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【番外編?】 いとーさんの、後日談。(後)

 

もう一息、お付き合いいただけると、尻尾ふりふり喜びます。

 


 

 

昼休憩の医務室。

屋上から営業課のフロアに戻る途中でバッタリ出くわした藤澤に、

「慎ちゃん、その顔、何?!」と医務室(ココ)に連れ込まれた。

「んも〜、慎ちゃん、なにやってんのよぉ〜。」

藤澤が、呆れ顔でオレの左頬に冷却シートを叩き付ける。

「いッ!?痛ぇな、もっと優しくしろよっ!」

「バカ言ってんじゃないわよ。こうして手当してもらえるだけでも

ありがたいと思いなさいっ!」

「大きなお世話だ!…ったく、なんだってンだよ、どいつもこいつも!」


腕組みをして苦虫を噛んだような顔をした藤澤が口を開く。

「早川君と同レベルね、慎ちゃん。」

「はぁ?」

「もぅっ!反省しなさいっ!何が切っ掛けでこうなったのっ!」

「ん…ハルちゃんが変わったって話しして、オレが嫉妬してんの?

って言って。」

「で?」

「祥子ちゃんは違うって屋上へ上がっちゃって。」

「で?」

「諦めたくても諦められない、って言うから、辛いなら我慢しないで

“おにーちゃん”に頼れって。」

「“おにーちゃん”って誰?」

「オレ?」

「…バカ。」

「なんでさ?オレにとっちゃ、妹みたいなもんだろうよ?」

「だからバカって言ってんのよっ!」

「なんだってんだよ?オレにはさっぱりわかんねーよっ!」


ハブを睨むマングースのような目つきで、藤澤はオレを見る。

「祥子ちゃんにも、想い人がいるってことくらい、わかんない?」

「だから、話、聞いてやる、って言ってんだよ。…ただ、今じゃ、

話、聞いてやったところで、叶わないんだろうけど…。」

「は?」

「祥子ちゃんの想い人は、史弥だろうよ?アイツにはハルちゃんが

いるじゃねぇか。だから…。」

情けない声でそこまで言うと、藤澤は盛大に噴き出した。


「な…なんだよ?てか、お前、笑いすぎ。」

「…はぁ、笑わせてくれるわねぇ?勘違いもイイところよ、慎ちゃん。」

「何が?」

「確かに、祥子ちゃんは早川君に『憧れて』はいたけれど、恋愛

対象じゃなかったんだって。」

「なんだそりゃ?」

「乙女にしかわからない気持ちよっ!」

「…めんどくせぇ。」

オレは不貞腐れて藤澤を睨み付ける。


「いい?もう一回、初めから言うわよ?まず、祥子ちゃんには、イイな、と

思っている男性がいます。」

「うん。」

「早川君のことはキャーキャー言ってたけれど、あくまでも『憧れ』の

対象で、恋愛の対象ではありませんでした。」

「…うん。」

「イイなと思う男性は早川君じゃないのに、その人を諦めようとしています。」

「…ぅん?」

なんとなく引っかかって、首をかしげて呟く。

「なんで、諦めきれないのに、相手に言わねぇんだ?」

「お、そこにきたか。じゃ、聞くけど、慎ちゃんがこの状況ならどう?

どうして言わずに諦めようとする?」

「…そいつに相手にされないとか、あとは、好きな人がいる時とか…?」

「そこまで出てて、わかんないかな?」

「祥子ちゃんのソイツには、好きなヤツがいるってことか?」

「もしくは、祥子ちゃんが誤解してるか、ってとこかな?」

「なら、尚更…!」

言いかけた途端、藤澤の右拳が天から降ってきた。


「おまっ!痛ぇじゃねぇかっ!」

「聴いて欲しくても、できないことだってあるの。」

真剣な目の藤澤に、思わず目を逸らす。

「お願いだから、自分のことを“おにーちゃん”なんて言わないであげて。」

藤澤の一言に、一瞬、息を飲む。


― まさか…?


