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エピローグ、という名の後日談。

 

今回は、少し長いデス。

すみません...切り損ねました...。

 

 

 

 

突然の告白から1年。

また新しい年度を迎えて、新入社員も配属になり、営業課は

相変わらずの雰囲気で動いている。

4年目の私は、事務職の新人指導する立場になり、毎日を慌しく

過ごしていた。



いつものように祥子ちゃんや希望先輩とランチをとって自席に

戻ると、出かける前にはなかった書類が机に山積みされていた。


「課長ぉっ!何なんですか、この書類の束はっ?!」

「ん?やっといて?」

「やっといてじゃないでしょぉっ?!誰の仕事ですかっ!!」

「ん〜?俺の?」

「お〜れ〜の〜じゃな〜いぃ〜っ!」


書類の束を引っつかんで課長席までツカツカと近寄る。

PCを前に、マグカップのコーヒーを啜りながら上目遣いで私を見る

課長に向かって、手にした書類を勢いよく突き出した。

「お返ししますっ!キリキリ働けっ!!」


「や〜っぱ、だめかぁ〜。」

突き出された書類を受け取りながらクツクツ笑う早川課長。

「あったりまえですっ!ペーペーの事務員が、課長決済なんて

できるわけないでしょうっ?!いい加減にしてくださいっ!」

しっかり書類を受け取らせて私は自席に戻る。


「うふふ。甘ぁいデザート、ご馳走様。もうお腹いっぱい。今日の

3時はお茶だけでいいねぇ〜。」

席に着いた途端、隣の席から祥子ちゃんが小声で話しかけてきた。

「...どう見たら、そうなるの?」

溜息をつきながらPCの画面を開く。

「ん〜、今のはベタベタ・あまあま以外の何物でもないのかと...。」

「俺も祥子ちゃんに激しく同意。」

「...っ!伊藤さんっ!」

前の席から伊藤さんがニヤニヤしながら声を掛けてきた。


「でしょ?伊藤さんもそう思うでしょ?」

「一時期はどうなるかと思ったけどねぇ〜。」

「...その話は、宇宙彼方に廃棄していただけませんか、お2人とも...。」

「だぁ〜って、ねぇ〜。私だって、早川課長に憧れてたんだよぉ?

