憶測から確信へ。
医務室は少し重い空気につつまれた。
「伊藤さんも、課長も、一体何処へ?」
不安げに呟く祥子ちゃんの横で、希望先輩が携帯を覗く。
「あぁ、きたキタ。うん、心配要らないわ。早川、慎ちゃん捕まえたって。」
「へ?」
気の抜けた声を発して、私は先輩を見た。
「捕まえた...って。」
祥子ちゃんも、驚いた様子で先輩を見る。
「2人とも、早川と慎ちゃんとアタシは、大学の頃からの付き合いだって
言うのは知ってるよね?」
私も祥子ちゃんもコクンと頷く。
「早川と慎ちゃんはね、もっと早くて、中学時代かららしいよ?あ、でも、
同期と言えるようになったのは、大学からだけど。慎ちゃん、あれで
アタシ達より1コ上なのよ〜。ホンっと、大人気ナイよねぇ?」
も〜ヤんなっちゃうわよねぇ〜、とカラカラ笑いながら希望先輩は
私たち2人に言った。
「祥子ちゃん、目、落っこっちゃうよ?」
先輩のその言葉に祥子ちゃんを見ると、驚愕の表情のまま、
身動ぎひとつせず、立ち尽くしていた。
「あの2人ならダイジョブ。心配かけちゃったね?祥子ちゃん。
アリガトね?」
未だ固まったままの祥子ちゃんをそっと労わるように抱きしめる
先輩を見て、私は安堵の息を吐いた。
「あの、先輩。」
私は、祥子ちゃんを営業課のフロアまで送り届けた先輩に声を掛けた。
ん?、と微笑みながら振り返った先輩に私は続けた。
「さっき、状況は読めた、って...。」
「あ、それ?うん、喧嘩の経緯。」
「先輩、教えてください。私...。」
「本人たちからの方がいいわね?私から言うべきことではないから。」
言い終わらないうちに口を開いた先輩の、いつもとは違うその雰囲気に、
戸惑いを覚える。
「どうする?呼ぶ?もうそろそろ戻ってくると思うけど。」
「あ、いえ、あの。」
もごもごと口ごもった私に、「少し厳しいことを言うようだけど...」と
前置きして先輩は言った。
「ハルちゃんも、ちょっと大人にならないといけないのよねぇ?
それには、アタシを通してじゃなく、自分でキチンと向き合うこと。
ココ、重要。テストに出しますよ〜?」
ビシッと音が聞こえそうな勢いで人差し指を立てて、少し茶化すように
私に告げた。
その言葉に、脳裏に“2人の喧嘩”などという想像できない出来事の
始まりが浮かんだ。
『希望先輩を通してじゃなく、自分でキチンと向き合うこと』って...。
私が、原因...?
はじめは疑問形だったその憶測は、駆け巡る経緯を整理することで、
次第に確信へと移行する。
1ヶ月前の、あの出来事。
この1ヶ月の私。
お昼休みの食堂での出来事。
『...早川がらみか?』
きっと、原因は、それだろう。
そうして、別の疑問が浮かぶ。
でも、どうして伊藤さんは、課長に?
項垂れたままの私を、希望先輩が辛そうな表情で見ていたことを、
私は知らない...。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
もうすぐ戻ってくるようですが、喧嘩してどこかへ行ってしまった男性陣2人。
その喧嘩の原因が自分にあると、春陽ちゃんは自分を責め始めているようです。
希望さんには、何かがみえているようです...。
春陽ちゃんのことが不憫でならない“おねぇさん”なのでした。
いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。
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(↑それって、一体...?)
今日もここまでお付き合い下さったあなた様に、最上級の感謝を。
諒でした。