「慎ちゃん、貴方は他人の心をよく解ってあげられる人。だから、

アタシはこれ以上言わない。じゃ、アタシ、お昼行くね?」

そう言って引き戸を開け、医務室を出ようとする背中に声をかけた。

「…藤澤。」

「ん?」

振り返った藤澤に、にやりと笑いかける。

「ありがとな。」

「フフ。今度、飲みに連れて行きなさいよ、奢りで。」

「ふん、上等じゃねぇか。」

「頑張ってね?」

「おう。」

「じゃ。」

ひらっと右手を振って、彼女は医務室を後にした。




今日の午後は後輩の営業社員についての得意先回りだった。

藤澤が貼ってくれた冷却シートのおかげで、左頬はさほど腫れる

ことなく、無事予定を終え、終業時間前に社に戻ることができた。

ま、出掛ける前に、後輩社員には「どうしたんすか、伊藤先輩?」

と若干心配しては貰ったが。


午後から佐々木は自席で通常通り作業していたようで、オレが帰社

したことに気付くと、PCからちらっと眼を上げて「お疲れ様です」

と言っていた。

正面の遠藤はその様子に、オレに苦笑いを向け、心配そうに視線を

隣に移していた。


席についてPCのロックを解除し、メーラーを立ち上げる。

業務連絡のメールの中に、1通、様子の違うものが届いていた。


― 佐々木?


『さっきはすみませんでした。カッとなってしまって、思わず手が

出てしまいました。ごめんなさい。でも、ホントにもう大丈夫です。

ご心配おかけしました。』

仕事のメールそっちのけで開いたその文面は、なんとも他人行儀で、

思わず顔が歪む。

どうしても気が晴れず、しつこいのは重々承知の上でそのメールに

返信する。

『ちょっと聞きたいことがある。今日、残業になりそうか?少しの

時間でいいんだけれど?』


斜め前の席で、肩がピクリと動く気配がした。

気づかぬふりをして業務連絡のメールをチェックしていると、新着

メールの通知ウインドウが立ち上がり、いそいそと開封する。

『少しだけなら、大丈夫です。終わったら、屋上で待ってます。』

オレは、チェックしていたメールを放っぽって、了承のメールを返信した。


― 勘違いでなければ、いいのに…。


小さく息を吐きながらフロアの壁掛け時計を見ると、就業時間まであと10分。

今までに感じたことがないくらい、長い10分になりそうな予感がした。



就業時間を知らせるチャイムがいつものように鳴り響き、息の詰まる10分を、

どうにかこうにかやり過ごした。

ふと顔を上げると、遠藤と佐々木は連れだってフロアを後にするのが見えた。


「おい、伊藤。」

背後から史弥の声が聞こえる。

「ん?」

「どうした?何か、あったか?」

「ん?なんで?」

素知らぬ顔をして答える。

「いや、何もなければいいんだけれど…。」

「ん。ありがとな。」

オレは史弥の方を振り返り、にっと笑いながら親指を突き立てる。

「ん。じゃ、先、帰るわ。お疲れ。」

「おう、お疲れ。」

スーツの上着を肩にかけ、スッと手を挙げてフロアを出ていく史弥の背中を、

座ったまま見送った。



終業時間から10分ほどして屋上に上がると、佐々木が暮れかけた空の下で

待っていた。

「すまん、遅くなった。」

「いえ。話ってなんですか?」

一緒なのが気まずいのか、用件を早く済ませて帰りたい様子が手に取るように

感じられる。


― やっぱ、自惚れ、だったのかな?


