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【番外編?】 いとーさんの、後日談。(前)

 

番外編のつもりでしたが、えらく長くなりました…。

スクロールするのに泣きそうになったので、2分割してみました。

それでも長いのはドボシテ…orz。

 

 

 

 

妹のように思ってきた遠藤春陽が、これまた弟のような存在で、且つ

無二の(?)親友である早川史弥と付き合いだして、早1年。


オレが煮え切らない史弥をけしかけたのがそもそもの始まりなんだけれど、

一時はどうなるかと、本気で生きた心地がしなかった。


オンナの子に関しては、不器用だ、無愛想だ、とは、常日頃思っていた

けれど、ここまでとは思わなかった史弥。

ちゃんとした告白もなしに、いきなりキスして『俺のオンナになれ』なんぞ、

どこの“俺様”だ!まったく。


遠藤は遠藤で、見ていられないくらいの憔悴ぶり。

あんなに落ち込むとは、予想外だった(いや、その前に、史弥(アイツ)の行動が

想定外だったが...)。

ちょっとやそっとじゃ挫けない性格、本人は隠していたつもりだろうけれど、

仕事に対する姿勢からはダダ漏れ。きっと、学生時代は、さぞかし同性から

好かれたことだろう。

それが一切成りを潜めてしまったあの状況には、流石に罪悪感に苛まれた。


史弥には左ストレートを食わされ、藤澤にはここぞとばかりにお灸を

据えられたけれど、結果オーライ、ってとこだろうか。

うん、きっと、そうだ。


― 遠藤のあの笑顔がなくちゃ、仕事のモチベーションが上がらないっつーの。


課長席で視線を合わせて笑いあう2人を見て、オレは自然と目を細めた。


「伊藤さん、何見て笑ってんですか?」

不意に斜め前の席から声をかけられる。その声の主は、オレの視線の先を

確かめて、「あぁ。」と腑に落ちたような声を上げる。


「いいですよね、あの2人。」

少しさみしそうな表情を見せる佐々木。

「ハルちゃん、変わりましたよね?なんか、前は、ほわわぁ〜んとしてて、

守ってあげなくちゃ!って感じのコだったのに、すっかり逞しくなっちゃって。

私、もう要らないなぁ…。」

「何、祥子ちゃん、嫉妬?」

少しからかうように声をかける。


「嫉妬って…。確かに、ハルちゃんをあんな風に変えた課長に文句は言って

やりたいですけど。敵わないじゃないですか、私。」

赤い顔をした彼女は、ぷう、と頬を膨らませ、拗ねたように呟いた。

「なぁに、祥子ちゃんって、そんなに簡単に諦めちゃう女の子だったの?」

意外な言葉を聞いたオレは、思わず思ったままを口にしてしまった。


途端、彼女はハッと目を見開き、傷ついたように目を伏せた。

「ご…ごめん、あの…。」

「いいですよ。だって、誰から見ても、私はガッツリな女の子でしょうから…。」

佐々木は俯いたままそう言って席を立ち、フロアから出て行った。



残されたオレは、目の前のPCに視線を戻す。

…が、非常に居心地か悪く、とても仕事なんてしていられなかった。


10分が過ぎ、20分経っても、佐々木は戻って来なかった。

「伊藤さん、祥子ちゃんがどこに行ったか知ってます?」

遠藤が、心配そうに隣の席に視線を落とし口を開く。

「ん〜、どこに行く、とは聞いてないなぁ…。」

「どうしたんだろ、祥子ちゃん?最近、様子がおかしかったし…。」

「え?」


― 佐々木の様子がおかしい?