なのに、あんなの聴かされちゃぁ〜ねぇ〜?伊藤さん。」

「お、祥子ちゃん、気が合うねぇ〜?俺も早川に殴られた甲斐が

あったってもんだよぉ。」

左頬を擦りながらニヤリと笑う伊藤さんに、尤もだと言わんがばかりに

コクコクと頷く祥子ちゃん。

そんな2人に、私は何も返すことができず、ガクリと項垂れた。


社員食堂で涙が止まらなくなったあの日。私が希望(のぞみ)先輩に医務室に連れて

行かれてから、伊藤さんは早川課長に詰め寄ったのだと聞かされた。

『遠藤春陽のことを、どう思っているのか』と。


伊藤さんからすると、課長のことも私のことも見ていられないほどだったらしい。

方や、毎日何かを忘れようとするかのごとく仕事にのめりこみ、方や、普段と

変わらないように取り繕いながら、ふとした隙間で哀しみに暮れた表情をする。

黙って見ているには限界だ、と感じたんだそうだ。


会議室での口論のあと、飛び出した伊藤さんを追って来た課長の煮え切らない

態度に腹を立て、『遠藤春陽を捕まえて置く気がないのなら、オレが貰う』。

伊藤さんがそう言った途端、左頬を殴られたのだという。


「実際のトコロ、オレ、ハルちゃんのこと好きだからねぇ〜。」

突然頭の上から聞こえた声に、私は慌てふためく。

「いとぉ〜さんっ?!」

途端、フロアの奥からあの人の声が飛んでくる。

「ぐぉらぁ!伊藤っ!!仕事しろっっ!...遠藤、ちょっと来いっ!」


「あ〜あ、怒られた。」

「へぇへぇ、嫉妬深い彼氏(オトコ)は怖いねぇ〜。」

祥子ちゃんと伊藤さんが顔を見合わせてクスクス笑う。

私はそんな2人に苦笑いを残し、もう一度課長席に向かった。


「お呼びですか?」

「...お前、隙だらけ。どうにかしろ。」

苦虫を噛んだような顔をした課長がそこにいた。

「は?」

「...だからっ!...いや、いい。言うだけ無駄だ。」

米神を押さえながら首を横に振る課長に、何が言いたいのかが理解できない。


「その堅物はね、簡単に他の男を近づけるなって言いたいんだよ、ハルちゃん。」

書類を片手に課長席にやってきた伊藤さんは不敵な笑みを浮かべて私を見る。

「...っ!慎っ!何回言わせんだっ!仕事しろっ!お前、もいっぺん殴られたいかっ?!」

伊藤さんはいまにも飛び掛ってきそうな勢いの課長を右手で制して、「ほれ。」と

手にしていた書類を渡し、カラカラ笑いながら自分の席へ戻っていった。


呆然と伊藤さんを見送り視線を戻すと、優しい目で私を見る課長がいた。

「いまのままの春陽で、変わらないでいてくれ...な?」

私の左手が、温かい課長の右手で包まれる。

「はいっ!」

その温かさに、私は課長に微笑んだ。





終業のベルが鳴り、PCの電源を落としたあと、自席の周囲を片付けて

ロッカーへ行こうと立ち上がると、後ろに課長が立っていた。

「お疲れ。ちょっといいか?」

会議室に呼ばれ、その真剣な眼差しに、少し不安を覚える。


お昼間、調子に乗ってあんなこと言っちゃったから、お仕置きとか...?

...だとしたら、どうしよう...。

全身の血がさぁっと引いて行くような気がした。


「春陽?」

「ぅわぁぁ、ごめんなさい、ごめんなさい。調子に乗った私が悪かったんです、

ごめんなさぁい...。」

名前を呼ばれ、私は咄嗟に頭を抱えてしゃがみこんだ。

一瞬間をおいて、課長の堪えても堪えきれないような笑い声がする。

「...かちょ?どうしたの...?」

頭を抱えたまま、そっと上目遣いに課長の様子を窺うと、涙を浮かべて口元を

押さえていた。


「あ...れ?怒ってるんじゃないの?」

「何を怒るんだよ?...ったく、なぁ〜に勘違いしてるんだ、お前は。あ〜、笑った。」

そう言って、目尻を拭い、私の手をとり引き上げる。

キョトンと拍子抜けしたまま立ち上がった私を前に、課長は軽く咳払いをして続けた。


「あのさ...あれからもうそろそろ1年になるだろ?」

彼は左手をスーツのポケットに手を入れ、右手で私の左手を取る。

「...俺と、一緒になってくれませんか?」

「...え...?」


私は自分の左薬指に納められたリングと、それを指に通した目の前の男性(ヒト)

交互に見た。


「...別の言い方したほうがいいか?」

次の瞬間、私は、真っ赤な顔で照れ臭そうにこちらを窺い見るその人の首に

両手を回し、耳元で囁くように答えた。


「...一生、側にいさせてくれる?」

大きな手が私をそっと包んで、私は彼に引き寄せられる。

「もちろん。嫌だといっても、離さない。覚悟しとけ?」

温かい響きと優しいキスが、私の唇に落とされた。


「約束してね?」

「あぁ。約束する。」

「絶対よ?」

「心配スンナ。俺は、約束を破るような男じゃねぇよ。」


その言葉にどちらともなく微笑み、もう一度“約束”のキスを交わした。




夕日に染まる会議室での出来事(プロポーズ)


...後日、社内がこの話で持ち切りになり、伊藤さんが課長の拳骨を

お見舞いされたのは、お約束の小話ということで...。





- Fin -

 

 

 


 

今回で、このお話は最終とさせて頂きます。


見切り発車で書き始めたお話でしたが、どうにかこうにか『完結』を

打つことができました(若干、無理ヤリ感が無きにしも非ず...)。


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

お気に入りに入れてくださった方、拍手下さった方、

感想・コメント下さった方、最後までお読み下さった方、

すべての皆様に、心からの感謝を。

本当に、ありがとうございました。


では、またお目に掛かれることを祈って。


                                  諒でした。

 

 

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