09,見習いの失敗!
「あっ、うわっ、わっわっ、ち、ちくしょう、そんなのありかよ、あっ!、ああ〜〜……………」
1対3のバトルは圧倒的な力の差で美月のドラゴン大帝が三人の強化戦士をめっちゃくちゃの、ぎっとんぎっとんにやっつけていきました。三人は見事なチームプレイで攻撃をしかけていくのですが、キャラクターの力に差がありすぎます。
「あ〜〜あ……………」
と完敗した三人ですが、美月のおしおきはそれですみませんでした。勝利したドラゴン大帝は炎の剣をふりまわし、三人のゲーム機のディスプレーを真っ赤な火事にすると、真っ黒に燃え尽きて、ゲームオーバーになってしまいました。
「え? なんだこれ?」
と、見慣れない画面にデータを確認すると、それまでバトルを重ねて強化してきた戦士が、最初のスタートの状態に戻っていました。
「わあーーっ、データが全部消えてるうう〜〜〜っ!!!!」
男の子たちは悲鳴を上げ、完全にデータが消えてしまっているのを確認すると顔を真っ赤にしてうらめしい目で美月をにらみました。
「ひでえじゃねえかよお!? ウイルスを送り込みやがったな?!」
フフンと美月は鼻高々で大いばりしました。
「あんたたちがお友だちを仲間はずれにしているからおしおきしてやったのよ」
「ショウジキい〜〜、こいつおまえの姉ちゃんかよ?」
マサキくんは慌てて手をふりました。
「ちがうよお、ぜんぜん知らない人だよお」
三人は泣きそうに怒った顔で美月をにらみましたが、後ろにいるお父さんらしいでかい黒コートの男に悔しそうに黙り込みました。
「もういい。ちっくしょう、ぜんぜん面白くねーよ。おい、行こうぜ」
三人は立ち上がり、美月からフンッと顔をそらし、階段を下りていきました。美月はざまあみろと笑って、後ろで突っ立っているマサキくんにニッコリ笑いかけました。
「これ、あげる」
マサキくんは
「えっ!」
と驚き、階段を下りた三人も驚いてふりかえりました。
「はい、どうぞ」
「い、いいよ、こんな高い物もらえないよ」
マサキくんは断りましたが美月はいいからいいからと押し付け、強引に受け取らせました。
「わたしはあんまりゲームって好きじゃないの。いらないから君にあげる。じゃあねー」
美月はさっさと階段を下り、ご機嫌でバイバーイと手をふり、フフンと負け犬三人の横をすまして通って歩いていきました。
ゲーム機を受け取らされたマサキくんは困ってしまって三太郎を見ました。三太郎は
「あいつが君にあげたんだ。好きにしな」
と言って立ち去りました。マサキくんはゲーム機を持って立ち尽くし、階段下の三人は、
「行こうぜ」
と不機嫌な顔で行ってしまいました。
翌日午後、美月は三太郎に連れられて児童館にやってきました。入り口の階段にマサキくんが腰かけていて、美月を見つけると笑顔で立ち上がり、走り寄ってきました。マサキくんは三太郎にあいさつし、美月にきのうもらったでぃーえすのゲーム機を差し出しました。
「これ、返すよ」
美月は、
「いいわよ。これは君にあげたんだから」
と押し返そうとしましたが、今度は美月がマサキくんにしっかり受け取らされました。
「やっぱりもらえないよ。
昨日あれから家に帰ってこれで遊んでいたらお母さんにしかられたんだ。もらったって言ったんだけど、返してきなさい!って怒られて、それからまたここに戻ってきて君をさがしたんだけど見つからなくて、今日会えてほっとしたよ。ありがとうね、ちょっとだけだったけど、ゲームできて、すっごく面白かったよ!」
マサキくんはまた三太郎にあいさつして、
「それじゃあねえ」
と手をふって走っていきました。
「あげたのに……………」
美月はでぃーえすを胸にかかえて、走っていくマサキくんの後ろ姿を見つめました。
「まったく、どうしようもねえいい子ちゃんのバカ正直ものだな」
美月は三太郎をにらんでききました。
「わたしをここに連れてきたのは、あの子がわたしをさがしているって知っていたのね?」
三太郎は「フン」と鼻を鳴らし、重たい声で言いました。
「おめえが言ったとおりだ、本物のサンタに出会えるなんてなあ宝くじに当たるようなものだ。つまりサンタに会いたくても会えねえ子どもが世界にゃたあくさんいるってことだ。あいつにゃあ立派なお父さんお母さんがいる。俺たちサンタのやらなきゃならねえ仕事は他にあるってこった」
美月は自分にでぃーえすを突き返したマサキくんの顔を思い出し、さすがに自分の失敗を思い知りましたが、でも、『でも!』と反発しました。美月は三太郎をにらんできつく言いました。
「もとはと言えば先生がやったことじゃない!? あの子にプレゼントをあげるようなまねをして、悲しい思いをさせて、先生のせいじゃないのよおっ?!」
「なんだよ、自分の失敗を俺のせいにするなよ」
美月は真っ赤になってキイーーッ!と怒りました。
「先生が悪ーーーーい!!! なんとかしなさい! じゃないとお〜〜、事務局に訴えるわよっ!?」
「また事務局だのみかよ」
「訴えるわよっ!?」
「わあ〜〜った。分かりやした。クリスマスイブにはなんとかしてやる! それでいいだろう?」
「はい!」
美月はニッコリし、三太郎は苦虫をかみつぶしたみたいな顔をしました。