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おっさん修理士は辺境で孤児を育てる ~成長中の娘たちが使う武具も道具も伝説級になっていく~  作者: ひなのねね


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第27話

 ツキノが放り投げた小瓶は上空でコルク栓が、ぽんっと外れた。

 瓶の中に窮屈に詰め込まれていた植物が、空気に触れたことで巨大に成長した。


「捕食」


 瓶を内圧で破壊して植物が外に飛び出すと、崖へと付着してツタが岸壁に素早く広がっていく。


「ちょ、ちょっと待って、《《捕食》》ってどういうこと?!

 捕食はちょっとー!!!」

 

 ツキノの声に反応して、たくましく成長した蔦の一つが落下してきた人物の足首をするりと掴んだ。


「ぬぎゃ!」


 反動を殺されて、落下中の人物は悲鳴を上げるが、幾重に伸ばされた蔦は腕や腰など次に々と絡んでいく。


「た、食べても美味しくないんですけど!」


 触手を持つモンスターのようにうねうねしながら、捕獲した人物を持ち上げて、蔦はゆっくりと地面へと降ろしていく。


 逆さまのままで。


「捕獲の間違いだった」

「文字が違くて、お姉さんはホッとしたよ」


 ツキノは別の小瓶を取り出して、壁の蔦へと投げつけると瓶が割れて巨大蔦植物は、徐々に小さくなり、しまいには手に乗るほどの蔦の塊になった。


「ぐべっ」


 小さくなった拍子に助けられた女性も地面に叩きつけられた。


「頑張ったね」


 手で塊を拾ったツキノは、新たな瓶の中に蔦を押し込んで蓋をする。


「おねーさんも心配してくれないかな――って、貴女は……」


 地面で腰をさすっている女性が、発光瓶の光を頼りにツキノの顔をまじまじと見つめる。


「――ツキノちゃん?」

「ん?」


 名前を呼んだ女性の姿を見返す。

 年齢は20代前半の童顔な女性。

 

 ポニーテールに結った長い金髪が特徴的で、蒼い瞳が光に反射している。

 白いブラウスに紺色のベスト、その上に革のベルトや小さなポーチをいくつもぶら下げ、背中には旅行者用のリュックを背負っている。


 旅の錬金術師風の彼女の肩に、光の粒子をまき散らす小鳥がふわりと舞い降りた。


「ミレイミァン?」

「覚えててくれたの? 嬉しいな。

 大きくなったねツキノちゃん、今、何歳?」

「13」


 指を三つ立てて見せた。


「うわ、可愛い! 昔も可愛かったけど、今はもっと可愛い!

 えー、どうしよう。どうもできないけど、胸の奥から沸き上がる愛でたい想いが決壊しそうだよ!」

「すでに撫でてる」


 感動の再会を果たしたミレイミァンは、ツキノを胸の中に捕獲して、抱きつきながら黒髪を何度も撫でていた。


「あ、ごめん。

 あまりの可愛さに無意識のうちに……。

 では改めて、ありがとう、ツキノちゃん」


 何でもないようにツキノは首を左右に振る。


「けど、ツキノちゃんはどうしてここに?」

「音が悲しかったから」

「なるほど……相変わらず抽象的だね。

 けど、おねーさんもこの7年間何もしてなかったわけじゃないの。

 様々な言語を学び、世界を旅してコミュニケーション力を磨き――」

「向かいに誰かいるから助けたい」

「あ、うん、最後まで話させて」


 先に答えを言われてミレイミァンは苦笑いする。

 相変わらずこの子は流れが掴みにくい。


「私は調合素材の収集でここまで潜ったんだ。

 そしたらターゲットがお向かいにいたみたいで――どうにか向こう側に行こうと登ってみたんだけど、このありまさま」


 岸壁を親指で指してから、恥ずかしそうに笑った。


「もう爆破するしかないかなぁ」

「ダメ」

「私もそう思うんだけどね、他に方法が無さそうで」

「火薬量を間違えば、地形が変わって他の動物の生態系が変わる。

 それに私たちも生き埋め」


 ミレイミァンはツキノを見て、目を丸くする。


「詳しくなったね。

 錬金術師になったのかな?」

「まだ――でもすぐに後輩」


 胸の上に縫いつけた紋章をツキノは、ミレイミァンに見せる。

 ダイヤ型の四画の上に杖と植物が描かれた王立アルケミスト学術院の紋章だ。


「私の後輩か、嬉しいね。

 それじゃあ、早速だけど、さくっと素材を収集して学術院へ帰ろ」

「何に使うの?」

「絶滅した植物を再生する研究に使うんだ」

「ふうん?」


 分かったような分からないような顔で、ツキノは頷いた。


 ミレイミァンがこの向こうにいるモノから素材収集ということは、生物からとれる体の部位などだろう。

 何がいるか分からないが、打撃音からは、かなりの破壊力を有してそうだ。


「まぁ、火薬で岩もろとも退治しちゃおっか。

 お向かいのお相手もずっと暴れてる音がするから――もしかしたら、身体の一部が下敷きになって動けないのかも」


 ミレイミァンははリュックから竹筒を取り出して、少量の火薬を落石付近へと垂らそうとする――。


「まって」


 蓋を開けたところでツキノが制止した。


「――まかせて」

「ツキノちゃんが?」


 訝しむミレイミァン。

 幼い時に森で出会ったときも不思議な実験をしていたが、まだ錬金術師見習いだ。

 長旅を続け、さらに錬金術師へと戻ったミレイミァンからしたら、ツキノは危なっかしい。


「危ないよ、少量の爆破して崩しても、向かいの奴が自由になって襲ってきたら、私たちだけじゃ倒せないよ。

 私が見積もった火薬量なら、ヤツもろとも致命傷を与えられる適量なはず」

「崩落を生む、それに私は」


 普段の眠そうな目のままツキノはミレイミァンを見据えた。

 意志のこもった瞳は、これ以上、この洞窟の破壊は許さず――生き物を助けたい想いすら見えた。


「ツキノちゃん。

 私たち錬金術師は、人の営みのためにモンスターや動物から素材を収集することもある。

 弱肉強食は、生物のサガなの」

「サガ」

「錬金術は無から有を生み出すことを最終目的にしている。

 いつか世界の概念を超えようとしている。

 だからこそ、物質に対する生き死に向き合うことが多い学問なの」


 ミレイミァンは優しい女性だったが、錬金術師の先輩としてハッキリとツキノへと心の在りようを伝えようとしている。


 これから錬金術師を目指すならば、生物の死を選ばなくちゃいけないことも。


 ツキノは己の胸に手を当てて、目を閉じる。


「ツキノちゃん?」


 誰もいない工房で黙々と農園に使用する薬品を強化しているアシュレイの姿が 脳裏に浮かぶ。


 ――あの時、私に聞こえるように、わざとらしく独り言をしてたっけ。

 ――どんな時も、私が迷ってたら、見守りながら、ヒントを与えてくれてた。


「世界の概念を変えるのが錬金術なら――」


 リュックから小瓶を取り出して、指に三つ挟む。

 さらにもう片方の手には――アシュレイがお祝いで渡してくれた錬金術で使用する器具の一つ、フラスコが握られていた。


 一見、一般的なフラスコに見えるがガラスに濁りはなく、ほぼ透明。

 形も均等で寸分の狂いのない丁寧な作り。

 

 錬金術師がみれば、超高級器具と思われても仕方ない逸品である。


「できるだけ生かす世界だって選べる――!」


 奇跡的なフラスコへ数々の薬品を放り込み、ツキノはそっと薬品を振ると――それは黄金色を放ちだした。

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