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第四話 自由と責任

 環状道路の作業は、順調に進んでいるように見えた。

 だが現場は日に日に街から離れていく。

 その分、移動に時間がかかり、作業時間は少しずつ削られていた。

「そろそろ戻らないと、遅くなりますね」

 蒼の言葉に、作業員の一人が頷く。

「そうだな。今日はもう上がるか」

 まだ空は明るかったが、作業はそこで切り上げられた。

 一行はトラックに道具を積み込み、街へと向かう。

 蒼は護衛として、周囲の警戒を続けながら歩いていた。

 やがて――

 日が暮れ始めた頃、遠くに城壁の姿が見え始める。

 その時だった。

 東の空に、小さな影が見えた。

「あれは……ヘリか?」

 蒼が目を細める。

「あんなに遠いのに、よく見えるな」

 作業員が感心したように言った。

「今日だったのか……外来魂の受け入れ」

 空を見上げる作業員たち。

 魂楽界間の移動は、ヘリによって行われる。

 その機体が今、城壁のヘリポートへと向かっていた。

 そこへ――

 黒い影の群れが、一直線に飛んでいく。

「クロ……」

 蒼が呟く。

 おそらく、外来魂の正式な手続きのためだろう。

(またデータが増えるんだな)

 蒼は苦笑する。

(紗羅は文句を言いそうだな)

