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timeⅩ


本日二話更新予定。


どうしても書きたいシーンがあるので、そこに行き着くまではガツガツ行きたいと思います。


「ここ、は…?」


気が付くと、見たこともない場所にいた。周りは真っ白で、何も無い。木も草も、家も、人っ子一人いない。屋内だとしても、窓もドアも壁すらない…不思議な場所だった。ここは、どこだろうか。次第に不安になってきて、辺りをきょろきょろと見回しながら考えていると――…突然、目の前に人影が現れた。


誰、と問うまでもない。ふわふわした金髪にやや低い身長、振り向いたその顔は、



「!…レノ!」



どうしたの、と言って駆け寄ろうとして、―――気付く。



辺り一面が、血の海になっていた。



「え…、」

なんで、こんな、どうして。頭の中が混乱でぐるぐるして、走りだそうとした足は動かなかった。背後から伸びてきた手に、足を掴まれていた、のだ。ぞわりと全身に鳥肌が立ち、バッと振り返ると、………床に這い蹲る男性がいた。生気のない、土気色の肌。目は虚ろで、けれど貪欲にギラギラと輝いていて。


―――そうだ、レノは、彼は。帝国軍に捕らわれて、死にかけていたはずで。あたしは、意識を失って、それから…?


「ッ、離して!」

思い切り足を動かし男の手を振り払って今度こそ走り出す。嘘よ、嘘よね、と譫言のように呟いてただただ走りつづける。なのに、どれだけ走っても、彼との距離は縮まらない。


「なんで、…ッレノ!」


名前を呼べば、振り返った影。けれど、今度はレノの方が、少しずつ、少しずつ。遠ざかってゆく。


「なんで、レノ、どうして…!」

微笑んだレノが、穏やかに手を振って。


「待って、…待って!」




「レノ!」


がばりと思い切り起きあがると、ごちんと額に鈍い衝撃が走った。………いや、違う。起き上がってはいない。体はほとんど動かず、ほんの10センチほど頭が上がっただけだった。


「…………んぁ、起きたぁ?」

「?!」

「にょ?…あぁ、ごめんごめぇん。最近めっきりリィに慣れてないヒトに会う機会なんて無かったからにゃあ。驚かせちゃった?………ちょっと待ってねん、すぐ終わるから」

鼻がくっつきそうな距離でにぃ、とニヒルに口端を上げたのは、見たことのない人…というか、見たことのない目、だった。片方は零れた髪と同色の金色だが、もう片方は違う。深い群青に星屑のような…不思議な光。それも彼女(?)が顔を離すと共にゆっくりと明るい色合いになっていき、顔を上げきるころには金に戻っていた。


「あなた、は…?」

「んー?リィはね…っとあぁ、動いちゃだめだよユラりん。大分消耗してるんだから」

そう言われてダメダメと指を振られ、体がベッドに無理やり戻される。魔法、だろうか。

「……まぁユラりんが回復したら、きっとまた会うことになるよん。それまでバイバイ、ねぇ?」

にこりと笑って手を振って、開いたままのドアから女は出て行った。と思ったらあぁそうそう、とまたひょっこりドアから半分顔を出した彼女が口を開く。

「王子クンがね、そこでずぅっと、君の手を握って、介抱してたんだぁよ?………ありがとうって言いなねぇ」

王子くん?と戸惑うあたしを残して、彼女は跳ねるように去っていった。そういえば、さっきから右手に違和感。なんだろうと今更ながら、ドアとは反対側に顔を捻ってみると、


「え、」

「…気が付いた?」


仏頂面でこちらを見つめているのは、あの、オッドアイの少年。なんでここに彼が、いやそもそもあたしはどうしてここに、と考えて、同時に自分がほとんど何も覚えていないことに気付く。

「何が…、いや、ていうか!―――あなた、声が?」

「あぁ、うん。……あんたの、お陰」

ふわ、と微笑んで、さらりと額にかかる前髪をよけられる。なにがなんだか、さっぱり分からない。さらに言えばここにいる理由もよく分からなかったが、とにかくどうにもならなさそうな疑問はおいといて、目先の疑問をどうにかしようと呟く。

「あの、“王子クン”…って…どういうこと?」

「え?……あぁ…」

あたしは首を傾げるが、なんとなく言い辛そうに、というか割とあからさまに「あのアマ…!」と言いたげな顔をしている。恐らく、も何も無く確実に彼があの女性の言った“王子クン”、なのだろうが、理由が全くもってわから、な…?


はぁ、とあたしはため息をついた。どうしたのかと言いたそうに顔を覗き込んでくる少年に、くい、と顎でドアを指す。

「……?」

「ハァ…。いるんなら出てきなさいよ」

今日は来客の多い日だ、と思いながら本日三人目の“客”へと言い放つと、一瞬の沈黙の後、笑い声がしてようやっと姿を現した。

「はは、バレちまったか、まぁしょうがねぇな…。よう、久々」

からりとライトに手を挙げて壁の陰から現れたのは、やはり村政だった。バレるに決まってるわと返しかけ、はたと言葉の一部に引っかかりを覚えて口をつぐむ。

「久々…?」

「こっちも久々だな。よう、“王子クン”?」

くっくっと笑う村政の声に思わず大きく目を見開いた。

「二人は知り合いなの?」

正直、年齢の違いも、あとテンションの違いもあって想像が付かない。少年が王宮関係者なら分かるのだけど、彼を王宮で見掛けた覚えはない。

そう言うと、村政が耐えきれないというように噴き出した。

「ぶっ…!くく、お前やっぱり話してなかったのか」

「……なんでわざわざ話さなきゃならない」

「ははっ、まぁそう言うなって、なぁ」

あたしの方にちらりと目をやってから、に、と村政がゆるやかに口元を持ち上げる。



「―――……息子よ」



「は、い…?」

「じゃあ改めて自己紹介、な」

唖然と口を開けるあたしに構わず、村政がちゃっちゃと話を進めていく。……いや、ちょっと待って、何、なんなの?にやにやと笑う村政は、確実にこの状況を楽しんでいる。言われなくてもと言うように村政の存在をフルシカトして、少年は無表情のまま言った。


