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おっさん修理士は辺境で孤児を育てる ~成長中の娘たちが使う武具も道具も伝説級になっていく~  作者: ひなのねね


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第10話

 夏の強い陽射しが工房の窓から差し込み、海風が白いカーテンを揺らした。

 エミリアが汗を拭いながら駆け寄ってくる。


「アシュレイさん、海に行きたいっ!」


 つぶらな青い瞳がきらきら輝いている。

 背中まで伸びた金色の髪が揺れ、頬はうっすら赤く染まっていた。

 後ろからツキノとミルフィも小走りで追いついてくる。


 ツキノは黒色のストレートヘアが陽光を反射して、細い肩を小さくすくめていた。

 透き通るような白い肌はすぐに日焼けしそうで、茶色がかった瞳が不安げに揺れる。


 ミルフィは三人の中で一番背が高く、落ち着いた雰囲気。

 今日は紫色の長い髪を三つ編みにしており、盾を胸に抱えたまま無言で頷いた。

 日焼けした健康的な小麦色の肌が、夏の日差しによく似合う。


「海か、じゃあ水着が必要か」


 アシュレイがぼそりと言うと、子供たちは一瞬ぽかんとした後、歓声を上げた。


「おじさん、水着作れるの!?」

「意外」

「……戦闘用?」


「俺を何だと思ってるんだ。

 リーンベル、採寸だけ頼む」


 少し離れた場所で見ていたリーンベルも、驚きを隠せないように口元を手で隠していたが、慌てて駆け寄る。


 今日のリーンベルは栗色のロングヘアを後ろでひとつに束ね、白いワンピース姿。

 シスター見習いらしい清楚さは漂うが、足取りはどこかドジっ子らしい危なっかしさがある。


「わ、わたしでいいの?」

「縫うのは俺がやる」

「は、はいっ!」


 採寸室のカーテン代わりの布の後ろで採寸が始まると、エミリアは元気よく両手を広げた音が聞こえた。


 ツキノは髪を指先でいじりながら身をすくめ、ミルフィは測られてもまったく動じず、仁王立ちだったらしい。


 リーンベルが柔らかい声で「動かないでね」と言いながらメジャーを回し、細部を計った。

 リーンベルは慎重にメモを取ったようで、アシュレイに差し出す。


「これでいいかな?」

「ありがとう、十分だ」


 工房の机に、夏色の布が広げられる。

 ひまわり色の柔らかな布には可愛いフリルを。

 海を思わせる青い布には、白いリボンをあしらう。

 純白の布には剣と盾の刺繍をワンポイントとして縫い付けた。


 アシュレイの太い指が器用に針を動かす。

 布を摘み、縫い目を整え、糸が走るたびに形が生まれていく。

 その動きは、長年工具を扱ってきた職人のそれと同じ、迷いのない精緻さだった。


 見守るリーンベルが目を丸くする。


「まさかアシュレイさんがこんなに上手いなんて……」


 エミリアは完成したワンピース型の水着を見て、頬を紅潮させた。

 胸元には小さな貝殻の飾り、裾には波のようなフリル。


「すごいっ! お姫様みたい!」


 ツキノ用のセパレートは、肩にふわりとしたリボンが揺れ、彼女が試着すると、透き通る肌に青が映えて、恥ずかしそうに頬を赤く染めた。


 ミルフィの水着は動きやすいショートタイプで、真っ白な生地に剣盾の紋章が銀糸で刺繍されている。

 試着した彼女は盾を胸に抱きしめ、真剣な顔で小さく呟いた。


「戦える」

「今日は盾は置いて行こうね……」


 リーンベルのツッコミに、アシュレイは思わず笑みをこぼした。


「リーンベルのも作るか?」


 念のために聞いてみたが、リーンベルの顔は紅葉のように染まり頭から湯気が噴き出しそうだ。


「そういうところですよ、アシュおじさん!」


 どういうところだろうと、アシュレイは首を捻ったが答えは何処からも出てこなかった。


 海辺に着くと真っ白な砂浜と蒼い波が広がっている。

 子供たちは靴を脱ぎ、歓声を上げて砂浜に駆け出す。


「つめたーい!」

「……きもちいい」

「波に負けられない!」


 エミリアは水しぶきをあげて走り回り、ツキノは貝殻を集め、ミルフィは盾を砂に突き立てて波と対峙するように立っていた。


 その時、沖合に浮かんでいた小さなボートが、破損で動かないのを見つける。

 さらに桟橋も板が外れて危険な状態だ。


「……少し危ないか」


 アシュレイは工具を取り出し、流木を削って桟橋の欠けた部分を補強。

 腐った柱は切り出した木材で作り直し、基礎は錬金術で岩を固めて固定した。

 ボートの船底は裂けていたが、錬金術で繊維を繋ぎ、防水加工を施す。


 ほんの数時間で桟橋は新品同様、ボートも安全に漕ぎ出せるようになった。


「おじさんすごーい!」

「……じょうず」

「防水加工、今度、私の盾にもやって」


 エミリアたちは桟橋から海へ飛び込む勢いで遊び始め、リーンベルはワンピース姿で日傘の下から歓声をあげた。


「アシュおじさん。今日はありがとうございました。

 水着も作ってくれて……みんな本当に楽しそう」

「大げさだ、このくらいなら」


 夕暮れ時、浜辺に焚き火が組まれた。

 アシュレイが用意したのは、香草で漬けた猪の串焼き、海で採れた貝をワイン蒸しにしたもの、自家農園サラダと、自家製の焼きたてパン。


 香ばしい匂いに子供たちの目が輝き、みんなで串をかぶりつくと、笑い声が夕焼けの浜辺に響いた。


「これ、おいしいい!」

「美味」

「エミリア、ツキノ、お肉は私が貰うからね!」

「まだまだ焼くから、落ち着いて食べて良いぞ」


 アシュレイもつい笑ってしまう。


 夜。

 星が瞬き、波が静まると、アシュレイが小さな筒を取り出した。


「試しに作ってみたんだ。耳は塞いだ方が良いかもな」


 火をつけると、火薬が空へと昇り、夜空に大輪の光が咲いた。

 赤や青の火花が散り、海面に反射してきらめく。


「わぁぁぁっ!!!」

「……きれい」

「火薬ってこんなことも出来るんだ」


 エミリアがツキノと手を取り合い、ミルフィも珍しく小さな笑みを見せた。

 リーンベルはその光景を見ながら、アシュレイに小さく囁く。


「いつまでもこうして、ここで過ごせたら良いですね、アシュおじさん」

「――ああ、そうだな」


 花火の光が、各々の笑顔を照らし、夏の夜風がやさしく頬を撫でていた。

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