表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっさん修理士は辺境で孤児を育てる ~成長中の娘たちが使う武具も道具も伝説級になっていく~  作者: ひなのねね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/32

第29話

「二人一組になってもらう!」


 ミルフィは驚愕した。


 ――聞いてない。


 辺りを見回すと、既に他の騎士団候補生たちは迷うことなく近くの子とペアを組んでいた。

 ざわめきが広がる中で、自分だけが取り残される。

 胸の奥がひやりと冷たくなった。


 試験官役の女性騎士は、広場をゆっくりと見渡しながら鋭い目つきを向ける。

 その眼光は剣より鋭く、候補生たちの背筋を自然と伸ばさせた。


「王都騎士団は二人以上での行動が基本だ。

 候補生たちにはまず、その基礎を叩き込んでもらう」


 淡々とした声。

 だが一言一言に重みがあった。


 王都騎士団候補生――女子のクラス分け試験は、事前に内容が告知されない。

 それは不測の事態への適応力を試すためであり、臨機応変な判断と仲間との連携が不可欠だからだ。


 家族以外とまともに接した経験がほとんどないミルフィにとって、それは苦手分野。

 だが――避けて通れない。

 必ず乗り越えねばならない壁だとわかっていた。


「クラス分け試験の内容は単純だ。

 この街から王都までの数日間、互いに協力して本部まで辿り着け。

 道中には試験官が潜む可能性がある。

 素性を隠し、お前たちに課題を突きつけるだろう。

 その対応も、我らは見ていると思え!」


「「はいっ!」」


 候補生たちの声が広場に響いた。


 ――実戦形式か。


 一人で乗り越えるなら自信はある。

 だが大切なのは「仲間と共に」か。


 ミルフィが立ち尽くしている間にも、次々とチームが結成されていく。

 隣で笑い合い、肩を並べる少女たち。

 輪からはぐれていく自分。

 焦燥感が胸をかきむしった。


 ――こんな時、父さんならどうする?


 脳裏に浮かんだのは、アシュレイが深いため息を吐く姿。

 心底面倒くさそうに「はあ……」と頭を掻く、無骨な背中。


 ――ダメだ、父さんは参考にならない。

 ――ベル姉さんだ。


 細かい失敗は多かったけれど、人に好かれる力だけは誰よりも強かった。

 ならば自分も、せめて真っ直ぐに――。


「そこの……相手はいるか?」


 試験官役の女性騎士が、溜息交じりにこちらへ歩み寄ってくる。

 彼女は巨木のように大きく、鍛え抜かれた体躯は並の騎士を凌ぐ迫力があった。


「――あまりました!」


 思わず声を張り上げていた。

 ベル姉さんなら、きっとこう言った。

 ごまかさず、真っ直ぐに。


「ふむ、やはりな。

 奇数なら余りは出ると思ったが……私と組ませるわけにもいかん」

「一人でも大丈夫です」

「そうはいかん。試験の趣旨と外れるからな」


 女性騎士は腕を組み、顎に手を当ててしばし思案した。


「名は何という」

「ミルフィです」

「よし、ミルフィ。貴様の第一試験は“バディ探し”だ。

 候補生でなくとも構わん。現地で協力者を見つけ、王都を目指せ。

 それもまた、王都騎士団に必要な才覚だ」


 その瞳はまっすぐにミルフィを射抜いていた。


「期待している、ミルフィ候補生」


 喉が渇き、指先がじんわりと汗ばむ。

 けれどその緊張の奥に、確かに灯っていた。

 ――新しい挑戦を受け入れる、小さな火が。


「分かりました」


 短く告げる声は、思った以上に落ち着いていた。

 自分の胸の内を隠すために、ほんの少し強がりを混ぜて。


「よし、ならば、準備ができた者から各自の第一試験を目指して進め!!」


「「はい!」」


 掛け声が一斉に響き、候補生たちは散り散りに動き出す。

 足音や武具の触れ合う音が、石畳の広場に反響していた。


 ミルフィは深く息を吸い込み、不安を表情に出さぬよう気を張りつめる。


 ――まずはバディを見つける方法。


 試験官の言葉から察するに、他の候補生たちにもそれぞれ別の第一試験が課せられているのだろう。

 難易度は誰にとっても同じ。

 だが、どう乗り越えるかで明暗が分かれる。


 早く王都に着けばいい、という試験ではない。

 決められた期限内でスマートに物事を解決し、仲間と連携をとりながら辿り着くか。

 その姿勢こそが、試験官たちの目に映るはずだ。


 慌てず、確実に。

 任務を遂行する――それが父さんに教わったこと。


 ――王都までの仲間を募るなら、冒険者ギルドが一般的。

 次点はフリーの旅人を誘う方法。

 現実的なのは前者、か。


 この村は中規模。

 規模が小さくとも、この程度なら冒険者ギルドは必ず存在する。


 王都まで徒歩で数日の距離。

 道中にいくつか村があるとはいえ、護衛や同行者を求める者は少なくないはず。


「いませんね」


 軽い気持ちで踏み込んだ冒険者ギルドは閑散としていた。

 年季の入った木製カウンターの向こう側で、受付嬢が淡々と告げた言葉に、ミルフィは瞳を伏せるしかなかった。


「もし空いている方がいても……三日間の拘束費用、モンスター討伐費用、危険手当諸々――しかも王都までの旅となると距離からして、随分な費用が必要となります」


「そうですか」


 冷静に返したはずの声が、自分の耳には悲しみに濡れて響いた。


 ――父さんが大切に貯めてくれたお金。

 騎士を志す私に託された未来のための資金。

 それをこんな場面で大きく切り崩すのは、やはり違う。


「では、他を当ります。

 調べていただき、感謝いたします」


 背を向け、歩みかけたその時――。


「あ、あの! お待ちください」


 受付嬢の慌てた声が背中を追いかける。

 振り返れば、彼女は不安そうに周囲を見回しながら、ちょいちょいと手招きをしていた。


「……王都騎士団候補生の方、だよね?」

「……そうですが」


 栗色の長い髪、年の頃は十代後半ほど。

 どこにでもいそうな、けれどどこか人の良さがにじむ女性だった。


「あのね、紹介できる冒険者はいないんだけど……」


 一度言葉を区切り、受付嬢は小さな声で続けた。


「ギルド登録していない知り合いなら……」

「知り合い?」

「うん。あと少しでお昼休みだから、その時にでも。もし待てるならだけど」

「……はい、可能ですが」


 意外な展開に、ミルフィは小首を傾げた。

 なぜ、わざわざ個人的に?


「どうして私に、仕事じゃないのに紹介してくれるんですか?」


 素朴な疑問を向けると、受付嬢は困ったように笑みを浮かべる。


「この村には毎年、騎士団候補生が集められるんだ。

 今日みたいに、突然試験が始まって……。

 みんな、目をキラキラさせて、夢を追っている」


 視線を遠くへやり、どこか懐かしそうに目を細めた。


「私は何も叶えられなかったから、せめて誰かを応援したい。

 ただそれだけ」


 そして、小声で囁くように言葉を重ねる。


「……それに、相手の子も――《《助かる》》と思うしね」


 ――助かる?


 妙な言い回しに、ミルフィの胸に疑問符が浮かぶ。

 だが問い返すより先に、彼女は片目を瞑ってウィンクした。


「やりたい仕事を目指してほしい。

 ……諦めた人間の勝手な思い、だけどね」


 ミルフィは深く頭を下げた。

 彼女の想いもまた、自分が背負って連れていこう――そう、心に決めながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