あとがき1
この物語の舞台になっているのは、実際に存在する僕ぼ母校です。そこは本当に桜の木がきれいで、いまでもそれは見ることができます。
しかし……。
その桜の木しか残らないというのは、なんともせつない感じです。
この物語は半分はフィクション、半分はノンフィクションです。
子供は、実際にこんないたずらをするでしょう。
桜堂の倉庫に忍び込んだシーンを詳しくかけなかったのは、実際に僕はそこには行かなかったからで、もし、あのとき、壁の向こう側に行っていれば、もっと細かいディティールを描けたかもしれません。
もちろん、想像で書くこともできますが、この物語では、ボクはやはり、あそこには行っていないのですから、これでよかったのだと思います。
この物語を書き終えたあと、やはり、ちゃんと取材をしないと書けないなぁと思い――。
たとえば校舎の裏側のシーンなんですが、僕自身、あそこは君が悪くてほとんど行った事がないんです。で、実際に行ってみたら、母校が建て壊されることになっていたという本当に「奇妙な偶然」の話です。
もし僕が、この物語を書いていなければ、あのタイミングで母校を訪れることはなかったでしょう。
しかも、春、都内で選挙があり、日曜日に校舎に入れることを確信して、僕はあの場所に行ったのです。
つまりもし、その日でなければ、工事中の校舎の中には入れなかったでしょう。
「そういうことは、あるのです」
この物語の結末は、最初『恐怖に打ち勝つために逃げてはいけない』というものでした。
それは、実際に僕の子供たちが暗闇や夢の中に恐怖を感じている姿を見て、自分が子供の頃に怖いと思ったことを書こうと思ったからです。
物語の中で『ボク』は、大人になり、『私』になりました。
『私』は大人には『大人の今日』があることに気づきます。そしてそれに立ち向かうためには、やはり逃げてはいけないのだと考えました。
物語の中の『私』は結局、桜堂の老夫婦には謝ることはできませんでした。だから、実はあの後も、別の形での悪夢にうなされることになります。
その悪夢が、物語の『私』をあの場所に引き寄せたのでしょう。
そして、これを書いた私自身は、どうなのでしょう?
いや、私のことはどうでもいい。
あなたは……、どうですか?
平成23年9月9日 東京にて