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おっさん修理士は辺境で孤児を育てる ~成長中の娘たちが使う武具も道具も伝説級になっていく~  作者: ひなのねね


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第31話

 バディの確保はクリア。

 第一関門は突破した。


 あとは街道沿いに王都を目指すだけだ。

 王都へ続く街道は数日かかるものの、多くの馬車や商人が行きかっているので目に見えた危険もない。


 つまり火の粉が降ってきたら、それは覆面試験管によるテストだろう。


「けど凄いね、ミルフィちゃんは、もう王都を守る騎士なんだね」

「騎士団候補生だから、まだ確実ではないけど――うん、みんなを守れる騎士は目の前」


 幼い頃思い描いた家族を守る騎士。


 幼かったミルフィは覚えていないが、山賊に襲われて壊滅した孤児院。

 そこから逃げ出したリーンベル。

 リーンベルが必死に守ったエミリア、ツキノ――そしてミルフィ。


 ――私は父さんと住んで家族の温かさや大切さを知った。

 だから、誰も失わない世界を守るんだ。


「……頑張ってね」


 スフレはうつ向きながら肩を落とした。

 やっとクエストを受注したにも関わらず、自信を喪失しているようだ。


「スフレ、騎士団候補生のクラス分け試験は過酷なものもある。

 それをスムーズに攻略してギルドに報告すれば――大丈夫だよ」

「う、うん。ありがとう……」


 励ますつもりで言ったつもりが、スフレの表情は浮かない。


 街道には道行く冒険者もちらほら見える。

 日差しは比較的穏やかで今日は暖かいが、彼女の心は曇天のようだ。 


 二人は無言のまま進む。

 空気が妙に重く、ミルフィは自ら口を開いた。


「スフレはあれから魔法使いの勉強をしたの?」

「お、お母さんみたいになりたいから、たくさん本を読んだよ」

「魔法使いはどんな勉強を?」


 騎士団の騎士は数種類に分けられる。

 剣を扱う一般的な剣騎士、盾で前衛を維持する盾騎士、魔法で援護する魔術騎士など、王都に仕える者を騎士と呼んでいるだけで、得意分野は細分化されている。


 ミルフィは盾を扱うので盾騎士を志望しているので、魔法使いの事はさっぱり分からなかった。


「わ、私は魔法と魔法薬を半分ずつ勉強したかな。

 魔法薬は錬金術師には敵わないけど、モンスターに効果があるものは魔法使いの方が得意だし」

「もしかしてスフレのお母さんと同じ?」

「私の目標だから……」

「そっか、なれるといいね」

「それに、もう一人の目標に近づきたいし――」

「もう一人?」


 ふとスフレがミルフィを見上げた時、街道の脇道で横転している馬車が目についた。

 困ったように立っている婦人が一人。

 深刻そうな顔で、辺りを見渡している。


「ミルフィちゃん、あ、あの馬車とあの人、困ってるのかな?」

「……そうね」


 こんなに人の多い街道沿いで、あからさまな横転。

 偶然なのか、先ほどまで往来していた人たちも今はミルフィたちだけだった。


 ――怪しい、あれが覆面試験官なのかも?


「助けよう」

「う、うん」


 二人が馬車に近づくと、婦人は口を開こうとしたがぐっと閉じた。

 

「大丈夫ですか?

 今馬車を起こしますので――」


 ミルフィが馬車に近づいたとき、ぐらりと視界が揺れた。

 

 ――な、しまっ……た。


 すぐに盾を構えたが、時すでに遅し。

 死角には2人の女性が身を隠し、そのうちの一人が短杖をこちらに向けていた。


「スフレ、に、にげ――……」


 声を出すよりも先に意識が沈んでいき、ミルフィは地面に伏した。


「ふふ、睡眠の魔法なら私たちでも簡単ね。誰かが来る前に、盗るわよ」

「「ええ!」」


 先ほど震えていた女性すらミルフィが落とした鞄に手を伸ばそうとする。


「や、やめて……!」


 スフレが長杖を取り出して、両手で懸命に構える。

 だが手は震えていて、腰が引けている。


「ふうん、魔法使い。

 それにしては随分と、弱そうじゃない」

「う、うう……」


 おとり役の女性が一人、物陰に隠れていた女性が二人、合計三人がスフレと相対した。

 ミルフィを完全に無力化したとみて、スフレへと杖を向ける。

 3人、全員が魔法使いのようだ。


「な、なんでこんなことするんですか」

「なんで?

 知ってるかい、今日は王都騎士団の候補生が数多く通ることを――つまり新米のカモばかりってことさ!」


 一人の女性は短杖を軽く振って、スフレへと攻撃魔法を放つ。


「ファイアアロー!」


 炎の矢が迫る。

 スフレは震える足を叱咤し、必死に杖を振った。


「ウォ、ウォーターシールド!」


 小さな水の盾が生まれ、炎を弾き飛ばす。

 力は弱い。

 けれど、その一瞬で彼女は気づいた。


 ――怖くても、一歩を踏み出せば守れるんだ、と。


「ミルフィちゃんは、私が守る――!」


 震えながらも叫ぶ声に、襲撃者たちの動きが鈍った。

 その隙に、盾の陰で眠っていたミルフィが薄く目を開ける。

 

 ――さすが父さんの盾、かすっただけで魔法の効果をほぼ削ぐなんて。


 完全には魔法にかかっていなかったのだ。


「ありがとう、スフレ……!」


 ミルフィは立ち上がり、盾を突き出して一気に敵を弾き飛ばす。

 反撃に出る彼女の前で、スフレも必死に魔法を放ち続け、二人で三人組を制圧した。


 縄で縛り上げると、彼女たちは観念したように黙り込む。

 ミルフィは深く息をついてから、スフレに微笑みかけた。


「近くの村の自警団に引き渡しましょう。

 ……でも今回の功労者は、間違いなくスフレよ」

「わ、私……?」

「うん。勇気を持って、立ち向かったじゃない」


 スフレの胸の奥で、じんわりと熱が広がる。

 初めて「自分がやれた」と思えた瞬間だった。


 やがて村の自警団に三人を引き渡し、二人は再び街道を歩き出す。

 夕焼けに照らされた道を進みながら、スフレは少し照れくさそうに笑った。


「スフレ。

 そういえば、もう一人の目標がいるって――それは誰だったの?」

「え、それはね――ふふ、内緒」

 

 ミルフィは頬を赤らめ、少しだけ照れ隠しのように前を向いた。


 その後ミルフィは、本来の試験官が出す試練も自信を持ったスフレと共に難なく攻略した。


 元より実力は備わっていたのだ。

 気持ちが伴えば鬼に金棒だろう。


 遠くにそびえる白い城壁を見上げながら、スフレの胸はもう迷いよりも希望でいっぱいだった。

 いつか立派な冒険者になれたとき、ミルフィの隣に立てるように。


 そしてまたミルフィも、王都騎士団候補生として、王都での寮生活が始まろうとしていた。

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