02,黒サンタ見習い!
美月さんはすその丸く広がったミニの黒いワンピースに着替え、黒サンタの気合いまんまんです。
それに比べて先生の三太郎は若い女の子の弟子をもてあまし気味にいかにもため息をつきたそうな顔でききました。
「おまえ、なんで黒サンタなんかになりたいんだ? 女の子なら、かわいい赤サンタになりたがるものだろう?」
「うわあ、すごいすごい!」
と美月さんはおおはしゃぎ。二人は夜の空を三太郎の運転する空飛ぶリムジンのオープンカーで北極から日本へビューンと飛んで向かっているのです。現代のサンタたちはこうしていろいろな秘密道具を使っているのです。空の上はすごい寒さですが、サンタに支給される服はバッチリ寒さを防いで氷の世界だって平気です。美月さんは帽子の下から髪の毛を風になびかせていますが、その帽子も丸いつつ型で、女の子がかぶればなかなかかわいいですが、あまりサンタっぽくは見えません。
「おいこら、答えやがれ」
先生の三太郎が怒って言うと、美月さんはくりくりした丸い目を向けて言いました。
「黒いサンタって、悪い子をひどい目に合わせておしおきするんでしょ? わたし、悪い子をうんとおしおきしてやりたいんです!」
美月さんもかわいい顔をしてずいぶん恐ろしいことを言います。
「おまえは悪い子をおしおきしたくて黒サンタになりたいのか?」
「はい! わたし本で読んだんですよ、黒いサンタって、悪い子にブタの血をふりかけたりするんですよね?」
美月さんは目をキラキラさせて意地悪に言いました。三太郎は呆れて言いました。
「そんなのはうんと昔の話だ。そんなサンタの評判を落とすような汚ねえことは今はしねえよ」
「なーんだ、つまんないの。ね、先生、じゃあ今はどんなおしおきをするんですか?」
三太郎は口をへの字にしてうんと眉をよせました。
「どうもおめえは黒サンタの仕事を誤解しているようだな。そもそもそんな本当に悪い子のところになんか赤でも黒でもサンタクロースは行きやしねえよ」
美月さんは目をパチパチさせて首をかしげました。
「じゃあ黒サンタはどんな悪い子のところに行くんですか?」
「それはだなあー………」
三太郎はじいっと見つめる女の子の視線にへきえきして、
「自分で勉強しやがれ」
と言いました。
そんな風に話をしているうちに黒いオープンリムジンは都会のビル灯りの中に降りていき、ほどほどの高さのビルの屋上に着陸しました。オープンカーに屋根が現れて、箱形の小さな部屋になりました。三太郎は一人車を降り、降りてこようとする美月さんを押しとどめて言いました。
「見習いはまず昼の仕事からだ。しばらくはこれがおまえさんの家だからな。ほれ、そのタッチパネルで風呂にも台所にもなるから、自分の面倒は自分で見やがれ」
前の座席の背もたれが前に倒れるとテーブルになって、ドアのところに付いている「あいぱっど」みたいなタッチパネルにお料理やシャワーの絵のボタンが表示されています。なんだか「どらえもん」に出てくる未来のキャンプ道具みたいですが、サンタクロースは常に世の中の動きを研究して最先端の道具を揃えているのです。
「へえーー。サンタクロースっていい働き口ですね!」
美月さんはタッチパネルをどれにしようかなあと指で選びながら大喜びしました。
「こらこら、はしゃいで夜中遅くまで衛星テレビなんか見てるんじゃねえぞ」
「うわあ! テレビも付いてるんですね!」
「さっさと風呂入って寝ろ!」
三太郎はのっしのっし黒い背中を見せて歩いていき、屋上のドアを開けてビルの中へ入っていきました。