目の前の席に座る心配げな顔を凝視する。

「あ、伊藤さん、気づいてなかったんだ?意外…。」

目を丸くして、遠藤が言う。

「祥子ちゃん、ここ最近、ぼぉっとしてることが多くて。少し前の私みたいに。」

「なんか、聞いた?」

「それが、祥子ちゃん、話してくれなくて。ちょっと、悲しいかな…。」

眉を八の字にし、心底残念そうに遠藤が呟いた。

「オレ、ちょっと探してくる。」

言うや否や、オレは席を立ち、フロアを出た。




社内のあちこちを一つ一つ見て歩く。

なんだか気持ちが落ち着かない。

心の中を掻き乱されるような焦燥感、とでも言えばしっくりくるだろうか?

「なんでだ…。なんで、どこにもいない?」

彼女が立ち寄りそうな場所を覘いては、その姿が見えないことに焦りばかりが募る。


粗方の場所は探し尽くし、最後と思われる屋上への階段の前で、深呼吸をする。

― ここにいなければ、社外に出たと考えるのが正解か?

一気に階段を登り切り、ドアノブをゆっくり回して屋上に出る。

「いた。」


フェンスに背中を預け、太陽を遮るもののない空を遠い目で見上げる彼女が、

そこにいた。


「祥子ちゃん!」

びくっと肩を揺らし、ゆっくりとこちらを振り返る。

その瞳は真っ赤で、席に戻って来れないことにも納得ができた。

「…オレのせい?」

「いえ、違います。」

即座にキッパリ言い切る彼女の横に、少しだけ距離を置いて座る。

「違いますよ、伊藤さんは、何も。何の関係も。」

俯く彼女に、どうしていいか、わからない。


「…私の、弱さ、かな。」

小さく聞こえた声に、もう一度隣を見る。

「頑張っても、頑張っても、どうにもならなくって。」

「祥子ちゃんは、頑張ってるよ?仕事だって、ちゃん…。」

「そうじゃなくて。」

俯いていた彼女が顔を上げた時、ズキリと胸が痛んだ。


「仕事じゃなくて。あのね、伊藤さん。一応、これでも、年頃のオンナのコ、

なんですよ?私も。」

「なん…。」

「抑えても、抑えても、復活してくるんです。私、これでも、これまでは

諦めのいい方だったのに。弱くなっちゃったぁ…。」

「祥子ちゃん…。」


― 史弥のことを言っているのか?


彼女の叶わぬ憧れを哀しく思うとともに、ジリジリと妬けるような

感情が起こる。

「すみませんでした。ご心配、おかけしました。もう、大丈夫だと

思います。探しに来てくれて、ありがとうございました。もう、

戻りますから、先に行っててくれますか?」

儚げな微笑みを浮かべて、一気に彼女が告げる。


「本当に?」

「私は“強い子”ですから。」

「…無理すんなよ。」

「え?」

「時には、我慢せずに誰かに頼れ。思いのままに行動しろ。ま、他人様に

迷惑をかけるのはもっての外だけどな。」


左手を伸ばして、豆鉄砲を食らった鳩のような顔の佐々木の頭を抱え込む。

「“強い子”も好きだけど、“おにーちゃん”としては、時には頼って

欲しいもんなんだよっ。」

「だっ…誰が“おにーちゃん”なんですかっ!」

「ん?オレ?」

「しかも、自分で言っといて、なんで疑問形っ?!」

「さぁ…なんでだろうね?」

少しとぼけたように返すと、腕の中の肩が小刻みに震えているのが見えた。

「おい…どうした?」

心配になって声をかけると、キッと睨み付けるような視線とともに

怒鳴り声が響いた。

「伊藤さんのバカっ!」

左頬にピシャリと痛みを残して、彼女はオレの腕の中からバタバタと走り去った。

 

 

 

 

ご無沙汰しております。

本編完結より、早12日。

その間にも、毎日、足をお運びくださる方がいてくださいます。

本当に嬉しい限りです。


このあと、後編も宜しければお付き合いくださいませ。


いつもありがとうございます。

このページを読んで下さるあなた様に、最上級の感謝を込めて。


                                諒でした。

 

 

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