第16話 私と修学旅行
11月になれば、気温もだいぶ下がってきた。それでも、世間一般の『秋』よりは、暖かい。
今年の夏は、本当に暑かった。毎年言ってるかもしれないが、年々気温が上がり続けている気がする。いつか50℃とかになってしまいそうで、恐ろしい。
「…………今日よね。彼に会いに行くの。」
今は体育の時間。2人ペアになって、バスケのパス練をしているところだ。
澄空とよく話すようになってから、2人組を組むときは、一緒にやるようになった。その前までは体育教師とやったり、3人組の余りの人とやってた。
こうやって、当たり前のようにやる人がいるとすごく安心する。
それに、最近、彼女と放課後にカフェに行ったり、鎌倉の海で話すようにもなった。少し前までの自分には、考えられないことが起きている。
………澄空がおすすめするカフェは薄暗くて怪しいところしかないので、ちょっと困ることはあるけど。
彼女が投げたボールを、私は素早くキャッチする。
「そう。でも、まだ待ち合わせ場所ちゃんと決まってないから不安だよ。ちゃんと来るかな。」
「……月の人よね。」
おそらく、翔月くんのことを指しているのだろう。
私は、彼女に見えるように大きく頷いた。
彼女は話を続ける。
「…………雛子。本当に行くの?」
「今更行かないは違うでしょー! もうお土産買っちゃったもの。」
「何買ったの。」
「……大仏さま焼き。」
「……やっぱり。小町通りまで行ったのね。」
そうやって言われると、ちょっとだけ照れくさい。なんだか、1人で張り切ってみたいだもん。
実は、会うのが決まってから、翔月くんへのお土産は、何がいいか考えていた。小豆島であった時、貝殻を貰ったから、私も鎌倉で拾った貝殻にしようかと思ったけど、男子高校生は食べ物の方がいいかなと思った。食べ盛りだもんね。
「センス悪いかな?」
「……王道でいいと思うわ………。」
「よかった。喜んでくれるといいな。」
彼女はニヤリと笑う。
「……気に入ってるのね。月の人のこと。」
「そんなこと!」
「私に前で、嘘がつけるとでも……思ってる?」
そう言われて、返す言葉がなくなってしまった。
まだ大した運動もしていないのに、胸がドキドキしている。
疲労のせいではないことを、自分でもわかっていた。
「……でも気をつけて…。今日はあんまり運勢がよくない……。」
「どういうこと?」
「雛子が行くって決めたなら、私は止めない……。だけど、今日は災難な日よ…覚悟しておいたほうがいい…。」
私が黙っていると、彼女はそばへ駆け寄り、耳元で囁いた。
「今日は雨が降るわ……。傘を持っていくといい……。」
「? でも、今日は1日中晴れるって…。」
「……信じないなら信じなくていい…。あとは……そうね、とにかく落ち着いて……。」
聞けば聞くほど、頭に『?』の文字が多くなるばかりで、まったく理解ができなかった。
「落ち着いてるけど。」
「そういう意味じゃない………。」
正直言って、澄空が言ってる事が信じられなかった。でも、彼女は占いを外したことないし、私の未来を何でも当ててくる。
本当に、何か起こってしまうのだろうか。
もしかして、私じゃなくて、翔月くんになにかが―――
心配だったけど、せっかくの修学旅行なのに邪魔するわけにはいかなかった。
※ ※ ※
放課後。結局、傘は買わなかった。家に帰るのもニ度手間だし、澄空の言う『傘』もなんの傘かもわからない。彼女は、何かと不思議なこと言うから、比喩表現で言ってるのではないかと思ったからだ。天気予報でも、降水確率は10%だし。
江ノ電に揺られていると、スマホのバイブ音が鳴る。
スクールバッグのなかに、ひっそり入れたお土産袋。
これを、いまから彼に渡すと考えると、変にドキドキしてしまった。
メッセージの相手は、もちろん翔月くん。
『自由行動! ここから何とか抜け出すね笑』
『お台場海浜公園わかる? オレ、そこ向かうから、そこに来てほしい!』
何枚かの写真が送られてきた。ステーキや、ドリンクのジュース、ラーメンも送られてきた。え!?こんなに食べてるってこと!?
とりあえず、待ち合わせ場所が決まったので、私は『1時間後くらいにつくね。』と送っておいた。
もうすぐ、会える―――。
私は、スマホのカメラで、自分の見た目を何度も見返した。
この日のために、美容院に行って、髪を整えて、ボブでもできるヘアアレンジも勉強して、編み込みをしてみた。
メイク、変じゃないよね。もしかして、気合入れすぎて、チーク濃い……?
翔月くん、どう思うかな…。
また、可愛いって言ってほしいな。




