11,ラビリンス!
「ど、どうしよう……」
美月はどうしたらいいか分からずすっかり気持ちが落ち込んでしまいました。マサキくんが考えて言いました。
「ここは夢の中の月なんでしょう? 本物の月に迷路なんてないもん」
「そうなんでしょうねえ」
「じゃあやっぱり僕たちは夢を見ているってことだよね? 寝ている本当の僕がお母さんに起こされるか、もし100年たったとしても、本当は一晩の夢ってことになるんじゃないかなあ?」
「う〜〜……ん、そう……なのかなあ?」
美月はそうならなんで三太郎は自分を迷路に閉じこめるようなことをしたのだろう?と考えましたが、三太郎が意地悪をして喜んでいるのだろうと思ってムカムカしてきました。
「とにかく迷路に挑戦する以外ないようだよ?」
マサキくんに言われて美月もよしっ!と気合いを入れました。
「やったろーじゃない! 100年迷路をクリアして、あの黒ひげ親父をギャフンと言わせてやる!!!」
「じゃあ、がんばろうね?」
「よおーし、レッツゴー!!!!!」
美月は腕をふりあげ、二人は迷路に入っていきました。
迷路の壁は二人の背の倍以上あってとてもよじ登って周りを見ることなどできそうもありませんでしたが、月は地球の4分の1の重力しかないのでふつうよりうんと高くジャンプすることができました。それでも壁の上までジャンプすることはできませんでしたが、マサキくんが手を組んで、バレーボールのトスを上げるようりょうで美月を上に高く放り上げると美月はビューンと高く飛び上がり、壁の上に着地することができました。マサキくんもすーぱーまりお兄弟の壁上りのようりょうで幅2メートルの間を忍者のように左右の壁を交互にけって上に登っていき、壁の上に到着しました。30センチの幅の上に立った二人は周りを見渡して思わずポカーンと口を開けてしまいました。見渡すかぎりの迷路の壁がつらなっていて、ここを100年も歩き続けるなんて、考えただけで気が遠くなってしまいます。二人は思わずいっしょに「ハアア〜〜〜〜〜………」と深いため息をついてしまいました。
「とにかく、歩こうか?」
「そうね」
二人は壁の上を歩いていきました。ずいぶん高いですが、体が軽いので怖くはありません。しかししばらくすると向こうの方から何か飛んできました。ブーンと羽ばたいてやってきたのは大きなミツバチのモンスターでした。モンスターはお尻を向けるとプシュン!プシュン!と針を発射して二人を攻撃してきました。
「うわっ、わあーっ!」
二人はたまらず壁の上から落下しました。
「いったーー……くはないけど、なんなのよあいつう〜〜」
ミツバチモンスターはブンブン飛び回り、しばらくするとどこかに飛んでいきました。
「どうやらズルしないように見張っているようだね?」
二人は仕方なく地面を歩いていきましたが、さっそく分かれ道に出会って、てきとうに一方を選んでしばらく行くとまた分かれ道があり、一方を選んで進んでいくと行き止まりになってしまいました。
「なんなのよお〜〜! こんなのがえんえん続くってわけえ〜〜!?」
美月はキイーーッ!と怒って帽子をかきむしりました。マサキくんはため息をつき、
「とにかく進まなくちゃ」
と前の分かれ道に戻りました。こっちも行き止まりだったらどうしようと思いながら進んでいくと、今度はまっすぐ道が続いています。ところが歩いていくとまた左右の道が見えてきてげんなりしてしまいました。
近づいていくと、左の道から人が現れて二人はびっくりしました。
「わっ!」
と現れた人も二人を見てびっくりしましたが、
「あっ、おまえショウジキじゃん!」
それはゲームで遊んでいたグループの一人でした。
「コウタくん。なんで君がいるの?」
マサキくんがきくとコウタはぶ然として言いました。
「おまえこそなんでオレの夢に出てくんだよう、ムカツクなあ」
と言いながら、コウタはヘヘッと笑いました。
「まあいいや、おまえみたいなんでもいないよりはましか。ついでにむかつくインチキ女もお〜〜」
「なんですってえ〜!」
と美月は怒りましたが、コウタはヘヘッと笑いました。
「夜寝てたらよー、黒いクマみたいにでっけー親父に誘拐されて空飛ぶ車でこの迷路の中におっことされたんだよ。あいつ、おめえの父ちゃんだろう?」
「お父さんじゃないわよ。わたしの先生の、黒いサンタクロースよ」
「黒いサンタクロースう?」
「そうよ。あんたが友だちに意地悪する悪い子だからおしおきされてんのよ」
「じゃあおまえらも悪い子でおしおきされてんのか?」
「…………………」
美月は腕を組んでむっつり黙り込みました。と、そこへ、
「あっ! おーい、おーい!」
右の通路から手をふって二人の男の子たちが走ってきました。
「イチロウ! コマツ!」
コウタは走ってきた二人と腕を組んで夢の中の再会を喜び合いました。仲間に入れないマサキくんはちょっと寂しそうです。
「おまえらも黒いサンタに誘拐されてきたのか?」
「黒いサンタ? 子どもの夢を食べる悪魔じゃないのか?」
三太郎はどう見てもよい子の味方のサンタクロースには見えないでしょうね。
「よし! 俺たち三人揃えば最強だぜ! こんなダンジョン、軽く突破してやるぜ!」
意気ようようガッツポーズを取る三人に美月は意地悪に言いました。
「この迷路クリアするのに100年かかるってさあ〜〜?」
「ひゃ、100年んん〜〜〜っ!!??」
三人は予想以上の巨大ダンジョンに悲鳴を上げ、美月は意地悪に笑いながら、自分だってうんざりしてため息をつきました。