第15話 オレの修学旅行
飛行機に揺られて、1時間20分。思ったより、早く着いた。というのが今の率直の感想である。
着陸のアナウンスが機内に鳴り響き、オレ・翔月たちは、即座にシートベルトを外す。
「お前らーー。集団行動だからなー。はぐれるじゃないぞーー。」
奥村先生の言うことなんか、当然みんなフル無視。
なんだって、オレらは今、憧れの東京にいるのだから。
空から見下ろした景色をみた瞬間、オレらの興奮はさらに加速。海しかなかった殺風景な景色から一変、たった1時間20分待つだけ、たくさんの高層ビルがお出迎えしてくれるから。
飛行機から降りると、オレは1歩、足を踏み出す。
息をすーーっと吸う。
ついに、初上陸だ。
その空気でさえ、味わったことのない、神秘的な新しい味に感じた。
「なあ! 翔月!! 東京だなぁ!! すげえー…おれら、遂に着いたんだな。」
飛行機で隣の席に座っていた田中が、オレのそばで呟く。
空港の窓から見える初めての景色に、胸を躍らせる。
「ほんとにな! 写真撮ろうぜ!!」
オレがそう言うと、田中だけではなく、次々とクラスメイトたちがカメラのなかに入り込んでくる。背後から、『え!? お前も入るん?』という声が聞こえてくる。
人が多すぎて、逆に景色が隠れてしまっている。まあ、これも思い出の醍醐味か。
※ ※ ※
ロビーに着くと、既に奥村先生は目印の前に立っていた。
まだ空港なのに、相当な写真を撮ってしまった。『東京』というだけで、こんなにもハイテンションになれる自分が、ひどくおめでたいと思う。
でも、空港だけでも高松とは全然違う。人の数はもちろん、ゲートの種類も、電光掲示板もまるで暗号のようだ。
あと、みんなせかせかとしていて、歩くペースが異様に速い気がする。
「はーい、静かにしろ。トイレ行きたいやつは今行っておくようにー。これから観光バスで東京タワーまで向かう。」
先生のその言葉で、生徒が話を遮って、大きな歓声をあげる。
非日常な体験の連続で、生徒たちは話を聞く余裕なんてないのだ。
「キターーー!! 東京タワー!!」
「ねえ! 東京タワーだって! テレビで見た!」
「絶対映えるでしょ!!」
彼らがそう口々に騒ぎ出すと、先生は静かにため息つく。
「お前ら……さっきから田舎モン全開だぞ…。こっちが恥ずかしいんだわ。」
「だってセンセー!!」
オレも口々に言い返す。
「うるさい、波原。」
「えーーー!? オレ???」
なぜか注意されたのはオレだけで、他の人はへらへら笑っている。先生もまた、笑っていた。
※ ※ ※
バスで揺られること20分。
噂で聞いていた通り、東京は交通量が異次元に多い。簡単には進まないし、車の量も大量だ。それに、難しい道も数多くあり、都会の人は、よくスムーズに運転できるなと思う。
オレは、流れる景色すべてを写真に収めたいため、進むたびに連写をする。
「おい、翔月…カシャカシャうるせぇ……。窓側のおれの身にもなれ。」
隣に座る田中は苦情している。それも無理はない。通路側のオレが窓側へ乗り出して、永遠に写真を取っているからだ。はっきり言って、邪魔なんだろう。
「ごめんごめん。でも、田中、もっと写真撮ったほうがいいよー? 次いつ行けるかわかんないし。」
「限度があるんだよ。何事も。」
軽く彼にチョップされる。『痛っ』と声を漏らした。
カメラで収めたギャラリーを見て、不意に笑みが溢れる。
先程まで飛行機に乗っていたから、電波の関係でLINEが送れなかった。だが、もうバスなので安心してメッセージを送ることができる。
『やっほー! ひなこちゃん!!! 遂に東京初上陸!!! 』
『東京まじやべぇ!! ビルとかキラキラしてるお店いっぱいある!!! すごすぎ!!!』
『今から東京タワーいくよー!!』
3件のメッセージを送ったあと、先程田中たちと撮った空港の写真、今撮った景色の写真を送信。
合計5件の通知になってしまった。ハイテンションすぎたのが彼女にバレそうで、うれしいような、恥ずかしいような。
ひなこちゃんとは、今日の午後に会えたら会うことになった。
今日は平日だから、当然午前中には会えない。午後にはお台場で、班別自由行動。
そこで、うまく皆にごまかして抜け出していく、という作戦。
ただ、バスで景色を見ていて、道が地元と全く違うのでGoogleマップを見ないといけない。
また―――会える。
まさか、こんなに早く会えるなんて。
早くひなこちゃんの顔を見たいよ。
せっかく来てくれるんだから、精一杯の振る舞いをしないと。
この時のオレはまだ知らなかった。
まさか、彼女に会う前に『あんなこと』が起こってしまうなんて―――。




