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おっさん修理士は辺境で孤児を育てる ~成長中の娘たちが使う武具も道具も伝説級になっていく~  作者: ひなのねね


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第17話

 アシュレイの朝は早い。

 陽が昇る前に工房裏の海岸へと足を運び、流れつく素材の回収や壊れたアイテムを収集する。


 人付き合いに疲れ、王都を離れてから日課になっているので辛さは感じない。

 修理をしていると思考がクリアになり、何も考えずに黙々と手を動かせるので、アシュレイは修理の時間が好きだった。


「おはようミルフィ、今日も早いな」

 

 海岸で流れ着いた盾を拾っていると、まだ早いにも関わらず、片手剣と盾を手にしたミルフィが朝練として砂浜に歩いてくる。


 衣服に乱れはなく、動きやすいシャツと短パン姿。

 紫色の長い髪は後ろで一つに結び、褐色の肌が朝日に照らされていく。


「おはよう、父さん」


 軽く挨拶を交わすとミルフィは剣を抜いて素振りから始めた。

 アシュレイのサポートはあるものの、6歳にして独学で片手剣と盾の使い方を鍛錬しているのだから、将来が楽しみである。


「ミルフィ、将来なりたいものとかあるのか?」


 世間話程度にアシュレイは何となく問う。

 彼女は壱点を見つめたまま手を止めずに、


「家族を守れるなら、何でもいい」


 と、いつもの返答だった。


「そうか。なら、ミルフィには剣と盾を準備しておこう」

「――あ、ありがとう」


 ハッキリとなりたい職業を口にしていないのに、欲しいものを当てられて未来の剣士は頬を赤らめた。

 この辺りはまだ幼い少女である。


 ミルフィはここから走り込みや森の中で反射神経の訓練を繰り返すので、アシュレイは見学もそこそこに砂浜を後にした。


 ――本当にあの子は身のこなしが良い。

 ――彼女に見合う武装の素材を徐々に集めて行かなくては。


 工房へ持ち帰ったガラクタをまとめると、次は朝食の準備だ。

 数年前にリーンベルが3人を連れて来た時から飯の準備はアシュレイがしている。


 キッチンへと足を足を運び、食品を保管している貯蔵箱を開ける。

 この貯蔵箱はアシュレイの工夫で、ひんやりとした冷気が流れ出る。


 直接氷を入れることで食品を冷やして保つことも出来るが、氷魔法を封じた魔石を内蔵することで冷却効率を高めている。


 ――我ながら魔石を内蔵したのは良い考えだ。さらに効率を改善すれば、夏でも氷菓子が食べられそうだ。


 中から卵とベーコンを取り出し、ついでにレタスやトマトも手に取る。


 慣れた手つきでサラダの準備から始めると、エミリアが青いワンピース姿でキッチンへと顔を出す。

 

「おはよう、アシュレイさん!」

「おはよう、エミリア、今日も元気だな」


 ゆるふわの金髪は差し込む陽を反射して黄金色に輝く。

 青い目は今日も好奇心に満ちていて、見ている方も元気が湧いてくるようだ。


「たまごから焼くね、ベーコンも任せて」


 エプロンをして腕まくりをするエミリアはとても頼もしい。

 彼女は物心ついたころからアシュレイの家事を手伝ってくれる最高の相棒だ。


「アシュレイさん、いつもお料理ありがとう。

 今日のドレッシングはどうやって作るの?」

「これは酢と砂糖と塩、あとコショウとオリーブオイルを混ぜるとできる酸っぱめのドレッシングだな」

「待ってね、メモするから」

 

 目玉焼きを丁寧に焼き上げた後、『エミリア専用メモ帳』に食材をメモした。

 調理師の元で修業をしたことがあるアシュレイの知識を素直に吸収して、翌日には活かしているのだから彼女の吸収力は予想を遥かに超える。


「あれから薬草は順調に育っているかい?」

「うん、アシュレイさんに言われたとおりにお水をあげて、毎日お祈りをしてるから、みんな元気だよ!」

「薬草を育てるには綺麗な水と上質の魔力も必要になるからな。

 エミリアが手塩にかけて育てたから応えてくれたんだろう」

「そ、そうかな、えへへ」


 もじもじしながらエプロンの裾を掴む。

 

