夜の蜂
「アナフィラキシーショック?」
「たしか、有名なアメリカのミュージシャンなんかも、それが原因で死んだって……」
「あぁ、ジェフ・ポーカロ、TOTOのドラマーだろう?」
「へぇ、詳しいんだ」
「あの頃、はやってたからなぁ」
「その、アナフィラキシーショックとかいう病気が?」
「違う違う、TOTOっていうバンドがさぁ。でも、まぁ、そう言う意味じゃ、あいつも本望だったのかな?」
「なんで?」
「憧れのミュージシャンと同じ死に方がってこと」
「そのアナフィラキシーショックって、だからなんだよ」
「アレルギーだよ」
「アレルギーで人が死ぬのか?」
「これだから独り者は……、いいか。アナフィラキシーショックっていうのは、体の免疫機能が体内に入った異物に対して過剰に反応して、そのぉ……なんだ」
「ショック死」
「そう、そのショック死ってやつ。ようは、抗体を作ろうと細胞が激しく反応して、呼吸困難とかになって、ひどいときは死に至るってやつ」
「確か、ジェフ・ポーカロは農薬か何かに反応したって、話だっけ」
葬儀には思いのほか多くの参列者が集まった。それはある『偶然』が引き起こしたともいえる。或いは死を予感した行動であったのか。その男は死ぬ前に、小学校の同級生の下を訪ね歩いたのだという。
春、母校が取り壊されることを知ったその男は、一月ほどかけて、当時の同級生で連絡がつくものに片っ端に電話をしたという。特にその男と仲がよかった、S夫、U治、G朗もすでにこの世にいないということも、人々の関心を引いた。
「で、なんのアレルギーだったわけ」
「最初、農薬かと……。なんでもあいつのアパートで毛虫が大発生して、その農薬が原因かと思われたらしいんだけど、いろいろ調べたら、蜂に刺された跡が見つかったとか」
「蜂? こんな街中でスズメバチか?」
「いや、それがおかしな話でさ。蜂って夜中には活動しないものなんだけど、家の中に何匹がアシナガバチが紛れ込んで、それに刺されたっていうんだけど、そんなことあるのかね」
「へぇ、不思議なこともあるもんだね」
「あるもんだなぁ」
不思議なことはあるものなのだ。
おわり