「……改めまして、俺の名前はヴァルドルアナ・リリン・グリネール=村政。――…不本意ながら、このフラフラした男の息子だ」


物凄く嫌そうに言い切った少年――えぇと、ヴァルドルアナ?に、意図せず少し挙動不審になる。あたしも何か言わなくちゃいけないような気がして、そう言えば自己紹介してなかったな、としどろもどろな口調で言った。

「う、あ、あたしは、由羅・V・ベルフレイン。異世界人よ」

「…なんであんたまで自己紹介するんだ」

大体もう知ってる、と呆れ顔で切り返されてぐっと詰まる。しまった、こんなに慌てたのは久し振りかもしれない。醜態を晒してしまった、と唇を噛むと、もう終わったか?という村政の脳天気な声がした。

「……て、いや、これ以上説明は無いの?正直、意味が分からないんだけど」

「そう言われてもなぁ…、こいつと俺は親子、それだけが真実だよ。まぁあれだ、俺は職務で忙しいからヴァルドは母親の方と住んでたんで、王宮で会うことは無かったって訳だな」

「そ、うなの…。それで、王子クン、ね…」

まだ消化不良ではあるが、そこは慣れるしかないのだろう。今まで欠片も情報が無くて、でもそれでいいと思っていた少年の正体が判明して、ちょっと混乱気味だったけど、多少は落ち着いてきた。


その様子を感じ取ったように村政が頷いて、ヴァルドへと視線を戻す。

「んじゃ、こっからは大人の話になっから…、お前は外で待ってな」

「……分かった」

一瞬何か言いたそうにこちらを見た彼だったけど、村政の有無を言わせない口調にため息を吐いてドアから出て行った。パタンとドアが閉まったのを確認して、さて、と村政が話を切り出す。



「どこまで覚えてる?―――怪物ちゃん」

「っ!」

「…っと…。痛ぇな、ちょっと落ち着けよ」

なだめるような声にハッとする。どくんどくんと波打つ心臓を押さえ込んで、村政の顔に目をやると、頬からうっすらと血がにじんでいた。

「、え…」

「どうも、まるっきり覚えてねぇみたいだな?」

今、何が起こったの?血が、頬から。落ち着けよって…、あたしが、村政を傷付けた?


―――触りも、しないで?


「いっ…!」

ズキンと、頭に激しい痛みが走る。耐えられなくて、守るように両手で抱え込む。なんで、なんでなんでなんで。一体あたしに何が起こってる?どうしてこんな場所にいるの?怪物?どういうこと?混乱してぎゅうっと力を入れた両手に、ふいに頭上から落ち着いた声と共に冷たい手がそっと触れてくる感触がした。

「落ち着け、ユラ。分かってるはずだ、見ない振りなんかしてたってしょうがねぇ、お前は…」


ぽたりと、冷たい雫が頬に落ちる。あの激しい雪の、名残だろうか。


「向き合わなきゃいけねぇ。考えなきゃいけねぇ。―――思い出せ」


あぁ…、分かってる。分かっている。いずれ、答えを出さなければならなかったこと。そして、自らの責任として考えなくてはならなかった今。目を逸らしたままでは、いられないことも。


穏やかな声に気持ちが和らいでいき、義務のようにあたしは静かに目を閉じた。




「眠った、か…」


ふぅ、と息を吐いて、村政ケイはどっかりとそばにあった椅子に腰を下ろした。すぐ隣で眠る少女の、穏やかな寝顔を眺める。常は高飛車で生意気そうな表情もなりを潜めて、今ではその顔立ちの美しさと少女らしいあどけなさが際立つだけだ。


「……やっぱりお前は、」


こんな世界に来ない方が幸せだったと思うか?


そう続く言葉は呑み込んだ。間接的とはいえ彼女を選んだ自分が言えることなど何も無い。ただ……そうならない人間を選んだ。そのことは確かだし、自室でユラに言ったことも確信めいたものではあるが、100%ではない。もしも彼女がこんな世界にいたくないと…そんな結論を出したとしたら。

「俺は、どうしたらいいんだろうな」

さらりと額にかかるユラの前髪をよけて、小さく呟く。寝苦しそうだった少女の顔が少しだけ穏やかになったようで、ケイは微かに笑った。そこには、王国始まって以来の豪傑と冷淡さを他国にうたわれる王の姿はどこにもない。


「まぁ、いいさ。ゆっくり寝て、ゆっくり考えて…。きっちり自分の中で、整理をつけな」


なぁ、ユラ。

立ち上がり、大きく伸びをして、ケイはドアへと向かった。





サプライズの巻。


∞、今は下げちゃってますが呼んでいただいてた方はちょっとびっくりかと思います。



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