泣きたい夜。
暫く、春陽ちゃんの悩める日々が続きます...。
あのあと、私は自席に戻ることなく、ロッカールームに向かい
荷物を纏め、会社を出た。
一度、自席に戻ろうとしたのだけれど、営業課のフロアには
誰かの気配があり、なおかつまだ電気が灯されていたから
戻らなかった。...正しくは、戻れなかった。
課長が打合せ室を出てから、私の気持ちは鉛のように重いまま
ちっとも浮き上がってこない。
かなりの長い時間メソメソと泣き続けていたし、きっと、色々と
ヒドイ顔にもなっている。そんな状態で、課長はもちろん、
他の誰かにも逢いたくなかった。
「あ゛〜、なんて一日...。」
いつもより3時間近く遅い電車で帰宅し、バッグを玄関先で
ソファに向かって放り投げ、そのまま部屋着に着替えることなく、
寝室のベッドにダイブした。
『...俺のオンナになれ、春陽。』
ベッドの上で仰向けになり、白い天井を睨みながら、今日、
何の前触れもなく突然起こった”事故”のことを思い起こした。
強くつかまれて赤くなり、開放されてからも暫く痛んだ手首は、
もうすっかり痛みも赤みもひいて、今はなんともない。
だけど、今度は、なんだか気持がズキズキと痛い。
早川課長...。何のつもりで、あんなことを言ったんだろう?
お世辞にも仕事ができない私のことを、からかって楽しんでるの?
私が何をしたって言うの?
仕事でミスをした...?迷惑をかけた...??
「...わかんない...。」
枕に顔を埋めて、盛大な溜息をつく。
重い気持ちは晴れることのないまま、時間だけが刻々と過ぎていく。
♪〜
バッグの中に入れっぱなしだった携帯が着信を告げる。
重く感じる身体を引きずって放り投げたバッグを引き上げ、
ディスプレイで電話の相手を確かめてから通話ボタンに触れた。
「...もしもし?」
『ハルちゃんっ?無事?!生きてるっ?』
携帯から聴こえる同僚の声に、ツキリと胸が痛む。
「...何?私、瀕死の重傷でも負ったの?ショーコちゃん。」
『生きてるのね?大丈夫なのね??』
胸の痛みがチクリチクリと大きくなっていく。
「大丈夫も何も...。」
『だって、ハルちゃん、課長に連れ出されて、フロアに戻って
こなかったじゃない!一人で戻ってきた課長に聞いたら、
『気分が悪くなったらしい』なんて言うし、心配で心配で...。』
「...ゴメン...。」
消え入りそうな小さな声で、私は、祥子ちゃんに詫びた。
頬を涙が伝っていく。...イケナイ。私、泣いちゃ、ダメ。
『ハルちゃんは、ものすごく頑張りすぎちゃうコだから、
疲れちゃったのかもね?でも、ちょっと安心した。
今日は、ゆっくり休んで。無理しちゃ、ダメよ?』
「...うん。ありがとう。」
祥子ちゃんは、『じゃ、また、明日ね?』と優しい声を
残して電話を切った。
いろんな感情がグルグルと渦を巻いて、自分が何を
考えているのか、わからなくなってきた。
でも、唯一つ。今の私がしたいこと。
その夜は、近くにあったクッションに顔を押し付け、
声が枯れるまで泣き明かした。