10,腹黒サンタの罠!
クリスマスイブ。
正木正直くんはアパートで一人で夕飯を食べ、一人で布団に入って寝ました。お父さんもお母さんも夜遅くまでお仕事で、正木家のクリスマスは3日後の月曜日までおあずけです。
あーあ…、つまんないクリスマスイブだなあ…、でぃーえす欲しいなあー…、でも今年もプレゼントは2000円の図書カードだろうなあ…、ゲーム面白かったなあ…またやりたいなあ……、あーあ………
と、マサキくんは布団の中でため息ばかりついていました。なかなか寝つけず、寝返りばかり打っていると、カーテンごしに窓の外から赤青黄色にチカチカ点滅する光がさしました。ここはエレベーターのないアパートの4階の部屋です。マサキくんが信号機のお化けかななんて思っていると、ガラガラ窓が開いて、カーテンがめくられました。マサキくんはびっくりしてとびおき、どろぼうだ!どうしよう!?とあたふたしました。
「メリークリスマース!」
やあ!と元気に手をつきだして黒い帽子に黒いドレスを着た女の子が入ってきました。
「あっ、君は!?」
女の子はマサキくんにでぃーえすをくれた子でした。マサキくんはいつの間に眠ってしまったんだろうと思いました。
「夢じゃないけど夢なんだよお〜? おめでとうございまーす、あなたは黒サンタの月世界遊園地ご招待に当選されました! さあ、どうぞサンタのソリにお乗りくださーい」
美月にさあ!と窓をさししめされて、マサキくんはおっかなびっくり窓の外を見ました。
「よお。メリークリスマス」
赤青黄色の電球に飾られた屋根のない大きな黒い車が宙に浮いていました。その運転席で黒いコートを着たでっかい角張った黒岩三太郎がハンドルを握っています。
「ほら乗れよ。こいつで月まで一っ飛びだ」
マサキくんが空を見上げると、星空にでっかい満月が白銀に輝いていました。こんなに大きい満月は見たことありません。空飛ぶ自動車といい、これは夢にちがいないとマサキくんは安心しました。
「さあ乗って。今夜はクリスマスイブの特別な夜なのよ? 夢の遊園地で思いっきり楽しみましょう!」
かわいい黒サンタにさそわれてマサキくんは嬉しくなって
「うん!」
と元気に返事をし、窓をまたいで、自動車の下から出ている翼に足をついて、後ろの座席に乗りました。となりに美月も乗り込んできました。
「先生! レッツゴー!」
「よし。ロケットエンジン点火」
三太郎がハンドルを引くと車は上を向き、ボチッとボタンを押すと後ろでボンッとすごい音がして炎が噴き出し、ゴゴゴゴゴオオオオオオッ、と、ものすごいスピードで天に昇りだし、町の灯が消えて周りが真っ暗になると、わあっと空の星の数が十倍にもなってキラキラまぶしいくらい輝いて、真っ黒な宇宙にあわいミルク色の帯、天の川が現れました。プラネタリウムで見るよりすごい星空にマサキくんは口をポカンと開けてしまいましたが、となりの美月に腕をつつかれてふりかえってみると、地球の真っ黒な陰の部分に日本列島の形で金色の光が輝き、丸い地球の西の方は太陽の光が残って青い海と白い雲があざやかに光って見えました。マサキくんは感動で胸一杯で、このまま目がさめてしまっても悔いはないように思いましたが、
「じきに到着だぞ」
と言われて前を向くと銀色の月が目の前いっぱいに広がって、まるで激突しそうに大きく迫ってきて、と思うと岩の表面に細かな線の模様が見えてきました。こんな模様、図鑑やテレビでも見たことありません。ぐんぐん迫っていくと、それはどうやら高い壁でしきられた通路のようでした。
「そら到着だ。ご乗車ありがとうございましたーっと」
ボヨン!と後ろの座席のクッションが弾んで、マサキくんと美月は宙に放り出され、「わーーー」「きゃーーー」と悲鳴を上げて白い地面に落下していきました。二人は丸い広場に落ちていき、下からエアーが吹き上げてふわりと着地しました。
空に浮かんだリムジンカーから三太郎が笑い声と共に言いました。
「サンタランドご自慢の『月まるごとラビリンス』にようこそだ。空から見たとおり月の表面全部に迷路がはりめぐらせてある。ゴールはそのちょうどま裏だ。分かりやすくていいだろう? そうだな、迷路をクリアするのに……100年くらいかかるかなあ? まあ夢の中だから死にゃあしねえから、ま、た〜〜っぷり、楽しんでくれたまえな。わはははは」
「ちょっとセンセえーーっ!!!」
美月は怒ってぶんぶん腕を振り回して上にさけびました。
「どういうつもりよ!? 一晩夢の遊園地で楽しく遊ぶんじゃなかったのお!?」
「だから迷路を楽しめよ?」
「ゴールまで100年もかかる迷路なんて楽しいわけないでしょう!?」
「う〜〜む、そうなんだよなあ??」
三太郎は下をのぞき込んで、あごに手を当てわざとらしくウンウンうなずいて言いました。
「まったくサンタランドのアミューズメント担当サンタどももバカな物を作ったもんだよなあ? 80年代バブルの時代の産物でな、作ったはいいが、誰一人クリアできた者がいないんじゃあな、すっかりお客なんていなくなっちまった。ま、おまえらが最初のゴールテープを切って伝説の勇者になってくれや」
美月はプンプン怒ってますます腕をぐるぐるふり回しました。
「冗談じゃないわよ! もう〜〜〜!怒った!!! ぜーったいサンタ事務局に訴えてやるうっ!!!」
三太郎は悪い顔でニヤリと笑いました。
「ああいいぜ。どうぞ訴えてくれ、100年後にな」
「な、……なんですって?………」
美月は腕をふり回すのをやめて信じられない顔で三太郎を見つめました。
「嘘でしょ? 本気でわたしたちをここに置き去りにするつもりじゃあ……………」
「それでは諸君らの健闘をいのる」
三太郎はピッと戦闘機のパイロットのように敬礼して、ニヤッと笑うとロケットエンジンを噴かしてあっと言う間に地球向かって消えていきました。