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残業中のフロアで。

 

 

いつしか営業課のフロアにはすっかり人の気配がなくなり、私は1人、

まだよく見えない目を擦りつつ画面の文字を凝視していた。


「ハルちゃん。」

「うひゃぁっ?!」

薄暗くなったフロアで聴こえた突然の声に、私はとんでもない(こえ)で応えた。

「あはは。だから、色気、ゼロだって、もぅ...。」

私の左側には、涙目で笑いをこらえる伊藤さんが立っていた。

左頬は少し腫れ、大きな絆創膏が貼られている。

「いと...さん、顔!どうなさったんですか...?!」

「ん?自業自得、ってやつぅ〜?」

そう言って笑いながら、私の頭を大きな手でワシワシと撫でた。

「...職務放棄の罰だよ。」


「パワハラ反対っ!!」

伊藤さんの後ろから姿を現した課長(そのひと)に向けて、私は大声で抗議した。

「パワハラって...。」

「うはぁ〜、もうダメ。ハルちゃん、大好きぃ〜!」

どこか拗ねたような表情でぼそりと呟く課長の横で、笑いを堪え切れず

お腹を抱えている伊藤さんの言葉に、私は顔が一気に赤くなるのを感じた。


「なっ...なんてこと言うんですかっ!伊藤さん、セクハラで訴えますよっ!!」

動揺のあまり握りこぶしまで作ってしまった私を見て、ひーひーと音を立てる

伊藤さんの笑いは一向に収まる気配を見せない。

それどころか、今度は課長まで笑いをこらえきれなくなったようで、今にも

噴出しそうに口元を押さえている。

そんな2人を見た私は私で、何が笑えるほどおかしいのか全く解らずむくれた。


むぅ...。何なんだ、この雰囲気はっ!

...ってか、何でこの2人がココにいるのさっ?!



未だ笑い続ける2人を横目に、私はPCに向き直ろうと身体を移動させる。

その瞬間、左腕を強い力で引かれた。

「......!」


引き寄せられた着地点は、課長の腕の中だった。

「...すまなかった。どうしていいかわからなかったんだ...。」

苦しげに響くその声に、私は上を見上げ、両掌(りょうて)を伸ばし、

そっとその頬に触れる。

私を見つめる哀しげな光を湛えた漆黒の瞳が揺れた。


「遠藤...。」

「私のほうこそ、申し訳ありませんでした。課長にお気遣いいただいてしまって...。」


遠くでパタン、とドアの閉まる音がした。

気がつくと、さっきまでココにいた伊藤さんの姿がない。


「春陽のこと、いつも見てた。ほんわかした雰囲気なのに、自分に

課せられた仕事はキチンとこなしていく。いつも感心してたよ。」

柔らかな微笑(えみ)を向けながら、課長は私をそっと包む。

その温かさに、私は伸ばしていた手を自分の前に下ろし、目を閉じた。


「入社式の日、エントランスで派手に転んだろ?」

課長は、さっきまでとは違う声色でそう言って、ニヤリ、と笑って私を見た。

「ぅぐぅ...!何で今その話?!」

咄嗟に自分の胸の前の手を伸ばし、敵わないと思いながらも抵抗を試みる。


「あの時さ、お前に一目惚れしたんだろうな、俺。ソコソコの成績は

挙げてたけど、その頃は、まだペーペーの営業社員でさ。同じ部署に

配属されたお前の姿を見て、心底ラッキーだと思った。」

再び見上げたその瞳は真剣で。

ポカポカと課長の胸元を叩いていた手を止めて、私は黙ってその続きを聞いた。


見つめる先の課長は、今までに見たことのないようなキラキラした笑顔で続けた。

「仕事のできるイイ男になって、このコを振り返らせてやろう、そう思った。

1年間、必死で仕事して、どうにか今の肩書きを手に入れた。気になる()

同じ部署で、俺の部下としてすぐ目の前にいる。毎日が楽しくてさ。」


そこまで言って、課長の整った顔が苦しそうに歪む。


「...なのに、この春から、春陽を別の部署へ異動させようって話が

人事から来てさ。なんだかんだ理由をつけて、今回は妨害できたけれど、

また、いつ、その話が持ち上がるかわからない。そう思ったら、俺、

どうしたらいいかわからなくなって...。本当にすまなかった。」

課長は腕を解いて一歩後ろに下がり、深々と頭を下げた。


「あ...の、やめてください。そんな、課長が気になさることじゃないです。

私なんかに謝るなんて、やめてください。お願いです、頭を上げてください。」

私は慌てて課長に頭を上げてもらおうと前屈みになった。



瞬間、くらりと視界が廻り、身体がふわんと揺れた。

「あ...。」

...私ってば、カッコワルイ...。

何故だかそんな感情が湧き上がる。


...カーペット敷いてあるけど、やっぱり、きっと痛いよね?

妙な冷静さを覚えた直後、私は意識を手放した。

 

 

 

 

春陽ちゃん(好きなコ)が他の部署に異動させられるのが嫌で妨害だなんて...。

課長、超・我が儘... ┐( ̄ヘ ̄)┌

...って言うか、そんなのが通る会社なんてあるのかっ?!

(↑ないよ、フツーは。)

 

このお話の最終話までの道がなんとなくできてきました。

あともう暫くお付き合い頂けると嬉しいです。


拍手や一言コメント下さった皆様方、アリガトウございました。

 

そして、今日もお立ち寄り下さったあなた様に、心からの感謝を。

 

                                諒でした。



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