんていらないのだ。破壊して、めちゃくちゃに引っ掻き回して、あわよくば都合よく作り替えてしまおう。


 唖然とするレノイとシザーズ、予想してたような顔で苦笑するケイに、腹を抱えて爆笑するリグレイ。


 なぜ笑ってるか分からないが、正直どうでもいい。というか、若干ネジが飛んだ人物なのは少ないやりとりで理解したので放っておく。


「魔力がないって…、危険だって教えて、退く理由を作ったつもりでしょうけど。――残念だったわね、あたしは暴力より暴力的な力を、持ってるのよ?」





「…お前は、本当にそれでいいんだな?」


 ケイの確かめる言葉に、わざとらしく息をついて首を振る。


「くどいわね、いいっていってるでしょ」



 悩まなかった訳はない。

 いくら政治家になりたかったとはいえ、この国の将来を担うのはいろんな意味でリスクが高すぎる。


 今までの常識が通用しない世界で、果たしてどれだけのことを出来るのかは分からない。命を賭けるほど、長い年数過ごしてきたわけでもない。元の世界が恋しくなったとしても、王という立場じゃ想うことすら禁忌だろう。不安を挙げればきりがない。



 ……だけどもう、自分の気持ちに嘘をつけないのだ。


 何も出来ないのは嫌だと、そう思った時点で詰んでいた。


「……ははっ、そうか」


少し間を置いて、ケイが思わずと言ったように笑う。いつもの余裕綽々な表情はそこになく、似合わないくらい子供っぽい笑みだった。それからこちらに向き直って、口元は笑みをたたえたまま、真剣な瞳でじっとあたしを見据える。



「その選択がお前を追い詰めないか?」


「100%ない…とは言い切れないけど。その時は覚悟と心中するまでよ」


「潔いこった」


「当然」


「………」

「………」

「あとな、」

「……なによ」


「お前、魔王になるっていうけどな」


「……」


「実際のとこもう半分以上魔王だぞ。シューベルトも裸足で逃げ出」


「――言い残したことはそれだけかしら?」


「いたたたたたたた痛い痛い痛い痛いから!ちょ、おいまてマジ勘弁お前病人の癖にどっからそんな力出て来ぁあぅぇあぎゃげほ」




 ………訂正。

 人が真面目に話してるっていうのに空気を読まない年代物の粗大ゴミも、破壊して構わないわよね?




10話=半年以上かけて決心したユラさん、


なんて壮大なツンデレ



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