 そんなことを考えながら、城門をくぐった。

 すると――

「待っていたぞ」

 門の近くでクロが立っていた。

 その隣には、見慣れない男がいる。

 屈強な体格の外来魂。

 その姿は、この街では明らかに異質だった。

「クロ……隣にいるのは?」

「蒼。こいつはヴィクターだ」

 クロが紹介する。

 ヴィクターと呼ばれた男は、四十代ほどの顔立ちだった。

 迷彩柄の上下の服。

 そして――

 全身に武器を装備していた。

 背中には巨大な大剣とランチャー。

 腰には剣。さらに複数の武器が装着されている。

 蒼は思わず目を見張った。

「俺以外に……武器を持てる魂がいたのか?」

 この魂楽界では武器の所持は禁止されている。

 街を守るのは城壁と砲台。

 管理者であるシロの設備のみ。

 武器を持つ魂は――蒼だけのはずだった。

 ヴィクターは蒼をじっと見つめる。

「お前が蒼か。カラスから聞いていて興味があったが……」

 視線が蒼の装備へ移る。

「それが他人の余命力を使う武器か?」

 蒼の剣と銃を指差した。

「そうだけど……」

 蒼は首を傾げる。

「その言い方だと、違う武器もあるのか?」

 ヴィクターの全身を見ながら聞いた。

 すると男は、肩をすくめる。

「俺たちの武器は自命の武器だ」

「自命……?」

「自分の余命を、武器に変えている」

「え?」

 蒼は言葉を失う。

 そんな発想は、この魂楽界には存在しない。

 ヴィクターは鼻で笑った。

「最初はな。他人の余命を使うって聞いて、舐めた魂かと思ってた」

 蒼の全身を観察するように見る。

「だが……」

 わずかに口角を上げた。

「悪くない顔つきだ。特異体質ってのも嘘じゃないみたいだな」

 そう言って右手を差し出す。

「あ、あぁ」

 蒼も手を出す。

 がっちりと握手を交わす二人。

「ヴィクターだ」

「蒼です」

 武器を持つ魂同士――

 初めての対面だった。


 ヴィクターは蒼の持つ零命剣を見ながら、低く言った。

「他人の余命は、重いだろ?」

「そうですね」

 蒼は剣の柄を軽く叩く。

「あなたの武器も、相当重そうだ」

 ヴィクターは小さく笑う。

「俺の命はな。俺以外には重いだろうな」

 蒼は改めてヴィクターの全身を見る。

 大剣、剣、ランチャー――

 だが不思議なことに、余命力を使っている気配はない。

 その視線に気付いたのか、ヴィクターが口を開く。

「だから俺の魂楽界じゃ、ほとんどの魂が武器を持つ」

「え?」

「自由だからな。護身用の武器を持つことが許されている」

 その言葉には、蒼のいる魂楽界とはまったく違う思想が感じられた。

「自由……」

 蒼が呟く。

 するとヴィクターは、わずかに首を振った。

「勘違いするな」

 その声は落ち着いている。

「自由ってのは、何でも出来るって意味じゃない」

 蒼を見る。

「自分で行動を決められるってことだ。そして――」

 一拍置く。

「その結果に責任を持つってことだ」

「責任……」

 蒼は言葉を繰り返した。

 その言葉には妙な重みがあった。

 するとクロが口を挟む。

「こいつは五年前に壊滅した街の生き残りだ」

 ヴィクターは特に否定しない。

「俺はその責任を取る方法を、今も探して動いている」

 静かな声だった。

 だが、その奥には強い意志があった。

 クロが続ける。

「魂の選別には賛否がある。だが――」

 黒い羽を揺らしながら言う。

「我々、神の使者が現世をモデルに定めた理だ。そう簡単には変えられないだろう」

 ヴィクターの拳がわずかに握られる。

「選別なんて認められるか」

 低い声。

 だが――

 すぐに視線を落とした。

「……だが、その代償はあまりにも大きすぎた」

 一瞬だけ。

 過去の絶望を思い出したような表情を見せる。

 蒼は何も言えなかった。

 ヴィクターが背負っているものの重さが、伝わってきたからだ。

 その後、クロから説明があった。

 ヴィクターは外来魂ではない。

 外来魂を運ぶヘリの護衛として、この魂楽界へ来ているらしい。

 ヘリの整備に時間がかかるため、一週間ほど滞在する予定だという。

 蒼と同じホテルに泊まるらしい。

 ホテルに着く頃には、クロはすでに中央街へ飛び去っていた。

 ロビーでヴィクターが言う。

「俺は一週間ほど滞在する予定だ」

 腕を組みながら蒼を見る。

「何かあれば言え。知りたいこともありそうな顔をしてるからな」

「まぁ……何かあれば頼るよ」

 蒼は曖昧に笑った。

(知りたいこと……)

 胸の中で呟く。

(聞けないよな)

 不法滞在の魂のこと。

 もしヴィクターが関係しているなら――

 クロが黙っているはずがない。

(……考えすぎか)

 二人はそれぞれの部屋番号を教え合い、別れた。

 蒼は自分の部屋へ向かう。

 ドアを開けると――

「ただいま」

「おかえり、蒼」

 テーブルでノートパソコンを操作していた紗羅が振り向く。

 ミチルの姿が見えない。

 と思った瞬間――

「おーかえりー!」

 バルコニーから勢いよく飛び込んできた。

 ドンッ!

 そのまま蒼に体当たりする。

「ぐっ!」

「ミチル……」

 蒼はため息をつく。

「外見は大人の女性なんだから、落ち着けないのか?」

「大人しくしてたよ〜」

 ミチルは笑顔で答える。

 その瞬間、紗羅が即座にツッコミを入れた。

「一瞬だけね」

 蒼は天井を見上げた。

(……想像できるな)

 ミチルが部屋中を走り回っている姿が、容易に思い浮かんだ。


 蒼はヴィクターとの出会いを紗羅に話した。

 外来魂移送の護衛。

 武器を持つ魂。

 一週間ほどの滞在。

 そして――クロの紹介であること。

「その男が、私たちと同じホテルにいるのね」

「あぁ」

 蒼は頷いた。

「だから紗羅のデータベースにはいないが、不法滞在じゃないってことだな」

 紗羅は腕を組み、少し考える。

「クロは何か言ってなかったの?」

「何かって?」

「……ホテルについて、とか」

 蒼は首を傾げた。

 だが紗羅の表情は、どこか引っかかっているようだった。

 本来なら先入観は禁物。

 それは自分で戒めたはずだった。

 それでも――

 紗羅の直感が、それを許さなかった。

「ホテル……調べられないかな?」

「今からか?」

「ママに施設を全部案内してもらうの」

 紗羅の視線は真剣だった。

「怪しいのは、案内されない場所……」

 蒼は一瞬、言葉を失う。

「紗羅……まさか紗彩さんを……?」

「違うと信じたいわね」

 紗羅は静かに答える。

「でも、ホテル全体が隠れ蓑になっているなら……」

 一瞬、視線を落とした。

「関わっていても、おかしくはないわ」

 その声は冷静だった。

 だが――

 手が、わずかに震えていた。

「蒼も来てほしい」

「……分かった」

 蒼はすぐに頷いた。

 不測の事態への備え。

 それもある。

 だが、それだけではないと蒼は感じていた。

 もし――

 最悪の事態になった時。

 紗羅は一人ではいられない。

 その無意識の想いが、蒼の同行を求めているのだろう。

「どこか行くの〜?」

 バルコニーからミチルが顔を出した。

「あぁ。紗彩さんにホテルの案内をしてもらうんだ」

「わ〜い!」

 ミチルはすぐに喜ぶ。

 対照的に、紗羅の表情は浮かない。

 紗羅はホテルの電話で紗彩へ連絡を取った。

 フロントを通して繋いでもらい――

 しばらくして、部屋のドアがノックされた。

「紗羅?」

 ドアを開けると、紗彩が立っていた。

「ホテルの案内ね。広いものね、ここのホテル」

「ママ、ありがとう」

 三人は紗彩の案内でホテルの中を歩き始めた。

 レストラン。

 ラウンジ。

 会議室。

 施設はかなり広い。

 すべてを見るには、今日だけでは足りないほどだった。

 その途中で蒼が尋ねる。

「紗彩さんは、五年前にこちらへ来たって聞きましたけど……」

 少し言葉を選びながら続ける。

「やっぱり街の崩壊が原因なんですか?」

 紗彩は少しだけ微笑んだ。

「元いた魂楽界は……自由だったの」

「自由?」

「ええ」

 紗彩はゆっくり歩きながら続ける。

「私も十二年くらい暮らしたけれど……苦しかったわね」

 紗羅が振り向く。

「苦しい?」

「ええ」

 紗彩は胸――

 心臓があった場所に手を当てた。

「でも、自由に出来るほど……多分、私には余命力がなかったのよ」

 少し寂しそうに笑う。

「それに……」

 視線を落とした。

「責任の代償を払う余命力も……」

 静かな廊下に、その言葉が落ちた。

「きっかけは街の崩壊だったけど」

 紗彩はゆっくり息を吐く。

「私は……」

 そして、小さく呟いた。

「本当は、あの魂楽界を早く抜け出したかったの」

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