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07,悪い子見つけた!

 日本に帰る道すがら、三太郎は迷惑そうに言いました。

「まったく誰かさんのせいでスケジュールが大狂いだぜ」

 クリスマスもいよいよ1週間後に迫って、いつもならもうそろそろ三太郎はトナカイの顔をした怪しげな「ドリームマシーン」を悪い子の家にセールスしている頃なのですが、今年はどうもこれと見込みのある悪い子を見つけられずにいるようです。

「先生、しつもーん!」

 と美月は手を上げて言いました。三太郎は面倒くさそうに

「なんだね、美月くん」

 と指名しました。

「先生はどんな基準で悪い子を決めているんですか?」

「そんなこたあ自分で考え……」

 三太郎は面倒くさそうな顔をしながらしょうがなく先生らしく教えてやりました。

「本当はいい子の悪い子、または、本当はいい子になりたがっている悪い子を選ぶのさ」

 と言いましたが、自分で言っておきながら三太郎ははて?と腕を組んで考えました。

「そうじゃねえかなあ? 本当は悪い子のいい子かなあ?」

 美月は本当にこの先生でだいじょうぶかしらと怪しむ目で三太郎を見て言いました。

「先生ももう一度サンタになる試験を受け直した方がいいんじゃないですかあ?」

 三太郎はむっつりして言いました。

「ええーい、うるさい。俺様が悪い子と決めたらそいつが今年の悪い子なんだ!」

 美月は呆れて言いました。

「なにそれ? それじゃあ悪い子に選ばれた子は悪い宝くじに当たったようなものね?」

 三太郎はその言葉が気に入ったらしく白い歯を見せてニンマリ笑いました。

「そのとおりだな。そいつは大当たりだ」

 あきれ返る美月に悪びれもせずに三太郎は「わはははは」と大笑いしました。



 さて翌日の午後。

 三太郎は美月を連れて児童公園に来ていました。

 入り口の門のかげにきゅうくつに隠れながら三太郎は言いました。

「見ろ、小学生の坊主が一人いるだろう?」

 木枯らしの吹くもの寂しい公園に一人きりでつまらなそうにブランコに乗っている男の子がいます。美月はうなずき、ききました。

「あの子、悪い子なの?」

 三太郎はニンマリ悪そうな顔で笑って言いました。

「ああ、そうとも。あいつはすげえ悪い子なのだ」

 美月は三太郎の悪そうな顔を怪しみ、本当かなあ?と少年を見ました。

「あいつは正木正直(まさきまさなお)、小学6年生だ。今一人で公園にいるのは友だちがゲームで遊んでいる仲間に入れてもらえないからだ」

「なんで?」

「ゲーム機を持っていないからさ。他の男の子たちはみんなゲーム機を持っていて、通信機能でつながって同じゲームを楽しんでいるのさ。だがマサキ少年はゲームを持っていないから仲間に入れてもらえないってわけだ」

「まあかわいそう」

 美月は同情して言いました。三太郎はニンマリして、

「そうだよなあ、かわいそうだよなあ? だから心優しいサンタさんが少年にプレゼントしてやるのさ」

 と言うと、バサッと黒いコートをひるがえし、あっと言う間に赤いサンタクロースに変身しました! ………ごわごわの黒ひげはそのままでものすごく人相の悪いサンタクロースですが。美月は驚いてききました。

「黒サンタも赤いサンタクロースになるの?」

「まっ、時と場合によってな」

「でも、プレゼントならクリスマスイブにすればいいじゃない? それがサンタクロースのルールでしょう?」

「俺は不良サンタだからルールなんて守らねえんだよ」

 やたらと肩幅の広い角張ったサンタはむんずとプレゼントの入った大袋を手につかみ、ズンズン公園に入っていきました。美月はそのまま門のかげからなりゆきを見守ります。

 公園の真ん中に立った大きな悪人サンタは周りをきょろきょろし、いかにも怪しいサンタにびっくりしているマサキ少年と目を合わせ、ニンマリ笑いました。マサキ少年は慌てて目をそらしましたが、悪人サンタに恐ろしい笑顔で手まねかれて仕方なくブランコを下りてやってきました。悪人サンタはマサキくんが逃げないようにしっかり見張りながらベンチへまねきました。

 三太郎はベンチにプレゼントの袋をおいてマサキくんに言いました。

「坊や。悪いがここでこの袋を見張っていてくれないか? おじさんはトイレに用足しに行きたいんだ。頼むよ」

 公園には公衆トイレがあります。小さくてあんまりきれいなトイレではないので、白い袋を汚したくないのかなとマサキくんは思いました。

「いいよ。じゃあここで待ってるよ」

「おお、ありがとう! よろしく頼むよ。サンタクロースに親切にしたんだ、君にはきっととってもいいことがあるよ?」

 三太郎はニイッと笑ってトイレに向かいました。マサキくんは愛想笑い(あいそわらい)で見送りましたが、こんな悪そうな偽者サンタの言うことなんてぜんぜん信じてません。

 三太郎は小の便器ではなくて大の個室に入りました。そしてそのままなかなか出てきません。5分以上待って、10分も待って、マサキくんはだんだんイライラして、心配になってきました。どう見ても悪人顔のサンタでしたから、ひょっとして、この袋の中には爆弾でも入っているんじゃないか?と怖くなりました。袋はぺちゃんこで、そんなに大きな物は入っていません。いつまで待っても出てこないサンタクロースに、ちょっとだけ、と、マサキくんは袋の口を開けて中をそっとのぞきました。

「あっ!」

 とマサキくんはびっくりしました。そこにはマサキくんが欲しくて欲しくてたまらない、でぃーえすのゲーム機の箱が入っていたのです! しかもカードがそえてあって、「心やさしいサンタクロースからよい子へプレゼント」と書かれています。マサキくんはまさか!と顔を輝かせ、急いで

「サンタクロースのおじさん!」

 と呼んでトイレに駆け込みました。個室のカギは開いていて、マサキくんが思いきって開けるときったないトイレには誰も入っていませんでした。入り口はずっと見ていて、他に出口はないのに不思議です。マサキくんはぼーっとした頭で考えました。

「まさか……、本当に本物のサンタクロース? ……………あれが???」

 夢を見ているようですが、ベンチにおかれた袋の中には確かにでぃーえすゲーム機が入っているのでした。

 不思議そうにしているマサキ少年を黒いかっこうに戻った三太郎は門のかげからニヤニヤしながらながめていました。三太郎はサンタクロースに支給される秘密道具「お勝手裏口」でこっそりトイレの裏から抜け出していたのでした。

「黒岩先生。黒サンタのくせにいいとこあるじゃない?」

 ニコニコ見上げる美月に三太郎は

「そうだろうそうだろう、俺は実はいいサンタクロースなのだ」

 と、ニンマリ、笑いました。

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