「これなら治癒師の道を歩むのもそう遠くないな」

「早く治癒魔法を一杯覚えて、誰が怪我しても治せるようになりたいね」


 今はアシュレイが簡単な基礎の治癒魔法と薬草で怪我を癒している。

 特にリーンベルはドジで怪我をしやすいので、エミリアが居ればアシュレイが家を離れていても安心だろう。


「エミリアは優しいな。

 いつか来るその日のために、治癒具を準備しておこう」

「ほんと? やったー!」

  

 エミリアはその場で跳ねて嬉しさを抑えきれないようだった。

 素直で元気、それが彼女のもっとも良いところだ。


 朝食の準備が整うと朝練の後に水浴びしたミルフィが席に着き、エミリアも隣に座る。


「おっは」

 

 するといつの間に身支度を整えたのか、黒髪ストレートのツキノが着席していた。

 今日もフリルが付いたドレス姿なので、まるでどこかの貴族のお嬢様のようである。


「お、おふぁよぅござあぁぁます」

 

 最後に寝室から顔を出したのは、寝間着姿のリーンベルだ。

 少し癖のある金髪は寝ぐせで深い森のように荒れ、まぶたは重く、足取りはゆるやかだ。


 10代の年頃の少女――さらに言えばシスター見習い(元)が教会で、一番最後に起きて身だしなみを整えていなければ神の雷が降りる者だが、アシュレイは特に気にしていなかった。


 ――リーンベルはいつもこの子たちに勉強を教えている。

 ――毎晩夜遅くまで、自分が復習したり、分かりやすいようにポイントをまとめたり、俺にはできないことだ。


 リーンベルはおっちょこちょいだし、早とちりもするし、ドジも踏みやすい。

 だが子どもたちと親身に触れ合い、優しく見守り、母親代わりとして彼女なりに頑張ってる姿は、アシュレイにも力を分けてくれた。


「わあ、今日の料理もすごいねえ。

 アシュおじさん、エミリア、ありがとう」


 リーンベルが微笑む笑顔は陽の光のように温かい。

 5人は手を合わせて、穏やかな談笑をして朝食を楽しんだ。


 毎朝の朝食が終わると、リーンベル先生の授業がお昼ごろまで開かれる。

 一番近い学校は山間の村だが片道2時間もかかる険しい道なので、これからも村に通う予定はない。


 その間にアシュレイは家や工房の修理を行い、自家農園の世話をする。


 そしてお昼ご飯をエミリアと作り、誰もが自由時間として過ごす、正午の穏やかな時間。


 工房で趣味の修理を進める。

 壊れた剣や盾を修理する日もあれば、家具や魔導機械を修理する日もある。


 今日は錬金術を用いて薬剤の制作と強化をすることにした。

 収穫の秋のうちに、品質の良い野菜を収穫する作戦だ。


 錬金釜に薬を垂らして、何度か自己アレンジをしながら研究を進めていると背中に視線を感じた。


「ツキノか」

「ばれた」


 ツキノの手には野バラが一凛。

 真赤だが、半分枯れてしぼんでいる。


「今日はバラの研究かい?」

「復活させる」

「成果を見せてもらおうか」


 アシュレイの言葉にツキノはふふんと自信ありげにバラを机に置いて、スカートから取り出した液体を一滴垂らした。


 すると青白い光がほんのり薔薇の蕾を包み――鮮やかな深紅が徐々に戻りつつある。


「へえ、錬金術による薬品強化。よく作れたね」

「アシュレイさんの、見てた」

「ツキノは頭が良いな、どんな物事もすぐに理解して同じものが作れる」

「じゃあ、エミリアが薬草鉢を壊しても、ミルフィが剣を折っても直せる?」

「もちろんだ、ツキノの想いが実現できるように最高の道具を作っておこう。

 大事な仕事をするなら、信頼できる工具が必要だ」


 ツキノはアシュレイの言葉を聞いて目を輝かせ、ふんわりと腰に抱きついてきた。

 天然なところもあるが、家族を想う気持ちは皆と同じだ。

 

 こうしてアシュレイと4人の少女たちの毎日が進んで行く。

 目指すものを見つめ、幼くとも手を伸ばし続ける。


 季節はゆるやかに気温を下げ、やがて厳しい冬が足音を忍ばせて近づいていた。


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