あとがき2
この作品は、僕の処女作になります。学生のころから温めていたアイデアがもとになっていますが、原型が仕上がったのは、2010年の春だったと思います。この時点で一度、ある出版社に応募しました。
その後いくつかの作品を執筆したのですが、どうにもこの作品が気になって仕方がなかったのです。
『恐怖は誰にでもある。でも、それに打ち勝つことのできる力を、誰もが持っているのだとワタシは思う』
当初はそういう終わり方になっていましたが、どこかしっくりとこないと感じていました。
いつか書き直したい。
そのきっかけになったのが、2011年の震災、そしてその春に母校に訪れた体験によって、前後にエピソードを追加することになりました。
『ボク』のパートを『私』のパートでしっかりと挟み込むように再編し『蟲夢』とタイトルを改め、『恐怖に打ち勝つ』ことよりも『不思議なことは あるものだ』という部分により焦点を合わせるようにしました。
しかし、本当に不思議なことはあるものです。僕は、『蟲夢』を完成させたすぐ後に作中にあるように毛虫の大群に襲われたのです。今では僕のアパートの周りにツバキの木は一本もありません。すべて撤去されました。いつかこのエピソードも盛り込みたい。そう思いつつも、年月は流れ、『傘がない』を縦書きに再編する作業を終えた後に、その続編『続・傘がない~下駄の男』を縦書きにする前に、この作品『蟲夢』を縦書きにしたいと考えました。
再編しながら、僕は再びエピソードを追加することに決めました。
今は新たなエンディングにとても満足しています。しかし、それは、今、このとき、この場所でのこと。
またいつか、書き加えたり、変更したい部分が出てきたりするのかもしれません。
その時、僕は、いったい、どんな恐ろしい体験を、どんな不思議な体験をするのでしょうか……。
平成二五年五月 名古屋から東京へ向かう新幹線にて