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おっさん修理士は辺境で孤児を育てる ~成長中の娘たちが使う武具も道具も伝説級になっていく~  作者: ひなのねね


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第25話

「姫様、あれほど剣は城に置いてくるようにと言ったではありませんか!」

「私が離れないんじゃないの、《《剣が私を離さないのよ》》!」


 アリスはイタズラがバレても反省しないタイプのようで、リリィの叫びを振り切って、強く土を踏み込む。


 ――早い!


 エミリアが驚く間もなく、接近するハンティングベアーに向かって、片手剣を突き刺す。


「「ぐぉおおおおおおぉぉ!」」

「この大きさを相手するなんて初めて――ああ、楽しくて仕方がありません!」


 一突きするたびに、熊の至る所から鮮血が四方に飛び散る。

 たったの一撃で、5発撃ちこんでいるのだ。


「さあ、捕まえてごらんなさい、可愛い森の熊さん?」


 恍惚とした表情を浮かべながら、熊の剛腕を避け、蝶のように舞う。


 驚異的な跳躍力でハンティングベアーの頭上を飛び越え、背後へと音もなく着地する。


 ――うう、ああは言ったけど、私の出番はないかも!?


「あの名匠スレイが打った名剣"スワロウテイル"の錆にして差し上げますわ」


 演舞のようにその場でステップを踏み、遠心力を切先に乗せて、熊の心臓目がけて体重を乗せる一撃を放つ――。


 ガキィィン!!


「なっ!?」


 鋼鉄すらも突き破るアリスの一撃を半透明の障壁がハンティングベアーを守っていた。


「マ、マジックシールドですの!?」


 驚いてエミリアを見やると、短杖を構えて呪文を詠唱した後だった。


「エミリア、何をしてますの!

 とどめを刺せましたのに!!」


 その場で地団太を踏んで、エミリアは子どものように大声をあげる。


「そこまでやる必要はないよ、アリス!」


 エミリアはいつの間にか手にリンゴを持っていた。

 自身の旅鞄から取り出した非常食である。


「この子はお腹を空かせてるだけだよ。

 ほら、もっとあげるから、もう暴れなくていいよ?」


 さらに客車からリンゴを胸いっぱいに抱えてエミリアは飛び出して、脇道へと放り投げた。


 ハンティングベアーも空気が変わったことに気が付いたのか、「ぐるる」と小さく唸り、のそのそとリンゴへと向かう。


「ヒール!」


 軽く杖を振ると、流れ出る血が止まり、アリスが付けた傷が塞がっていく。


「え、む、胸の傷すら治ってますわ!?」


 成り行きを見守っていたアリスは、熊の胸元の傷すらも消える光景を目の当たりにして、片手剣をだらんと垂らした。


 もう戦意はない。


 むしろエミリアが持つ魔力に――いや、それ以上に彼女の特性を最大限に無駄なく引き出したあの杖に驚きを隠せなかった。


「もう人里には降りてこないでね、熊さん!」


 エミリアの言葉を理解したのか、熊はぺこりと頭を下げてリンゴを抱えて森の奥へと消えていく。

 

「子どもたちとおいしーなーしてもらえたら嬉しいな。

 うちで育てた美味しいリンゴだから、えへへ」


「随分と無茶をしましたわね、エミリア」


 知らぬ間に投げた鞘を拾って片手剣を収めると、手品のように再び剣が手元から消える。


「木の陰で小熊さんが見えたからね。

 それに人里に動物が降りてくるのはよくあるから」

「まったく……本当に危ないときは、斬らせてもらいますわよ」

「そうならないように、みんな仲良くできたらいいね」


 詭弁ではなく心の底から思うように、エミリアは笑った。

 深い森に珍しく差し込んだ木漏れ日もあってか、金髪の髪が輝く。


「エミリア、貴女、女神のよう――ね」


 ――それに比べたら私は、まるで。

 アリスは一瞬だけ唇を噛み、客車へと戻る。


「お疲れ様です、姫――お嬢様」

「リリィ、もうバレてるわ。エミリアの前で隠す必要はない。」

「承知しました、姫様」


 何がばれているのだろう、と当のエミリアはきょとんとする。


 ――姫様と呼ばれてるようだけど、メイドさんにそう呼ばせてる人もいるだろうし。まさか本当にお姫様がこんなところにいるはずもないもんね。


 それに森の奥で剣を振り回して、熊を倒そうとするなんて。

 それは姫ではなく騎士の姿だ。

 リーンベルが寝る前に呼んでくれた絵本にはよく出てきたっけ。


 進みなさい、とリリィが御者へ声を上げ、馬車は再び進みだした。


「エミリア、まさか、既に治癒術が使えるなんて驚いたわ」

「えへへ……父さんに基本を教えてもらったんだ」

「それにその聖具と短杖――ただの武装とは思えませんわ」

「そうなの? 旅立つときのお祝いだけど、役に立てて良かったよ」

「まったく、底が知れません」


 呆れてアリスは首を振る。


「アリスの剣技も凄かったね、あんなに早く動ける人、初めて見たよ」

「隠れて練習しましたからね。

 いつになっても頼れるのは己の力――それにこの剣と巡り合えたのもあります」


 取り出した剣の鞘を優しく撫でる。


 それならなぜ剣士にならないのだろうとエミリアは思ったが、事情は人それぞれと納得する。


「名匠スレイが作り出した伝説の一振り。

 まさか修理されて露店で売られていたなんて」

「へえ、露店で売られてたんだ」

「隠れて庶民のお祭りに小さなころ行ったのよ、出会えただけで運命ですわ」

「ロマンチックだね、いいなあ、私も運命、感じてみたいかも。なんかカッコいい!」


「運命、それは今の私たちのことを言いますのよ」


 揺れる馬車の中、そろそろセントビショップ教会の赤壁が見えてきた。

 これから3年間、アリスとエミリアは共に過ごすこととなる。


「改めてよろしくお願いします。

 私はアリスディール」


 白く小さな手を差し出され、エミリアはしっかりと握り返した。


「私はエミリア、治癒師を目指してるの。

 よろしくね、アリス!」

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