「今日、さ。ごめんな?」

目の前の佐々木は、少し吃驚したような顔をした後、俯いた。

フェンスにもたれかかり、眼下の街並みを視界に入れる。

「その…なんか、辛そうだったから、さ…。」

「…もう、いいんです。だって、無理、なんだもん。」

「なんで、そう思うの?」

「…いつも視線の先には、その人がいるから。」




振り返ると、ぽつんと立ちつくした彼女の肩が震えている。

「私は、その人の、代わりには、なれない…。」

「しょ…。」

「隣にいても、その人を見て笑ってる…。諦めなくちゃって頑張ったけど、

でも、やっぱり無理で、でも、どう頑張っても、その人は…。」

彼女の足元のコンクリートが、落ちてくる涙を吸い込んでその色を変えていく。


「お…落ち着け、祥子ちゃん。整理して話そ?な?」

「いと…伊藤さんのばかぁっ!なんで“おにーちゃん”なのよぉ…。」

膝を抱え込んで子供の様に声を上げて泣く彼女の隣に立ち、その頭を

ふわふわと撫でた。

「しょーこちゃん?ちょーっと早とちり、してるよ?」

グズグズと鼻を鳴らしながら顔を上げた彼女を見て、なんだか可愛いと思うのは、

オレだけだろうか?

ポケットからハンカチを取り出し、半分取れかけたメイクを気遣いながら、そっと

涙を拭ってやる。


「その人のことはね、妹のようにしか思ってないんだよ?初めっから、恋愛対象

じゃ、ないんだ。わかる?」

呆けた顔でオレを凝視する彼女の前髪をかき上げ、おでこにそっと唇を落とした。

「オレが好きなのは、キミなんだよ?」

「ひぇ?」


愛しい人は、涙を湛えた目を今にも落ちそうなくらい見開き、何とも間の抜けた

音をその口から発した。

その音の可笑しさに、思わず噴き出す。

「くはっ、何?その音。」

「…だ、だって。ずっと、ハルちゃんばっかり、見てたじゃない。それも、

すっごく愛おしそうに。だから、私、伊藤さんは、ハルちゃんのことが、好き

なんだとおも…。」

そっと頬に手を添え、目の前にある、必死に言葉を紡ぐその唇を塞ぐ。


「…ハルちゃんは“妹”。さっきも言ったでしょ?」

「ぅぐ…でも、今日だって…。」

「そりゃぁ、あの2人のことは、正直言って、悪かったなって思ってたから。

なんたって、どこぞの“俺様”をけしかけたのは、オレだったし…。」

「え?あの2人のは、伊藤さんが発端だったの?」

「ん〜、早川がブスブス燻ってたとこに着火剤放り込んだって感じ?」

「…それは、罪悪感、感じちゃうわね…。」

「だろ?だから、よかったなぁ〜って、見ちゃうわけよ?羨ましいなぁ〜って。」

「う…羨ましいって…。」

「だぁって、オレだって、オレの好きな子は燻ってた俺様のことがいいんだと

思ってたんだから。」

「ぁ…。」

両手で口元を覆い、頭の先から湯気が出そうな勢いで首まで真っ赤になる彼女。


「でも、勘違いは、お互い様、かな?」

彼女の両手をそっと握って下に下ろし、もう一度、啄むようなキスを落とす。


そうして、すぅ、と息を吸い込み、自分の腕の中にいる愛しい人に、改めて

想いを告げる。


「…一緒に、いてくれる?祥子?」



いつしかすっかり日が暮れて、宇宙(そら)には小さな星が散りばめられていた。




――― Fin ―――




 

いつもありがとうございます。


完結済みにしてからも、訪れてくださる方や、

お気に入り登録を解除せずにいてくださる方、

拍手をくださる方、コメントをくださる方が

いてくださって、本当に感激しております。


でも、この話については、もう書くことはないと思います。

(要は、ネタ切れでしょうか…?)

でも、もしかしたら、書くかも?

(↑どっちやねん!Σ\( ̄ー ̄;) )


ここまでご覧いただき、本当にありがとうございました。

またお目にかかれることを祈って。

お忙しい時間を割いてお付き合いくださったあなた様に、最上級の感謝を。


                                       諒でした。

 

 

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